好きな人

こんなにも、誰かのことが頭から離れなくなるなんてこと、いままでなかった。
なにをするにしても、つい、あいつと･･･和希と一緒に、なんて考えてしまう。

友達だから？
MVP戦のパートナーだから？
転校したての俺に親切にしてくれたから？
俺のこと、守るっていってくれたから？

和希と一緒にいると楽しいからとか、他に親しい友人がいるわけでもないからなんて理由じゃない。
食事だって、別に誰と食べたっていいんだ。
和希じゃなくたって、一緒に食べる相手なんている。
教室の席だって、別に隣同士に座る必要なんてないんだ。
二人で並べる場所を探すより、もっと黒板のみやすい場所に一人で座ったっていい。

でも、俺は、和希のそばにいたいって思ってる。
和希と一緒にいたいって思ってる。
ふと空いた時間に、和希がいないとさびしいとさえ感じる。
一緒にいたらいたで、今度は別れるのがさびしいと思ってしまう。

俺は特別人恋しい人間じゃないはずだ。
みんなでワイワイいるのはそりゃ楽しいけど、だからといって誰か一人にこんなに･･･執着するなんて。

俺は、和希と一緒にいたいって、それだけなんだ。
他の誰かとみんなではなく、和希にいてほしいんだ。
俺は和希のことが好き･･･だから。
和希がそばにいてさえくれれば、それだけで･･･いいんだから。

「和希ってほんと･･･いいヤツだよな。おまえに出会えて、本当によかったって思ってる」
「啓太･･･」
俺の言葉に、和希は嬉しそうに微笑む。
俺はそれで満足する。
俺の、和希のことが好きだって気持ち、これで十分伝わってるよな？
俺には和希が必要なんだって、和希のことが大切なんだって、そんな気持ち、ちゃんと伝わってるよな？

"好き"と言ってしまえたら、楽なのかもしれないけれど、
なんだかそれじゃ、違う風に･･･恋愛感情ととられて、気持ち悪がられたりするかもしれないから。
和希におかしく思われないように気をつけて。

こんなにドキドキしてしまっていることは、絶対気づかれないように。