Peanuts Kingdom 学園ヘヴン

すぷらった

『これ、おもしろかったですよ』
と、七条さんから笑顔で渡された一本のDVD。
それは以前俺が観たいっていっていた、
ジャパニーズホラー映画。
テレビでも雑誌でもとりあげられてて、すごく人気があるってきいて、
興味がわいたんだけど、正直いって、俺、こういうのすごく苦手。
でも、観た人の感想とか読むと、怖いって感想はもちろんだけど、
謎が謎をよんで、結構緻密な推理サスペンスものになってるらしくて、
宣伝広告文しか読んでない俺は、気になってしかたがなくなっていた。
きっと、オカルト好きの七条さんなら映画を観たんじゃないかって期待して声かけたんだけど、
俺があらすじをきこうとすると、
『実際、観たほうがおもしろいと思いますよ。そんなに怖くないですから、大丈夫』
って・・・わざわざDVDを取り寄せてくれて、俺に貸してくれたんだから、これはもう観るしかない。
でも一人じゃ絶対観れないってわかってる。
七条さんはそれを見越して、一緒に観てあげましょうか?なんて言ってくれたけど、
七条さんのことだから、なんか余計怖い演出とか追加してきそうで、一緒に観る気になれない。
ホラー映画を一緒に観ようと俺が誘うとなったら、やっぱりこいつしかいない。

「おっじゃまっしまーす」
「いらっしゃい」
DVDとペットボトルを二本おみやげにして、
週末、俺は和希の部屋を訪れた。
和希の部屋にはDVDもみれるパソコンがあるから、それで一緒に鑑賞しようというわけだ。
「あ、お菓子買ってきてくれたんだ」
小さなテーブルの上に置かれたカラフルなお菓子類におもわず笑顔になってしまう。
「休みの日に、部屋で映画観るっていったらやっぱコレでしょ」
和希はそういってポテトチップスの袋をかざす。
カウチポテトってやつ?
だったらお茶じゃなくて、コーラにすればよかった。
そしたらもっと映画館ぽくなったのにな。
でも・・・観るのはホラー映画なんだから、やたら映画館っぽくするのも余計怖くなっちゃうかも・・・
「啓太、カーテン閉めてくれるか?」
「えっ、カーテン閉めるのか?」
ぎょっとして和希をみると、和希はきょとんとして。
「だって、画面見づらいだろ」
「で、でも・・・だってホラー映画だよ?」
おもわずそう口をすべらすと、和希はニヤリと笑った。
「へぇ・・・やっぱり怖いんだ」
「うっ・・・」
和希を誘ったときも、怖いから一緒に観て欲しいのか、ってきかれて、
一人で観るのはつまらないから!って言ったんだけど。
まぁ・・・バレバレだよな〜・・・。
口ごもってしまった俺に、和希はまぁまぁと手でなだめるしぐさをした。
「大丈夫だって。だってこんなに画面も小さいんだしさ。
音響だって映画館並みってわけにはいかないし。そんな怖くないって」
「う〜〜〜っ」
くそ〜・・・なんか余裕の和希に腹が立つ。
同い年のはずなのに、なんかやけに大人びてみえるときとかあって、
MVP戦の時もすごく頼りになってくれて。
そんな和希と一緒ならホラー映画も観れるかなって、つい、思っちゃったんだ。
頼りにしてる自覚はあるんだけど、俺ばかり動揺してるのって、ほんと、情けないことこの上ないよな・・・
うなっててもしかたない。俺はあきらめてカーテンを閉めた。
部屋は薄暗くなったけど、早速再生されはじめたDVDを映す液晶モニターが淡く光って、
ぼんやり和希の顔を照らしだしていた。
「ほら、はじまるぞ」
「う〜ん・・・」
自分から誘っておいてのこの情けなさ。
我ながらどうなのって思うけど。
あまりに平然としてる和希がなんだか信じられない。
「なぁ和希、おまえ、ぜんぜん平気なわけ?」
「なにが」
「だから、ホラー映画とか・・・」
「う〜ん、特別好きってわけじゃないけど、
これ、サイコホラーとかサスペンス色が濃いんだろ?だったら平気かな」
はぁ・・・くそ〜、ドキドキしてるの、俺だけかよ。
俺ががっくりうなだれているのを気づいた和希は、クス、と笑った。
「まぁお菓子でも食べて、気楽に観ろよ」

映画はさすが話題作というだけあって、
怖い雰囲気は常時漂わせているものの、あっという間に話にひきこまれてしまった。
急に怖い画像が映し出されて、手にしていたペットボトルを放り出しそうになったりもしたけど、
そんな俺の様子に噴出す和希の笑い声が、
緊張しきった俺の気持ちをほぐしてくれたのがありがたかった。
本当に和希、こういうの平気なんだな・・・なんかちょっとくやしい。
俺は怖いシーンになるたび、こっそり和希の様子を確かめていた。

映画は終盤にさしかかってきて、息もつかせぬ怒涛の展開がくりひろげられていた。
霊や妖怪とか、そういったものよりなによりも怖いもの、それは、人の狂気。
戦争によって狂わされた人の心が怨念として残り、
その記憶を受け継いでしまった者が生き残った人々を次々喰らっていく。
ばっと鮮血が画面を濡らし、その向こうで無残に切り刻まれた肉塊がうぞうぞとうごめく。
さすがにコレは・・・と隣とみると、ふと、和希と目があってしまった。
「・・・和希?」
「う・・・は、はは・・・すごいな、コレ」
和希は目を手で覆って、ほとんど画面をみれていないようだった。
「だ、大丈夫?」
「う、ん・・・俺・・・血はちょっと苦手なんだよな」
「っ・・・へぇ・・・」

和希はそういったけど、実のところ血がダメというより、戦争シーンが苦手なのだという。
昔、まだ和希が小さかった頃、ひどい怪我をした人々の姿を記録した
戦争の記録フィルムをみせられたというトラウマがあったらしい。
「実は、それからしばらく映画観れなくなっちゃったんだよね。
今はもう平気だけど、しばらくは夜も眠れなくなっちゃってさ。
時代劇の剣戟シーンとか、たんなるスプラッタならニセモノだってわかるからいいんだけど、
戦争とからむとどうも苦手で・・・」
そういって和希は恥ずかしそうにポリポリと頬を掻いた。
意外だ。本当に、意外。
なんでも余裕かまして、要領よくやってのけちゃう和希にもこんな弱みがあったなんて。
まぁ、俺だって、戦争映画とかって好んでみるかっていったらそうじゃないけど、トラウマかぁ〜・・・

「啓太・・・なに笑ってんだよ」
和希に指摘されて、はじめて自分が笑っていることに気づいた。
俺、すごい笑顔になってる。
「あれっ、なんでだろ」
「おまえ〜バカにしてるだろ」
「そんなことないよ!」
でもなんでだろう、なんだかすごく、嬉しい・・・

そのあとしばらく、和希は "バカにしてる!" ってスネてしまったけど、
でも俺が笑っていたのはバカにしてじゃない。
たまにやけに大人びてみえる友達が、
ちゃんと俺の隣にいてくれてるってことが嬉しかったから。
「なぁ、和希、今度戦争映画観ようか〜、怖かったら、俺にすがってもいいぞ?」
「っ!啓太ぁ〜っ、やっぱり俺のことバカにしてるだろっ!」
膝をかかえてスネてしまった和希の頭。
なんだかやけにかわいくみえちゃって、
俺は手をのばすと和希の頭をヨシヨシとなでた。

血を求めし者5題より、【ほとばしる鮮血】でした。
なんかお題の趣旨とそぐわない気もしますが、まぁヨシとして。
啓太片思いというにはまったく恋愛要素もないというのも、まぁヨシとして。
甘えて甘えて甘えて甘やかしてあげる啓太くん視点のお話。
実のところ、和希が戦争映画ダメってことはないと思います。だって銃あつかえるし。
でもたまにはかわいいところもみせてほしい!(私と啓太の希望)
ちなみに戦争映画みて映画みれなくなってしまったのは、私のことです(T▽T)
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