Peanuts Kingdom 学園ヘヴン

視線

「わっ、今の人、かっこいい!」
すれちがった女の子が後ろでそんなことを言っているのがきこえた。
ふりかえるまでもなく、それは俺のことじゃなくて、
(生まれてこのかた、"かっこいい" なんて言われたことないし)
隣にいるこいつ・・・和希のこと。
学園にいると、普通のやつにしかみえないんだけど、
(和希がそう演じているからってのもあるけど)
一歩外に出ると、結構人目を騒がせる容姿をしていたりなんかする。
さりげなく着ている服は、実はけっこういいブランドものだったりするし、センスだって悪くない。
雰囲気もさっぱり爽やか、清潔そうで、女の子の目をひいてしまうのもわからなくはない。
顔も・・・まぁ、結構綺麗な顔立ちをしてるし・・・
「どうした?啓太。ため息なんかついちゃって」
「えっ、あ、ああ、なんでもない!」
知らないうちにため息がもれてしまっていたらしい。
いけない、いけないとあわてて笑顔をつくる。
だって今日は久しぶりの・・・デート、なんだし。
新しくOPENしたお店とか、話題のアミューズメントスポットに行こうって楽しみにしてたんだから。

でもやっぱりどこへ行っても、どうしても女の子の視線が気になってしまう。
店に入ればお客さんどころか店員さんまで和希のことちらちら見てるし。
でも和希はといえば、
「啓太、これなんか似合うんじゃないか?」
と、周囲の視線なんかまったく気づいていないのか、新作ものを手にとって俺にあててみたりしてる。
その瞬間、きゃあ、なんて小さいながらも黄色い悲鳴なんかきこえちゃったりしたものだから、
俺はどうにもいたたまれない気持ちになる。
「か、和希、やめろよ・・・」
「なんで?気に入らない?じゃ、こっちはどう?おまえ、カーディガン欲しいって言ってたじゃないか」
「まぁ、そうだけど・・・」
「なんか気に入ったのあったら買ってやろっか」
「いっ、いいよ!」
俺は和希が新たに手にした服を奪い取ると、さっさと棚に戻してしまった。
「もう行こう、和希」
「えっ、なに、どうしたんだよ、啓太」
俺は和希に背をむけ店を飛び出した。

もう、誰にもみられたくない。

どこか人のいなそうなところを探してあたりを見回す。
「啓太?どうしたんだよ」
俺のあとを追いかけてきた和希が肩ごしにたずねてくる。

和希がそばにいると、それだけでみんなの注目を集めてしまう。

「・・・・・・りたい」
「え?」

帰りたい。
学園へ。
俺たちしか入れない世界へ。

「帰りたい」
「啓太・・・」

こんなこと言ったらきっと和希を困らせる。がっかりさせてしまう。
そうとわかっていても、今はもうただこの場から離れたい一心で。

みんなの視線が怖い。
女の子たちが和希に興味をもつのが嫌だ。
そんな和希が実は男の俺なんかとつきあってるってことに気づいたら、どんな目でみられるか。

「啓太・・・急にどうしたんだ?俺、なんか気にさわるようなことしたか?」
和希の言葉に俺は首を横に振った。
「違う・・・和希はなにも悪くない。悪いのは・・・」

・・・俺?
和希の隣という位置を独り占めできるような人間ではないくせに。
こんなに心が狭くて、学園という殻に閉じこもりたいとすら思ってしまった俺?
突如こみあげてきた強烈な罪悪感に鳥肌がたった。

だってもし俺がいなければ、もしかしたらあの中にいた女の子の誰かとつきあっていたかもしれないんだ。
街中の女の子だけじゃない。
仕事上のつきあいでも女性との出会いはいくらでもあるはず。
きっと和希に恋心を抱く女の人もいたに違いない。
なのに和希は・・・俺なんかと・・・・・・

「・・・どうして和希は俺なんかを・・・」
「え?」
「和希は・・・俺なんかとつきあわなくたっていいんだ。もっと・・・可愛い女の子とか、たくさんいるのに」
「啓太・・・?」

胸にあごがつきそうなくらいうなだれて、俺はただ和希の目の前でたちつくしていた。
こんな駄々っ子みたいにみっともないって思うけど、でもどうしても不安で。
俺は和希のことが好きだ。和希のそばにいたい。
でもそれは本当は許されないことじゃなじゃないか?
ノドの奥が熱くなって、目の奥がツンと痛んだ。

「・・・なにを今更なこと言ってんだよ」

ぽん、と手が頭の上におかれた。
そのままわしゃわしゃっと髪をかきまぜられ、俺はぎょっとして顔をあげた。
和希は・・・こんなワガママな俺を怒るわけでもなく、にっこりと笑っていた。
「そんなこと、俺はずいぶん前からずっと考えていたんだぜ。啓太の時間を俺が奪ってしまっていいのかって」
「え・・・」
「啓太のそばにいたい、啓太に触れたい、啓太の心を俺に向けさせたい・・・
そのためにはどんなこともいとわないって思うけど、でもそれは啓太のためになるのか、って」
「和希・・・」
和希は俺の髪から手をはなすと、ちょっと歩こうかと俺をうながした。

港を眺めることができる埠頭公園で、和希と並んで柵にもたれた。
周りには人もまばらで、いたとしてもカップルとかで。
みんな自分たちのことしかみえていないといった風で、誰も俺達を気にかけるようなことはなかった。
ようやっと視線から解放されて、俺はほっと息をつく。
「なーに緊張してんだよ」
コン、と頭をこづかれ、俺は少しむっとして和希をにらんだ。
「だって・・・おまえが目立つからだろ」
「へ?俺が?」
「そうだよ!さっきの店でだって、女の子たち、和希のことみてたぞ」
「え?あれ、啓太のことみてたんだろ?」
「・・・・・・はぁ?!」
「だって。"あの子かわいい" とか、"目大きくて綺麗" とかきこえてきたぞ。
だから俺も気になっちゃってさ、余計に啓太にスキンシップしちゃってたかも」
和希の言葉に一瞬頭が真っ白になった。
そして。
「ええええええ?!そんなの、ぜんぜんきこえなかったぞ!?」
「えー?そうなのか?俺はてっきりきこえてて、なのに俺にいちゃつかれて、それで嫌になったのかと思ったぜ?」
「そんなの・・・そんなんじゃなくって・・・
だ、だって俺は "あの人かっこいい!" とか和希にむかってそう言ってるのきこえてきたぜ?」
「えー?それも啓太のこと言ってたんじゃないの?俺にはきこえなかったし」
「そんな・・・俺のわけないだろーっ」
なんだか、一気に脱力。
言い合うだけ言い合って、ふと言葉が切れて見つめ合って。
二人同時に噴出して大笑い。
自意識過剰が高じて勝手に嫉妬までして。
あぁ、もう、本当にどうしようもない!

ひとしきり笑いあって、笑いすぎてにじんだ涙なんかもぬぐって。
和希はパチンとウィンクする。
「さーて、これからどうする?本当に帰る?それとも、もう一花咲かせにいく?」
俺はもう一花ってなんだよ!ってまた噴出しちゃったけど、
「もちろん!遊びにいこうぜ!」
と満面の笑顔でこたえた。

さー、自意識過剰のバカップルがいますよぉー!
もう周りなんか気にせず、せいぜいいちゃつけばいいよ!
どこでも二人の世界を構築しちゃえばいいよ!
いちおうシリアスに悩んだりもしてますが、そのへんはじつはもう乗り越え済みってことで。
啓太はつきあってからもなんどかこうした "発作" に見舞われそう。
そのたびに和希に優しくあやしてもらうのです。
うっひょー!バカップルゥーッ!
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