Peanuts Kingdom 学園ヘヴン

I wake you.

陽光うららかなある日の放課後。
俺は啓太と図書室にいた。
お互い別の科目で出された宿題をかたづけてしまおうと来たわけだけれども。
人影まばらな図書室はシンとしてて、心地よい空気があたりを包んでいるものだから。

「ふわ〜あ・・・」

啓太の大きなあくび。
「大きい口だなぁ・・・あたりの空気ぜんぶ吸い込まれそうだったぞ」
「だぁって・・・おなかいっぱいご飯食べたあとに、眠くならないように集中して授業受けたあとだぜ?眠くもなるって〜」
完全に電池が切れてしまってる様子の啓太に、俺は苦笑を隠しきれない。
啓太は机の上につっぷしつつ、上目づかいで俺をみる。
「和希は眠くないのか?」
「俺は平気だよ」
「・・・なんでだよ〜」
ぐりぐりと額を机におしつけつつ眠気を飛ばそうとしている様子に、俺はまたクスリと笑う。

だって。
啓太と二人きりなんだぜ?
いつも周りに人の絶えない啓太と、ようやくもてた二人きりの時間。
嬉しくて、ドキドキして、眠たくなるわけがないんだ。
だけど啓太は今も眠そうに、またあくびをしている。
啓太が眠くなってしまうのは俺のせいじゃないだろうけど。
でも、俺がそばにいるのにな、って、少し、切ない気もする。
結局意識しているのは俺だけなんだって、いまさらながらあらためて自覚させられて・・・
しかたがないとわかってはいても、あまりに無防備な啓太に苦笑が自嘲にかわる。

「そんなに眠いなら、ちょっと昼寝しちゃえば?俺、起こしてやるし」
「ん〜・・・」

机から体を起こす気配がないところをみると、俺の提案にのる気らしい。
「10分たったら起こしてやるから。10分でも、寝るとすっきりするんだよな」
「ん〜・・・じゃ、和希、あとで起こしてくれよ」
「あぁ」
啓太は腕を机において、その上に頭をのせた。
やがて、啓太の寝息がきこえてきて、俺は時計の針の位置を確認した。

すぅ、すぅ、と啓太の寝息をききながら宿題をやるということが、
かなり難しいことを俺はこのとき初めて知った。
どうしたって気になって仕方がない。
あたりまえだよな。好きな子が無防備に隣で寝息たててるんだぜ?
気にならない方がどうかしてる。
ちら、と横目でみてみると、腕で半分隠れてはいるものの、啓太の寝顔がばっちりみれる。
俺はため息をついて、手にしていたシャーペンを置いた。
どうせはかどらないなら、最初からガマンなんてせず、据え膳をいただくとするか・・・
ひらきなおった俺は啓太の方にむきなおって、ほおづえつきつつ啓太を観察する。

・・・寝顔は小さい頃の啓太の面影をそのまま残していた。
懐かしい記憶を思い出して、一人微笑む。
たしかあの頃も、勉強が終わらない俺の隣で啓太は待ちきれずに眠っちゃったりしたんだっけ。
風邪をひいてはいけないと、なにか上にかけるものをと立ち上がろうとしたら、
小さな啓太の手がしっかりと俺のシャツのすそをつかんでいた。
そのことに気づいた俺は、あまりに純粋すぎる好意にとまどってしまって、
どうすることもできずにそのまま立ちすくんでしまった。
自分を必要としてくれる人の存在が、こんなにも愛しく感じるものだったなんて。
そのことを俺は啓太に教えられた。

俺は今、おまえの役にたっているだろうか。
俺はおまえにとって必要な存在だろうか。
守ってやりたい・・・それは身の程知らずな願いなのかもしれない。
ただ、俺が啓太のそばにいたいがための方便にすぎないのかもしれない。
こうして啓太の寝顔を見守れるのは俺だけなのだと、そんな思い込みの優越感にひたっていたい。

時間まであと1分。
こんなに気持ちよさそうに眠っている啓太を起こしてしまうのはしのびないけれど、約束は約束。
どうやって起こしてやろうかなと考えて、不埒なことがふと頭をかすめた。
・・・もう、何度となく似たようなことしてきてるわけだし。
ほんの少し、触れるだけなら、許してもらえないだろうか。

あたりに誰もいないことを確認して、啓太の上にかがみこむ。
目元にかかった髪をそっと手でよけて、そこに俺は口づけた。

「・・・っ・・・ん・・・?」

起こそうと思ってしたキスだから、起きてもらわなくちゃ困るわけだけど。
こんなことをしてしまってと、胸がドキドキしている。

それでもなにくわぬ顔で、ふたたび机の上にほおづえついてにこりと微笑む。

「おはよ、啓太。約束の10分だぞ」
「ん、ん〜・・・あぁ、サンキュ、和希・・・」

・・・どうやら啓太はなにも気づいていないらしい。
ほっとすると同時に、少し残念?

「どうだ?少しはすっきりしたか?」
「ん〜っ・・・そうだね。だいぶいいかも」
「そうか。じゃ、宿題再開するか?」
「・・・だな!」

眠気もとれ、いつもの元気な啓太の笑顔に、俺も自然とつられて笑顔になる。
啓太の寝てるうちにキスしてしまうなんて、我ながら姑息だとは思うけれど、
彼に触れることが出来た、ただそれだけで、俺はこんなに幸せな気持ちになる。
また、彼への愛しさがこみあげてくる。

「あのさー、啓太」
「なに?」
「もし俺が寝てたら・・・キスして起こしてくれない?」

きょとんとした啓太に、俺は "ジョーダン!" とウィンクした。

ラストはすこし調子にのってみた和希さんということで。
和希にウィンクされた啓太は、内心ドキッとしてしまったりするわけです。
だって和希いい男だしー??(笑)
こういう触れるだけのキスの方が、愛情を感じられて好きです♪
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