Peanuts Kingdom 学園ヘヴン

遠い夏のあの日のように

外で、じーわじーわとセミが鳴いている。
窓から入ってくる風は冷たく心地よく。
しっとり汗をかいている肌をやさしくなでていく。
太陽に焼かれてたちのぼる濃厚な草の香りがする。
「うーん・・・」
と、小さな寝言に目をあけてそちらをみれば、
白いタオルケットを体にかけ、すぅすぅと寝入っている啓太がいた。

そこは寮の和希の部屋。
ひんやりして気持ちいいからと、床に寝そべってのんびりしてるうちに、
昼食の満腹感も手伝って二人を睡魔が襲ってきた。
特に用事はないし、このまま少し昼寝をしようと、
ベッドからタオルケットをおろして二人でかけて眠ってしまったのだ。

寝顔はまだあどけなく、小さい頃の啓太とかぶる。
けれど、すらりと伸びた手足は、まだまだ成長しつづける若木を思わせる。
ずいぶん大きくなったんだな・・・先に目が覚めてしまった和希はひとり微笑む。

ただ守ってやりたいと、そう願っていたただ一人の存在。
それが、それだけでなく、ずっとそばにいて欲しい、愛しい存在となった。
それはひとえに啓太自身の魅力。
こんなに素直ないい子に育ってなかったら、いくら和希だってこんなに惹かれてなかっただろう。

「無防備な顔をして・・・」
和希は苦笑してひとりごちる。
まぶたにかかっている前髪をそっと指ではらってやると、啓太の長いまつげが震えた。
起こしてしまったかと息をつめたが、起きる気配はなさそうだった。ほっ、とためいき。
「啓太・・・」
低く、ささやくように彼を呼ぶ。
思い出して・・・思い出してと。
啓太のクラスメイトとして、一番の親友として、ずっとそばにいられるだけでも夢のようなことだけど。
和希にとって、なにより大切な想い出を、啓太にも思い出して欲しかった。
そしてどれだけ和希が啓太のことを想っているのか伝え、受けとめて欲しい。
ずいぶん欲張りになってしまったと、和希も自嘲してしまうけど。でも。

「・・・カズ、に・・・・・・」

「っ・・・・・・啓太?」

そら耳かもしれない。
けれど、今、たしかに啓太は和希を呼んだ。
胸が熱くなる。
啓太を抱きしめたい衝動にかられる。
和希はギュッと唇をかみしめた。

もうきっと眠れない。
けれど、啓太が目覚めたときに、隣に自分がいたら、
遠い夏のあの日の記憶を思い出してくれるかもしれない。
ここにいたのは、和希――カズ兄だったのだと。

またひときわ、外のセミが盛大に鳴きだした。
指でおさえた和希のまなじりから、涙がこぼれ落ちた。

そばにいれて幸せだけど、辛い恋をしてます、和希さん(TT)
こういうの、生殺しっていうんですよね〜・・・いや、まな板の鯉?(違)
2007.08.14 イメージイラストを描いてみました。
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