Peanuts Kingdom 学園ヘヴン

水 18:00

コンコンッ、と軽いノックに続いて、
「かぁーずきぃー、そろそろ晩飯行こうぜー」
と、啓太の声。
よっぽどおなかがすいてたんだなと、思わず笑みがこみあげてくる。
「開いてるから入ってこいよ」
そう声をかけると、キィッと開かれたドアのすきまから、ひょこっと啓太の顔がのぞいた。
「和希?なにやってるんだ?」
「明日提出しなくちゃいけないレポートをちょっとな」
本当は、明日の理事会で使う資料のまとめをしてたんだけど。
啓太には俺がここの理事長だってことはまだ内緒だから、そう言ってごまかす。
すると、啓太の顔から笑みが消え、少し、心配そうな顔になる。
「忙しそうだな。まだかかるのか?」
俺と、一緒に夕食をとれないかもしれないって、少しはがっかりしてくれたのかな?
俺は椅子を啓太の方にむけ、
「いいや。別に後からでも大丈夫だ。メシ、行くか」
と笑顔でこたえた。啓太はほっとしたような笑みを浮かべた。
すると、なにかを思いついたのか、妙に笑顔になって、
部屋に入ってくると俺の目の前ぐいっと顔を近づけてきた。

「お疲れの和希はぁ〜、ゴハンがいい?それとも先にお風呂?それとも、オ・レ?」
「・・・・・・は?」

啓太がなにを言ったのか、一瞬わからなくてきょとんとしてしまったけど、すぐに。
「〜〜〜っ?!」
かあっ!と首から耳まで熱くなって、俺は思わず椅子ごとあとずさってしまった。
ゆるみそうになる口元を手で隠して、目の前の啓太を凝視してしまう。
啓太はプッ、とふきだすとけらけら笑い出した。
「なに赤くなってるんだよ和希!」
「っ、なっ・・・お、おまえがおかしなこと言うからだろっ」
完全に不意をつかれた。
まさか俺の気持ちに気づいてるのかと疑ってしまったけど、
気づいてたらこんな冗談は言わないだろう。
くるっと机に向き直って、PCの電源をプツンと落とす。
後ろではまだ啓太がくすくす笑ってる。
まったくもう・・・俺の顔もまだ熱い。
・・・あぁ、もし許されるのなら。

ゴハンよりお風呂よりなにより、啓太が欲しいと告白してしまいたい。

でもこんな気持ちは俺を親友として信頼してくれている啓太にとって
重荷にしかならないことはわかりきっている。
下手をすれば、ようやっと手に入れた啓太との楽しい日々を失うことにもなりかねない。
俺は立ち上がるとくずれてしまった顔をふくれつらに隠して啓太にキッとにらんだ。
「そうやって俺をからかって・・・相手が俺だからいいけど、他のやつにそんなこと言うなよ?」
俺の言葉をどう受け取ったのか、啓太はきょとんと目を丸くした。
「和希以外の誰にこんなこと言えるんだよ。和希にだから言えるんだよ」
「なんだよそれ」
「和希だったら "俺が欲しい" なんて絶対言わないだろ?」
「っ・・・」

無邪気な笑顔の啓太から発せられる、残酷な言葉・・・
心に冷たい剣が突き刺さる。
あとどれだけ・・・どれだけ俺はこの痛みに耐えることができるだろう。

「そんなこと・・・わからないぜ?言うかもしれないだろ」
「えー?俺のこと欲しいの?」
なんのてらいもなくそんなことが言えてしまう、なにも気づいていない啓太が恨めしい。
俺はただ、深くため息をつくことしかできなかった。
「おまえなぁ・・・"欲しい" って言われたら、誰かれかまわずいいのかよ」
なんかもうあまりに無邪気な啓太が不憫にすら思えてくる。
おまえが考えているほど、人の気持ちっていうのは単純じゃないんだ。
好意を寄せる相手が異性とは限らない。
あのテニス部の主将だって、おまえにモーションかけてるだろ。
きっと彼ならいうんだろう。なんの迷いもなく。
啓太が欲しい、と。

「えー?誰でもいいなんてわけないだろ」
「ほんとーかぁ?おまえ、結構無防備だからな」
「どういう意味だよ!さっきも言っただろ、和希にだから言えるんだよ」
「え?」
「和希にだったら、あげてもいいぜ?俺のこと」
「・・・・・・・・・」

一度立った椅子にもう一度座りこんでしまいそうになった。
啓太の笑顔から、その言葉が俺の期待する意味とは
遠くかけ離れたものであることは容易に想像がついた。でも。
冗談でも、なんの意味ももたない戯言であっても、
啓太が俺のことを他の人とは違う特別な存在と認めてくれているその言葉に嘘はない。
俺が啓太に寄せる想いとは違うだろうけど、
それでも。

俺は啓太から目をそらすと、フ、と自嘲気味に笑った。
そして再び啓太をまっすぐ正面から見つめて。
「じゃ、ありがたくもらっておくよ、啓太のこと・・・よろしくな」
そう言って、啓太の頭にぽんと手を置いた。
「っ・・・」
啓太は少し面食らったようだったけど、またはじけるような笑顔を浮かべた。
啓太が俺のことを好きでいてくれるなら、その気持ちをどう呼ぼうとかまわない。
彼の好意を受け入れた俺に、そんな笑顔をみせてくれるなら、
俺は何度傷ついたってかまわない。

「でもまずは晩飯、だろー?やっぱ」
「当然!んで、風呂入って、そのあとはDVDでも観ないか?
啓太が観たいって行ってた番組、録画してたやつがいて、ダビングしてもらったんだ」
「えっ、マジマジ?やったあ!」

こうして、啓太の隣にいることができる。
彼が俺に寄せる信頼を痛いほど感じることができる。・・・これ以上なにを望む?
俺の胸の中にある暖かくて光り輝くもの――啓太。
俺はたしかに啓太から "啓太" をもらった。

爆弾発言魔啓太再び。まったく邪気がないのでさすがの和希もどうしようもない感じ。
啓太の言う「欲しい」という言葉に、深い意味があることを、
そして啓太自身に他人が彼を欲しいと思ってしまうような魅力があることを、
啓太自身は気づいてないんです(涙)
でもこの啓太はきっと、和希が本当の意味での「欲しい」を言っても、
受け入れちゃうような気もします(*^^*)
もしお気に召しましたら拍手をポチしてくださると嬉しいですv

上に戻る