Peanuts Kingdom 学園ヘヴン

優しい不埒者

「こないだ彼女とイイ雰囲気になっちゃってさー・・・」
教室の隅でくりひろげられる、ティーンエイジャー特有の甘酸っぱい恋愛談義。
俺にとってはあまり興味のわくような内容ではなかったけれど、
啓太にとってはそうではなかったらしく、そちらのほうにふっと視線をおくってから、ふわりと頬を染める。
・・・そりゃ。啓太だってお年頃。
女の子に興味がない方がおかしいわけで、いままで好きになった女の子だっていただろう。
けれど、そういった相手を好きだと想う気持ちが性的な欲望へとつながっていくことを、
心のどこかで否定するような潔癖なところが啓太にはある。
こういった話の輪にはけして加わろうとしないし、みずからそういった話をしようともしない。
だからまさかこの俺が・・・
啓太の一番身近にいる俺が、啓太に対して性的な意味も含めて恋愛感情を抱いているなんて知ったら、
彼はどう反応するだろう。
彼を激しく傷つけることなど容易に予想できるから・・・俺はただじっとこらえるしかない。
こうしてそばにいられる、それだけでも十分なのだと、
必死に自分に言い聞かせて。

「そろそろ行こうか」
寮に戻ろうとうながすと、啓太ははっとして「ウン」とうなずいた。

・・・いままでなら。
もしかして意識しちゃってる?なんて言ってからかうこともできたけど、
己の願望をはっきり自覚してしまっている今となっては、こんな戯言も地雷のような気がして口にすることができない。
なんとなく押し黙ったまま、肩を並べて寮への道を歩いていく。

「なぁ、和希・・・」
気まずい沈黙を打ち破ってくれたのは啓太の方。
俺はほっとして啓太にふりかえる。
「なに?」
「和希ってさ・・・その・・・」
「?」
なんだか言いづらそうな啓太の様子を思わず首をかしげる。
啓太は俺をちらっとみると、すぐまた目をそらして、えーと、なんて言っている。
「なんだよ啓太」
そんな様子がなんだかかわいくみえて、ついクスッと笑ってしまう。
すると、啓太の頬がかぁっと赤くなった。
「いっ、いや、その・・・前にさ」
「・・・?」
「彼女とかっていたこと・・・ある?」
「・・・・・・」
驚いた。
まさか啓太からこんなことをきかれるとは。
さっきのクラスメイトの話に触発されたのか。
俺は頬がゆるむままに笑うと、
「啓太は?」
ときりかえしてみた。
すると案の定、
「えぇっ?!おっ、俺っ?!いないよ、そんな・・・」
と真っ赤になって激しく否定した。でもすぐ、疑わしげな瞳になって。
「・・・和希は?」
とあらためてたずねてくる。
その瞳が期待しているのは、肯定か、否定か。
「・・・今はいないよ」
「・・・と、いうことは、つきあったこと、あるのかっ?」
とびあがらんばかりに驚いてくれて、さらにやけにせっぱつまった表情で俺にしがみついてくる。
予想どおりの啓太の反応に、俺はもう笑いをこらえることができない。
啓太がかわいくて、しかたがない。
「さぁ・・・どうかな?」
「どうかなって・・・なんでそんなはぐらかすんだよっ」
「だって。こういった話はなぁ・・・」
・・・今、好きな人に話すようなことじゃないよ。
でもなんとなく、彼女いたこともないようなモテない男と思われてしまうのもなんだかシャクだし、
ここでベラベラと語れるような武勇伝もとくにないし。
だからここはズルイ大人でのらりくらりと啓太の攻撃をかわすのが一番。
俺からでなくて、啓太から俺に近寄ろうとしてくれるこの瞬間が、なによりも幸せだから。
「なんだよ、普段あまりこういう話はしないから、てっきり興味ないかと思ってたのに」
しがみつく啓太の手をさりげなくとりつつそういうと、啓太はぐっと言葉につまる。
「興味がないってことはないけど・・・でも今、俺、好きな人がいるわけじゃないし・・・」
「そうなのか?」
「うん。てか、周り男ばっかで、こんな状態でどうやって彼女つくれっていうんだよ」
「クラスのやつらとかは週末、街に出てハントとかしてるみたいだぜ?」
「ハント?!そんなことできないよ!」
・・・うん、やっぱりマジメだな。啓太って。
「それに・・・そんな街で会っただけの子とつきあうなんてできないよ。その子のことよく知りもしないで・・・」
「つきあいながらお互いを知っていくもんじゃないのか?」
「でも、それでやっぱりウマが合わないって思ったら?」
「そのときは・・・やっぱ別れることになるんじゃないのか」
そういうと、啓太の顔がなぜか悲しげに曇った。
「そんなの・・・悲しいよ・・・」
「・・・・・・」
「よく知りもしないでつきあってみて、試してだめだったから別れるって・・・そんなの・・・」
「・・・啓太は優しいんだな」
うなだれる啓太の頭にそっと手をおく。
柔らかな啓太の髪の感触に、じんわり胸が温かくなる。
そしてこんないい子に育ってくれたことに、感謝すらしてみる。
啓太はなでられるがままになって、じっとしていた。
「・・・俺はなにも啓太にそうしろって言ってるわけじゃないんだぜ?啓太には啓太の時期がある。
きっと・・・その人のことを好きだなって、そばにいて守ってあげたいって想えるような人が、いつか現れるさ・・・」
これは俺の啓太への気持ち。
啓太のことが好きで、そばにいておまえのこと守ってやりたい。
啓太が他の誰かを好きになっても、その恋すらも包み込んでやれるような・・・
そんな大きな愛でおまえを包めるようになれたらいいのに。

けれど、少しでも気をゆるめると、このまま啓太のことを抱きしめてしまいそうになる。
きつく抱きしめて、その唇すらも奪ってしまいたくなる。
なめらかな肌に、口づけたくなる。
これは、俺の身勝手な欲望。
啓太がもっとも嫌う、性的な願望。

こみあげてきそうになる衝動をぐっとこらえて、啓太から手を離すと、啓太はゆっくり顔をあげて俺をみつめた。
「・・・いいなぁ・・・」
「え?」
「和希とつきあえる女の子が・・・うらやましいよ」
「・・・・・・」

ドクン、と心臓が一つ大きな鼓動を打った。
俺をまっすぐにみつめる啓太の瞳に吸い込まれそうになる。
啓太の髪の感触が残る手の平が、かぁっと熱くなる。
じゃあつきあってみるか?なんて、軽口がたたけたらどれだけよかったか。
でも啓太の言葉はあまりに衝撃的で、俺は返す言葉を失ってしまっていた。

「お、れは・・・啓太が思うような男じゃないよ」
「・・・」
「俺は・・・・・・」

胸が、苦しい。
頭に血がのぼって、思考がぐるぐるまわりつづける。
本当の俺は、啓太のことが好きで、啓太を抱きしめたくて。
でもそれだけじゃきっとすまないくらいに、啓太を欲している。
そんな俺を・・・啓太はうけとめきれないだろう、きっと・・・
だからつまり・・・本当の俺は・・・・・・

「俺は・・・・・・結構スケベだし」

「・・・へ?」

啓太はきょとんとしている。
・・・我ながら、バカバカしいほど本気なこの言葉が、俺を救ってくれたかもしれない。
ふーっと大きくため息をついて、そして俺はようやく笑うことができた。
「俺、スキンシップ激しいからさ」
「・・・いっ!」
啓太の顔が真っ赤になる。
俺の言葉の深い意味もくみとったのだろう。
「啓太が彼女だったら年中一緒だし、べーったりしちゃうかもしれないぜ?」
パチンとウィンクなんかもしてみせて、そうおどけてみせると、啓太はぽかんと口をあけた。
「とりあえずー、眠るベッドは一緒だよな。腕まくらしてやるよ♪啓太が怖い夢みて泣いたら優しくなぐさめてやるし・・・
あ、毎朝迎えに行く手間もはぶけていいな。どう?一緒に眠ってみる?」
「っ!」
啓太の限界がきれたらしい。
くりだされた啓太の蹴りをかわして走り出す。
後ろで啓太が叫ぶ。
「なに考えてんだ、和希のばかーっ!」
俺のあとを追って走り出す啓太の気配を感じながら、俺はすがすがしい気分になっていた。

封じ込んでいた俺の願望を、啓太に向かって口に出すことできた。
それだけで、こんなに幸せな気持ちになれるだなんて。
もう少し走ったら、急に立ち止まって啓太を抱きしめてしまおうか・・・
そんな不埒なことを考えながら、俺は走り続けた。

和希に愛される啓太はいいなぁ・・・という私の願望がでちゃった気がします(笑)
実際和希の恋愛経験はどうなんでしょうね〜
経験がまったくなくて、いきなり男同士、ってのもきついものがあるような気がするんですが(爆)
ステディな彼女はいなかったような気がします。
立場が立場ですからね。へたなことはできなかったはず・・・ということは・・・まさかもしやのチェリーボーイ?!(地雷)
とりあえず、将来的には和希は有言実行を遂げることになるのでしょう。
お二人さん、どうぞお幸せにv(笑)
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