Peanuts Kingdom 学園ヘヴン

男子校学生への素朴な疑問

「なぁ、和希」
啓太に呼ばれて、手元の本から目をあげた。
そこにはなにか言いたげな啓太の顔。
子供の頃と変わらぬそんな様子に、自然と笑みも優しいものになる。
「なに?」
「ゲイってどう思う?」
「・・・・・・・・・は?」
テーブルのジュースを口に含む前で本当によかった。
一瞬なにをきかれたのかと、頭がフリーズしたぞ。
この学園には個性豊かな人が多くて、面食らうようなことも多々あるけど、
啓太の言動の破壊力が一番な気がする。
嬉しいかな、悲しいかな、啓太は俺のこと気のおけない親友だと思ってくれているから、
遠慮のかけらもないのがまた俺にとって時に残酷な事態を招くことになる。
この俺が、実はずっと昔から啓太のことを知ってて、
今じゃ庇護欲、なんて言葉じゃ説明できない気持ちの方が大きくなってしまいました。なんて。
これって立派な「ゲイ」だもんな・・・
それプラス「ショタコン」なんて言葉もあるらしいし・・・
あ、でもこの気持ちは啓太に対してのみで、他の小さな男の子に興味があるわけじゃないから、
ショタコンとは違うような気がする!
・・・でもゲイはゲイか。
「和希?」
「えっ、あっ、ああ・・・なんだって?」
「だから。和希はアメリカ帰りだろ?アメリカってそういう方面に理解があるっていうじゃないか。
だから、アメリカに長年暮らしていた和希はどう思ってるのかなって」
「・・・なんだってそんなことききたいんだ?」
単なる興味なんだろうけど、あまりに突拍子もないことだから、つい疑い深げな目でみてしまう。
「まさか、この学園で好きな人ができたとか?」
なーに。まだこんなことを気にするくらいだから、本気じゃないんだろう。
いくらでも巻き返しはきくさ・・・とはいえ、内心おだやかではないから、つい、口調は皮肉めいたものになる。
すると啓太は少しムッとして、俺を軽くにらんだ。
「そんなんじゃないよ!でもさ・・・ほら、結構過度にスキンシップとってくる人とかいるじゃないか・・・」
「・・・あー」
テニス部の主将のことを言ってるんだろう。
「前の学校の友達にもさ、冗談半分にだけど心配されて・・・男子校って特殊な空間だっていうし」
「特殊な空間ねぇ・・・」
まぁ、それで啓太の気持ちが俺に向いてくれたら好都合だけどな。
俺はそもそも環境どうこうで啓太のことを好きになったわけじゃないけどさ。
「それに」
「ん?」
啓太の表情が、少し怒った風になった。
「それに、おまえだって・・・俺にキスとかしてくるだろ・・・っ」
「うっ・・・」
た、たしかに・・・
本当のところ、アメリカでだって、友人とはいえ男にキスなんてあまりしない。
てゆーか、俺だって男からキスされるのなんてゴメンだ。
・・・ということは。
「もしかして・・・おまえ、イヤだったのか?」
「へ?」
「だから、俺にキスされるの」
「っ」
ぼっ、と啓太の顔が赤くなった。
「い、イヤとか、そういうんじゃ・・・てか、び、びっくりするくらいで、俺は別にイヤとか・・・」
「そっか・・・よかった」
「和希・・・」
よかった、と思うと同時に、少し心配になる。
啓太はおひとよしすぎるところがあるから、なんでもプラス思考だから、
なんでも受け止めてしまうおおらかさが仇となることもあるんじゃないかって心配になる。
芯はしっかりしてるから、自分を見失うなんてことはないと思うけど。
「おまえはどうあって欲しいんだ?俺がゲイなのか、それとも、啓太に対してのみなのか」
「えっ・・・それ、は・・・」
啓太の眉間にひっそりシワが寄っている。
結構核心めいた質問だけど、真剣に考えてくれているのだろう。
まだ、啓太の質問にこたえていないことも思い出して、啓太に助け舟を出すつもりで俺は言葉を続けた。
「同性を好きになるってことは、程度の差こそあれ誰にでもあることだと思う。
恋愛となると、プラトニック以上の関係が問題として絡んでくるから、
生理的に嫌悪感をもつ者は少なくないだろう。それはしかたのないことだ。
つねにマイノリティーは差別の対象になりやすいからね」
「それって・・・やっぱり和希はゲイは受け入れられないってことか?」
「そうは言ってないよ。一般論を述べただけだ。
愛情のかたちには人それぞれ、人のいる数だけバージョンがあるだろうってことさ。
俺は、それを否定する気はない。相手に迷惑をかけない限りはね」
だから。
啓太がイヤなら、俺は絶対やめなければならないんだ。
いやがる啓太にこの想いを押し付けるようなことだけは、絶対してはいけないんだ。
いつも自分にいいきかせている決意が頭をよぎる。
俺は啓太に幸せになって欲しいから。
俺なら啓太を幸せにしてやれるって自信はあるけど、啓太がそれを望まないなら、
俺はあきらめる覚悟はできている。
「和希・・・」
「うん?どうした、啓太。妙な顔をして」
「もし・・・もしもしも、俺が和希のことを好きだって言ったら、おまえ、迷惑か?」
「・・・・・・」
「っ!いや!違うっ、そ、そうじゃなくて!その・・・もののたとえの話で・・・っ!」
「啓太・・・」
真っ赤になってうろたえる啓太。
俺は・・・嬉しくて。
たとえ話でも、そんな風に俺の気持ちをはかろうとしてくれたのが、嬉しくて。
すぐにでも抱きしめたい衝動を必死でおさえているから、俺は苦笑するのが精一杯。
「・・・迷惑だなんて思わないよ。啓太なら、な」
「っ・・・おまえ・・・そういうセリフをそんな顔で言うの、反則・・・」
俺がどんな顔で言ってたかはわからないけど、耳まで真っ赤になってる啓太の様子からしてみて、
また一歩、啓太に近づくことができたのかもしれない。

「まぁ、安心しろ。俺はゲイじゃないから」
少し重くなってしまった雰囲気をやわらげるために、笑いながら冗談めかしてそう言うと、
「っ、お、俺だって違うよっ」
と顔を赤くしたままで啓太も元気よく反論してきた。
俺もほっとして、つい、軽口も出てくる。
「でも友達に心配されてるんだろ?成瀬さんにもアプローチされまくりだし。
前の学校でもそうだったんじゃないか?」
「そっ、そんなことはないよ!絶対、ないっ!」
「啓太が気づかなかっただけじゃないのか?おまえ、鈍感なところあるから」
「っ、かーずーきぃ?!」

鈍感な啓太が俺の本当の気持ちに気づく日はくるのだろうか?
俺の気持ちに気づいた啓太は、どう受け止めるのだろうか。
その日のことを考えると、あきらめる覚悟がゆらいでしまいそうになる。
啓太を失うくらいなら、啓太へのこの想いを封じ込めてしまうことはできるけど、
気づかれたことによって啓太を失うことは、耐えられないかもしれない。
「鈍感なところが、啓太のいいところだな」
本心を冗談めかしたセリフにこめる。
啓太はぷぅっとふくれつらになって、俺をにらんでいた。

天真爛漫啓太の破壊力たるやすさまじいものがあります。
そんなギャグものが大好きですv
「バカヤロウEDその後」って感じですかね。
この啓太はどうなんだろー・・・かなり和希に傾いてしまってるような気がします。うふふv
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