Peanuts Kingdom 学園ヘヴン

夕焼け

聞きなれたメロディを携帯が奏でる。
画面をみなくてもわかるように、啓太からのメール専用着信音。
キーボードをたたく手をとめて、メールをチェック。

『外でてみて』

外?
窓に目をやると、少しあかみがかった光がもう夕暮れどきであることを気づかせる。
外って、この部屋のベランダのことかな。
椅子から立ち上がり、窓をあけ、ベランダに出てみる。
目の前に広がるのは、見事に染まった夕焼けの景色。
街がオレンジ色に輝き、海は黄金色に光っている。
まぶしい光景に目を細めると、また、携帯が鳴った。
今度は啓太からの電話の着信音だった。
『和希?』
「啓太。外出たぞ」
『うん。ね、すごい夕焼けだろ』
「ああ、すごいな・・・おまえ、どこにいるんだ?」
『寮に帰る途中の道。すごい夕焼けだったから、和希にもみせたくてさ』
「こっちに戻ってくる途中の道?・・・もしかして、おまえ、俺のことみえてるのか?」
『ああ!和希が外出てきたの、わかったから電話かけたんだ』
嬉しそうに啓太の声が弾む。
向こうから俺のことがみえているということは、俺のほうからも啓太がみえるはずだけど・・・
「えー?どこにいるんだ?」
『和希、きょろきょろしてるの、みえるぞ』
「うっ・・・」
なんかこういうのって、気恥ずかしい。
無防備にベランダに出てしまったけれど、俺、変な格好とかしてないよな?
携帯の向こうで啓太がくすくす笑っているのがきこえてきて、
俺はため息をついて、ベランダの柵に頬杖ついた。
「なーに笑ってんだよ」
『だって、なんかおかしくって。こうして電話ではつながっているのに、
俺からは和希のことがみえているのに、和希は俺をみつけられない、なんてさ』
「だからっていつまでそうして隠れているつもりだ?
ま、木陰からこっそり俺のことをみつめていたい、っていうのは嬉しいけど」
『なっ、なに言ってるんだよ!』
濃さを増していく赤い景色のどこかに、啓太がいる。
そして、俺を見つめている。
視線も、言葉も、意識も、すべて俺にむけられていると思うと、悪い気はしないな。
俺はふいと視線をそらし、沈んでいく夕日に目をむけた。
海から吹いてくる潮風が、頬をなでていく。
金色の光がまぶしくて、目を閉じる。
『・・・和希?』
「・・・・・・」

俺はここでこうしておまえのことを待ってるよ。
おまえのことを想いながら、おまえの声をききながら。
目を閉じて、啓太の姿を心に描く。
きっと、こうして夕日に照らされ、風に身を任せる俺を、見つめているであろう啓太の姿を。
言葉にのせることが叶わぬ想いなら、
せめて、この頬をすり抜ける風に乗って、啓太のもとへと届けばいいのに。
けれど、今は。

「・・・・・・啓太、ハラ、へった」
『・・・っ?!』
「早く帰ってこいよ。ベランダからの夕焼けも格別だぜ?そしたら一緒に食堂に行こう」
『うっ、ううう〜、わ、わかったよっ』
プツリと切れた携帯を頬にあて、俺はまた夕日を見つめた。
携帯のぬくもりすらも心地よく感じる。
今、まっすぐに俺のもとへと走ってきているだろう啓太。
幼かったあの日の気持ちにも似たこの感情。
はやく来い、啓太。
そして一緒に夕焼けをみよう。
トクン、トクンと静かに鳴る鼓動が、
やけに大きくきこえた。

お題は「頬をすり抜ける風、それに乗って想いが貴方に届けばいい。」でした。
この設定はなんでしょうね。MVP戦前にも読めるし、友達ED後としても読めるかな。
BL学園の制服を着た和希は夕焼けが似合うと思います。美形バンザイ!
夕焼けをバックに啓太を出迎える和希に、啓太は思わず胸ときめかせたらいいさ!
和啓バンザイ!!
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