Peanuts Kingdom 学園ヘヴン

君との間にかかる虹

もはや鳴き疲れているだろうセミの声が、
わんわんと耳に響く残暑のきついある日。
わぁっ!という叫び声が寮の中庭に響いた。
「啓太っ?!」
先を歩いていた和希が振り返ると、どういうわけか全身ずぶ濡れになってしまった啓太がいた。
「どうしたんだ、いったい?」
和希が啓太に駆け寄ろうとした次の瞬間、今度は和希の背中めがけてものすごい勢いの水が飛んできた。
「うわっ?!」
「和希?!」
その勢いに負けて前かがみになってしまった和希もすっかりびしょ濡れで、
髪からはぽたぽた雫が落ちている。
「な、なんだ・・・?」
なにが起こったのか把握できず、啓太はあたりをきょろきょろと見渡すと。
「おー、おまえら!どうだ、少しは涼しくなっただろ!」
「王様!」
茂みの向こうから現れた王様が手にしているのはホース。
その口からは水が勢いよく流れている。
「王様、なにするんですか!」
立ち直った和希が叫ぶと、王様はちっとも悪びれていない様子で、
「水やりだよ!仕事が一段落ついたんでな、植木に水でもやろうかと思って」
そう言う王様も、全身びしょ濡れ。
どうやら一度ホースの水を頭からかぶったらしい。
「こうした方が涼しいし、こんな暑い日はすぐ乾くだろ。どうだ、おまえらもやっていかないか?水やり」
口では水やりといってはいるが、それを口実にしたたんなる水遊びなんじゃないか・・・
和希はそう思ったけれど、
「やりますっ!な、和希、やっていこうよ!」
実のところ、暑さにすっかりやられてしまっていた啓太のノリ気っぷりに、
和希は苦笑しつつも従うしかなさそうだった。

『ホースの口を指でおさえて、その加減でいろんな風になるんだよ』

和希の祖父の別荘で、小さな啓太と過ごした夏。
芝生に水やりをしているところに啓太が遊びにきて、
和希が操るホースから出るさまざまな表情の水に、
啓太は大喜びしてはしゃいで、結局、全身びしょ濡れになっちゃって・・・

王様から手渡されたホースから噴出す水をみつめていたら、
そんな昔の記憶がよみがえってくる。
ホースの口を親指で押したり、離したり。
水がみせるさまざまな表情に、和希はふと心を奪われる。
が、しかし。
「遠藤っ、スキありっ!」
「うわぁっ?!」
再び頭からホースの水をあびせかけられ、和希は全身ぐっしょり濡れてしまった。
ふりかえってみれば、いつのまにか参戦している俊介がニヤニヤして立っていた。
「俊介?!いつのまに」
「さっきあっち通りかかったら王様に濡らされてん〜
でも、今日みたいな暑い日はこのくらいがちょうどえぇやろ?それっ!」
「うわぁっ?!」
真正面からもろにホースの水をぶっかけられ、和希はたまらずその場から逃げ出した。
俊介の水が届かないところまで避難して振り返ると、俊介はさらに和希を追ってこようとしていた。
「こんの〜」
体勢をたてなおし、和希が手にしたホースを俊介にむけようとしたその瞬間、
「あひゃぁっ!つめたっ!」
俊介の右側から水がとんできて、不意をつかれた俊介はたまらず方向転換して逃げていく。
「スキありだぞ、俊介!」
水がとんできた方向をみると、俊介を見事追い払った啓太がホースを手にして笑っていた。

くったくのない笑顔。
水に濡れても元気な髪。
濡れて肌にはりついてしまったシャツは、なんだかまぶしい。

おもわず見惚れてぼうっとしてると、
「和希も、スキありっ?!」
「うわっ!ととっ!」
すんでのところで啓太の水を避けて、和希もようやっと我にかえる。
「この〜っ」
「うわわっ!」
和希は啓太めがけてホースを向けた。
親指で少しつぶして、より遠くまで飛ばせるように。
啓太に届くように。
「うわ、ちょっと、それナシ〜ッ!」
みごとしぶきがかかったか、啓太が笑う。
はじけた水しぶきが白く光って散る。 「あれっ?」br/> 「うん?」
王様と俊介が同時に声をあげた。
一瞬息をのんで、俊介は和希たちを指さした。
「虹や!」
「えっ、虹?」
和希は目をこらした。

和希の手もとから伸びるホースの水が、
噴水のように細かい霧となって啓太を濡らす。
その霧のカーテンに、小さいながらも七色の虹が架かっていた。
和希から、啓太へとつなぐ、虹の架け橋。

「なんだなんだぁ?遠藤の気持ちが形をとったか?」
「なんや、みせつけてくれんなぁ、もぅ!」
「えっ?!」
王様と俊介のヤジに、和希はおもわず頬を赤らめる。
そんな和希の反応に、
「お?図星か?」
「おまえらいつも一緒やもんな〜、二人の間に虹まで架けられちゃあ割り込むスキもあらへんわ?」
さらにヤジをとばすものだから。
「もう、いい加減なこと言わないでください!」
和希は容赦なく二人にむかってホースを向けた。
「うっひゃあ!至近距離からはアカンて!」
「っ、つ、つめてーっ。よーし、そっちがその気なら、こっちも本気でいくぜ〜」
「うわっ!うそ、二人がかりは卑怯ですよっ!っ、啓太〜っ!」
王様と俊介に追いかけられ、さすがの和希も悲鳴をあげる。
けれど、啓太はぼんやりと、子犬のようにかけまわる和希たちをみていた。

『わぁ・・・お兄ちゃん、すごい!すごいよ、虹だよ!虹ができたよ!』

誰のことを呼んでいたのだろう。
誰にみせてもらっていたのだろう。
遠い遠い昔の記憶。
ただ、その人の手から虹が生み出されたことを、
本当にびっくりして、感動していた幼い自分を啓太は思い出していた。
「おにいちゃん・・・?」
自分にいるはずのないその人を呼んで、啓太は小さく首をかしげた。

夏5題より【水遊び】。
一応和希の片思いにしてますが、MVP戦後のはずなので友達EDはむかえてますか・・・
王様と俊介にからかわれてしまっているあたり、和希の啓太への恋心はダダ漏れっぽいです。
そのわりに、啓太はなんだか淡白になってしまいました・・・う〜ん、反省?
美しい思い出の回想創作といったところでしょうか。
このあと、ホースで水遊びしてたのがみつかって、篠宮寮長にこっぴどく叱られることになります(笑)
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