Peanuts Kingdom 学園ヘヴン

冷たい人

かすかに触れた指先がひどく熱く感じたのは、
それだけ俺の指が冷たかったからだろう。
啓太の部屋のベッドの上に二人、並んで座っていたのだけど、はずみで啓太の指に触れてしまった。
俺はとっさに、
「あっ、ごめん・・・」
「えっ、なにが?」
と、触れてしまったことにたいして謝ったつもりだったんだけど、
啓太はそんなことまったく意に介していないようで、一瞬きょとんとしただけですぐまた違う話をはじめている。
俺は、啓太の熱の残る指先をもう一方の手でそっと包む。

こんな風に意識して、自分でもおかしいってわかってる。
でもどうしたって高鳴る胸をおさえることができない。
どうしても、心惹かれてしまう。

「和希?どうしたんだ?」
「っ・・・え?」

不意にのぞきこまれた大きな瞳に、ドクンと心臓が大きく脈打つ。
かぁっ、と頬が熱くなって・・・俺、顔赤くなってる?
あわてて顔をそむけたけれど・・・いや、こんな態度じゃ余計に怪しい。

「・・・いや?べつになにも?」

ことさら冷静をつとめて啓太の方へと向き直って、ニコッと微笑んでみせる。
けれど・・・啓太の顔は、なぜか晴れない。
なんだか少し・・・不安げな顔?

俺をみあげる不安げな顔には見覚えがある。
別れを予感していた俺が、いつもと様子が違うということに敏感に察知した啓太は、
きゅ、と俺のズボンをにぎったまま離そうとしなかった。
そして、じっと俺を見上げている。

"お兄ちゃん・・・ね、どこ見ているの?"

啓太の声に引き戻されて、意識がここへと戻ってくる。
啓太がそばにいるこの場所へ。
俺はしゃがんで啓太と同じ視線になると、啓太のハネた髪をそっとなでた。

"どこも?・・・ちゃんと啓太をみているよ"

よしよしと何度かなでてやっても、啓太の瞳から不安な色が消えることはなかった。
どうしたって不安げで、いまにも泣きそうにすら思えたから、
俺は啓太を抱き上げて、時間のゆるす限りずっとそうしていた。

―――そう。
啓太は人の心の機微には聡い。
俺がいくら隠そうとしてても、啓太にはお見通しなのかもしれない。
俺がどんな気持ちを抱いて啓太のそばにいるのか。
どれほど俺が啓太を、愛しいと思っているのか。

「啓太には・・・いつもかなわないな」
「・・・え?」

そうっと啓太の髪に触れる。
俺が唯一、昔と変わらず啓太に触れることができる場所。
こうしていつも、頭をなでてやったっけ・・・
遠い昔の記憶を懐かしむ余裕すらでてきて、俺はほっと息をつく。
けれど啓太が俺をみる瞳には、疑念の色すら浮かんでいる。
「和希・・・おまえ、なにか俺に隠してることあるんじゃないか?」
「え・・・」
「こんな・・・ごまかしたってわかるよ。だって和希・・・なんだか苦しそうだ」
「啓太・・・」
啓太の言葉にぎくりとして、頭においていた手をひっこめる。
成長した啓太は俺の悪あがきも一蹴してしまうらしい。
それより、隠しきれていない俺のこの気持ちの方が問題なのかもしれない。
「和希、俺じゃなんの役にもたたないかもしれないけれど・・・悩み事があるなら相談してくれよ?
俺、和希の力になりたいんだ」
まっすぐ見つめる瞳にも、その言葉に嘘偽りがないことは明瞭だった。
啓太が示してくれる好意が、素直に嬉しい。
でも啓太。啓太がなんの役にもたたない、なんてことはないんだ。
むしろ、おまえが・・・もし、おまえさえいいと言ってくれたら・・・・・・

「・・・ありがとう、啓太」
「和希・・・」
「ありがとう・・・」

こうして俺はまた啓太を不安にさせてしまう。
なにも言わない、言えない俺をみつめる啓太の瞳は悲しそうにもみえて、胸が痛い。

隠さなければならないような気持ちを抱いてしまった自分が呪わしい。
こんな方法でしか、啓太を守ることができないなんて。
啓太にはいつも笑顔でいてほしい、幸せになってほしいと誰よりも願うからこそ、
俺は啓太に真実を告げるわけにはいかない。
そんな、冷たい大人の考えが思考を支配する。
たとえ今啓太を傷つけてしまったとしても、それはおまえを守るため。

「心配かけて、ごめんな?大丈夫だから・・・なにかあったらまっさきに相談させてもらうよ」

心の伴わない口だけの言葉。
俺のような冷たい男は、啓太にはふさわしくない。
それでもほんの一瞬だけ。
このひとときだけ。
啓太のやさしさを、あたたかな笑顔を求めることを、許してくれるか?

「本当に、ちゃんと言えよ?俺だってやるときはやるんだから」

不安のぬぐいきれない、かりそめの笑顔でも、ほら、俺は・・・
こんなにも幸せな気持ちになれる。

かなり自分勝手な和希になってしまいました(TT)
悲壮なまでの決意を秘めた和希は強そうです。
ちょっとやそっとじゃ崩れなさそうです。
理事長室でいきなり告っておせおせでヤっちゃう和希とはなんだか別人です(爆)
本当は怖い和希さん、略して、ホン怖和希んぐ(略した意味なし)
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