Peanuts Kingdom 学園ヘヴン

友達以上に大切な人

たとえ男同士でも、どうしても、誰よりも大切で、失いたくない存在というのは実在するのだと。
七条さんと西園寺さんをみてはっきり理解した。
それを強い信頼とか絆とか、普遍的な言葉で言い表すこともできるだろうけど。
七条さんははっきりと、西園寺さんのことが好きだと、そう言った。
七条さんにとって西園寺さんはかけがえのない存在で、守りたい人で。
事実、七条さんは身も心もささげたかのように、今日も西園寺さんの隣に立っている。
そんな彼らをみて俺は・・・
すこし、うらやましいと、感じていた・・・

「えっ、今日も出かけるのかよ!」
二日連続で午後の授業に出られないと和希に言われたのはランチを食べているときだった。
テーブルの向かいに座った和希は片手を顔の前にたてて、
「悪い」
と苦笑している。
別に、和希が出かけるのは珍しいことじゃなくて、戻りが夜遅くになることも結構ある。
篠宮さんにきかされたときには信じられなかったけど、実際にそんなだから、
もしかしておとなしそうなフリをして結構な不良なのかも?なんて疑ったりもした。
でも俺のみている限りでは、不良なんてことはなくて、むしろ礼儀正しい、お育ちのいいお坊ちゃん、
って感じだから、じゃあ一体そんな毎日夜遅くまでなにしてるんだろうって気になってしまう。
「別に・・・ノートみせるのはいいけどさぁ。このところしょっちゅうじゃないか。いったいなにやってんだよ」
「まぁ・・・いろいろと忙しいんだよ」
「家のことで、とか?」
「まぁ・・・そんなとこ」
「ふぅ〜ん・・・」
気になってたずねてみても、いつもこんな調子ではぐらかされてしまう。
言いたくないことなら、無理にききだすのも悪い気がするけど・・・
でもなんだか和希と俺の間に目にみえない壁があるようで、少し、寂しい。

入学した当初から和希はいろいろサポートしてくれて。
俺がなにかわからないことがあったり、困ったことがあったりすると、すかさず手を差し伸ばしてくれた。
お互い結構いろんなことを話してきたつもりだったけど、実のところ、
和希のこと、俺、あまりよくわかってないような気がする。
俺は・・・和希のこと信頼してて、いい奴だなって思ってて。
一緒にいて楽しい奴だって、この学園で一番の親友だって・・・そう、思いたいのに。

「なぁ、和希」

頭の中でぐるぐる考えてても、なにも解決しないってことは、
先の退学勧告の時にみんなに教えてもらった。
だから俺は。

「俺でなにか手伝えることはないか?・・・その、いろいろ問題抱えて大変だっていうなら、俺、相談にのるし。
学校の授業に出れないほど忙しいって・・・それって結構やばいんじゃないか?」

俺は、和希にもっと近づきたい。
和希が俺にとって、心の支えになっているように、
俺も、彼の支えになりたい。
俺が和希を必要としてるように、和希も俺のこと、必要としてもらいたい。

「俺にはどうしても言えないっていうなら、しかたがないけど、でも、もっと俺のこと頼っていいんだぜ?
俺達・・・友達じゃないか」

和希の言葉をそのままかりて。
でもその言葉には、それ以上の気持ちをこめて。

そう告げると、和希は目を丸くして、俺を見つめた。
「啓太・・・そんなに俺のこと、気にかけてくれてたのか」
「だって、当然じゃないか。実際おまえ、しょっちゅういなくなるし・・・携帯だって通じないときもある。
俺、気になって、どうしたんだろうって心配になって・・・」
和希の表情がみるまに変わっていく。なんだか・・・悲しそうな。
「・・・ごめん、啓太」
「えっ・・・」
「ごめん・・・そんな心配してくれてたなんて・・・思ってもみなかったから」
和希の言葉に、俺の中でなにかが切れた。
なにかとてもいやな、真っ黒いどろどろとした気持ちが胸いっぱいに渦巻いた。
「なんでっ?!俺が和希のこと心配するの、あたりまえじゃないか!
だって俺は和希のことが・・・!」
「・・・・・・」
「・・・・・・っ」
なにを思ってその言葉を口に出すのをためらったのか。
その瞬間、俺ははっきり自覚した。

俺は和希が好きだ。
七条さんが西園寺さんを好きといったのと、同じ意味で。
俺にとってどうしても、誰よりも大切で、失いたくない人。
ただの友達ならこんなに心配しない。
ちょっと授業に出られないからといって、こんな嫌な気持ちになったりしない。
俺のそばにいてくれない、そのことをこんな不満に思ったりなんかしない。
でも和希は。
和希だけはそばにいてほしいって。
もっと彼の近くにいきたいって。もっと、そばにいたいって。
信頼してるからとか、いい奴だからとか、そんな簡単なものじゃなくて。
もっと深く、俺は和希を。

「啓太」
和希に呼ばれてはっとして、いつのまにか俺は椅子から腰を浮かせるほど身を乗り出していたことに気づいた。
ストンと腰をおろし、視線をテーブルから床へと落とした。
頬に和希の視線を痛いほど感じる。
俺ってば・・・いったいなにやってんだ。
これじゃ和希を支えるどころか、負担にしかならない。
こんな風に自分の気持ちばかりぶつけてしまって・・・
「啓太」
「ご、めん・・・」
ようやっとそれだけを言うのが精一杯。
でもそれをきいた和希は、なぜかフッと笑ったような気がした。
「なんで謝るんだよ。謝ってるのはこっちのほうだろ。心配かけてごめんって」
思いのほか明るい声に、俺は思わず顔をあげた。
まるで八つ当たりをしてしまった上に、おかしなことまで言いかけた俺に、
和希はいつもと変わらぬ・・・いや、いつも以上に、穏やかで優しい微笑を浮かべていた。
「嬉しいよ」
「え・・・」
「啓太にそこまで想ってもらえて。男冥利につきるってやつ?」
「・・・はぁ?」
「なんかすっごくいい気分・・・いままでがんばってきたかいがあったなぁ・・・」
「え、と・・・和希?」
和希の妙な反応に、俺はとまどってしまう。
和希の奴、なんでそんな嬉しそうな・・・うっとりとしたような顔してるんだ?
「嬉しいんだよ。俺が啓太を特別に想っているように、啓太も俺のこと気にかけてくれてたんだなぁって思ったらさ。
啓太に心配かけるのは不本意ではあるけど、悪くないな」
「ちょっ、和希っ?!」
「冗談だよ。・・・今夜は早く帰れるようつとめるよ。だから、待っててくれないか?」
「んっ・・・と、なんで?」
「もちろん、いろんな話をするために。啓太がそういう気持ちなら、俺も遠慮せず言えることもあるからな」
和希はそう言うと、パチンとウィンクした。
和希のウィンクに俺の胸はドキンと高鳴る。
あぁ、やっぱりこれって・・・
「あの、和希・・・俺・・・っ」
ちゃんと言わなくちゃとひらいた口に、スッと和希の指がそえられた。
「その続きは、俺が帰ってきてからゆっくり話そうぜ?それまでいい子で待っててくれよ」
「なっ・・・ちょっ・・・か、和希ぃっ?!」
やたら饒舌になって妙に色気をかもし出すものだから、俺はますますドキドキしてしまう。
なんだよ、和希のやつ・・・急にそんな、大人びた顔するなよ・・・っ!

でもこれって・・・もしかしたらもしかしなくても、和希も俺と同じ気持ちだってうけとっちゃってもいいのかな。
ただの友達じゃなくって、親友っていうのとも違って。
こんな風にどきどきしたり、その人のこととなると感情的になっちゃうって・・・

もしかしたら明日から俺は、
もう七条さんたちをうらやましがる必要などなくなっているかもしれない。
そうであって欲しいと願いつつ、俺は出かけていく和希の背中を見送った。

子供の頃から和希に大切に想われている啓太の、和希への片思いストーリーを書くのは難しいですね〜
というわけで、設定はMVP戦七条ルート西園寺ED後で、
ラブラブ(?)な二人を通してBLへの耐性がついた啓太が素直に和希への気持ちを認めるという・・・
会計部の二人、ありがとう!(笑)
MVP戦のパートナーに選ばれなかった和希は、どんな気持ちで啓太をみつめていたのでしょうね・・・
そちらを考えると胸が痛いのですが、最終的に啓太の気持ちは和希にむいていたということで!
まさに運命の二人vvv
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