血痕
ぬくもりの主がいなくなって、冷たくなったベッド。
シーツをとりかえようと顔をちかづけると、枕元にかすかに染みがついていた。
赤い、染み。
いつのまに傷をつくっていた唇に、ぺろりと舌をはわせてみたのはついさっきのこと。
"痛っ・・・て、なにすんだよ!"
恥じらいで頬を真っ赤に染めると同時に、うっすら目に浮かんだ涙。
あごをつかんで上をむかせてよくみてみれば、
薄い唇の皮が破れて、そこから血がにじんでいた。
"おい、ここ、切れてるぞ"
そう言うと、啓太はあれ?と記憶をたどりだす。
もしかして、部屋が乾燥してたかな、リップクリームをやらなくちゃ、と、
こちらはこちらで啓太を気遣う。
すると、啓太ははたとなにかを思い出したか、小さく"あ"とつぶやいて。
ぽっ、と頬を赤らめた。
"・・・なに?"
どうしたのかとたずねると、はじめ啓太はこたえるのを渋ったけれど、
やがて真っ赤になったまま俺を見上げて。
"昨夜、歯をくいしばりすぎて・・・切れちゃったんだと思う"
あまりに可愛くて、あまりに愛しくて。
それと同時に申し訳ない気持ちもこみ上げてきて、
どうにも彼を抱きしめる腕をおさえることができなくなった。
"無理させてごめんな?"
急に抱きしめたものだから最初はじたじたと抵抗していたけれど、
やがて俺の腕の中でおとなしくなった啓太の耳元に囁く。
すると、啓太はフルフルッと首を横に振って、きゅ、と俺の背中にまわした腕に力がこもった。
ベッドにのって、啓太がつけた染みを指でなぞる。
啓太がここにいたという印。
俺の想いを受け止めてくれた証。
洗ってしまうのはもったいないなと、バカげたことを思ってしまう。
でも、啓太を傷つけたいわけじゃない。
啓太を傷つけるすべてのものから守ってやりたい、そう思っている。
でも、啓太を傷つけるのが他ならぬ俺自身だとしたら?
矛盾した事実をつきつけられ、俺はまた出口のない迷宮に迷い込む。
シーツをはずして、それが啓太であるかのように抱きしめる。
かすかに残る、啓太の汗のにおい。
彼が残した赤い染みに、俺は祈るように口づけた。
事後設定ですので、それ以前についてはまぁいろいろ妄想ふくらましていただければ・・・
いったいなにをしたんだ和希ぃ!(笑)
お題「5.貴方の生き血で」の主旨からそれてしまった感がなきにしもあらずなんですが、
貴方の生き血で溺れてしまいたいほどの和希の想いって感じで。
・・・ちょっと怖いですね(笑)
もしお気に召しましたら拍手をポチしてくださると嬉しいですv
上に戻る