Peanuts Kingdom 学園ヘヴン

心の扉

この人生を、うとましく思ったことはない。
不満に思ったこともない。
将来鈴菱を継ぐ人間として英才教育を受けなければならなかったことを、不足に思ったことなどなかった。 でも、空虚だった。
俺の中は、からっぽだった。
知識を詰め込めば詰め込むほど、俺の心はからっぽになっていった。
何も、感じなくなっていった。
感じる余裕がなかったのか、必要がなかったのか。
欲しいものはすぐ与えられたし、周りには俺を守ってくれる大人が大勢いたから、
感情を爆発させるきっかけすらも与えられなかった。
俺はただ日々をたんたんと過ごしているだけに過ぎなかった。
ただ、鈴菱の後継者となるべく、成長していくだけ。
そういうものだと、理解して納得しているつもりだった。

「おにいちゃん、なにしてるの?」

突然、俺の心の扉をノックしてきた小さな啓太。
俺はびっくりして、どう処理したらいいのかわからなくて、ひどくとまどってしまったけれど。
からっぽになってしまった俺の心に、ありとあらゆる感情が流れ込んできた。
とまどい、おどろき、よろこび、いかり、かなしみ、やすらぎ・・・
くるくる表情が変わる啓太をみていると、自分がいかに感情を失っていたかよくわかった。

俺はこんな風に笑えない。
俺はこんな風に喜べない。
でも。
俺は啓太を笑わせることができた。
俺は啓太を喜ばせることができた。
誰に教えてもらったわけじゃない、俺自身の力で・・・嬉しかった。

啓太の笑顔が、俺の幸せだった。
啓太と過ごす時間が積み重なっていけばいくほど、俺の中は幸せで満ちていった。

何年もの時を経て、俺はまた啓太とともに過ごす時間を手に入れた。
そんな力を手に入れることができたことには感謝してる。
俺がいまこうして啓太と一緒にいることができるのは、俺の周りの人みんなのおかげだ。
けれど、この暖かな気持ち・・・幸せだという実感は、やっぱり啓太にしか与えられないものだ。

「和希、なにしてるんだ?」
「えっ、あ、ああ、ちょっとぼーっとしてた」
啓太は今も、俺の心の扉をノックし続ける。
とうの昔に啓太に開けられた扉の、そのまた向こうのもう一つの扉を。
自覚してしまったら、きっと苦しむことになるに違いないのに、それでも。
風にあおられ乱れた髪に無意識に手を伸ばす。
指先に触れたなめらかな髪の感触に、啓太に与えられた大切な気持ちがこみあげてくる。
愛しい、と。
「髪、ずいぶん元気なことになってるぞ」
動揺してしまっていることを悟られまいと、冗談めかしてそう言うと、
啓太は昔と変わらぬ無邪気な笑顔をみせた。

お題 【 4.どうか私を満たして下さい】
・・・ちょっとお題とずれてしまった感が。MVP戦前設定で。
小さい啓太を愛しく思う気持ちは万人に理解されるところですが、
大きくなった啓太に恋心を抱いてしまうのはなぜでしょう?
啓太→和希:頼りがいのあるちょっと大人びたところもある親友
和希→啓太:昔と変わらず全幅の信頼を寄せてくれる可愛い子
・・・ああ、こりゃ恋におちるわ(笑)
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