Peanuts Kingdom 学園ヘヴン

キス上手

「はい、どうぞ」
目の前にさしだされたパフェに啓太は瞳を輝かせる。
「うわぁー、これ、本当に七条さんが作ったんですか?」
土台のフレークの上にバニラアイス、チョコアイス、ストロベリーアイスの三色アイスがのっかり、
パフェの器のふちには丁寧に生クリームでデコレーションまでされている。
そしててっぺんにはお約束のさくらんぼ。
七条はギャルソンエプロンで手をふきつつ、えぇ、もちろん、とうなづく。
「会計室に来てそうそう、なにかごそごそやっているかと思えばこんなことを・・・」
西園寺はそう言ってあきれたようにため息をつくけれど、七条の甘党友達である啓太は大喜びだ。
「でも本当においしそうですよ。すごいなぁ・・・七条さんて本当になんでもできるんですね」
「ありがとう、伊藤くん。君に喜んでもらえるのは嬉しいですね」
「でも七条さんのは・・・?」
「僕のはこちら。アイスクリームサンデーです」
パフェの器よりひらべったいサンデーの器に盛られているのは、啓太のパフェに負けないボリュームのアイスたち。
もちろん、生クリームデコレーションと、さくらんぼつきだ。
「うわぁ・・・こっちもおいしそう」
「啓太、そんなにがっつと、太るぞ」
西園寺さんにたしなめられ、啓太はハーイと照れた笑みを浮かべる。
「郁にはこちら。シンプルなバニラアイスです」
そういって西園寺の前にさしだされたアイスの上には、やはりさくらんぼがのっかっている。
ふたたびため息をつく西園寺に、啓太はこっそり苦笑した。

放課後時間はありますか?と七条にたずねられ、
いつものお手伝いの依頼かと、人のよい啓太はなんの疑問もなく会計室を訪れた。
来てみればお茶会へのご招待だったというわけで、啓太はごきげんでさっそくアイスをすくって一口。
「おいしい!」
「ふふ、牧場直営のアイスクリームなんですよ。市販のものより濃厚でしょう?」
「もしかして・・・この生クリームも?」
「ご明察です」
「へぇー・・・なんかさくらんぼまでついてて、すごい凝ってますよね」
「パフェにはさくらんぼがつきものかと思いまして。こちらは缶詰なんですけどね」
七条はそう言ってアイスのてっぺんにのっていたさくらんぼの茎をつまみあげた。
「伊藤くん。こういうのをご存知ですか?さくらんぼの茎を舌だけで結ぶことが出来ると・・・」
「え?・・・あ、あぁ・・・えっと、上手に結べると・・・キス、がうまい、っていうんですよね?」
ほんのり頬を紅く染めつつ啓太がそうこたえると、七条はにこりと微笑む。
「やってみませんか?」
「えっ」
「郁にもさくらんぼがありますよね」
「私はいい」
「おや。自信がないんですか?」
「バカなことを。くだらない労力はつかいたくないだけだ」
「つまらないですね。じゃ、伊藤くん」
「うっ・・・」
有無をいわさぬ七条の様子におされて、啓太はしかたなくさくらんぼをつまみあげる。
ぱくんと茎ごとほおばって、茎は残して種だけだした。
「準備はいいですか?」
七条は実だけ残して茎だけをつまんでいる。実を食べずともそうすればよかったと啓太はこっそり照れる。
「では」
七条が茎を口の中に含んだのをみて、啓太も早速舌を動かしはじめた。
啓太と七条がもごもご口を動かしているのを、西園寺は紅茶を飲みつつしかたのない、と眺めている。
しばらくして・・・
「できました」
「早っ?!」
七条がぺろ、と舌を出すと、その上にはひとつ結わきされた茎がのっかっていた。
その茎を指でつまんで、七条はにこ、と啓太に微笑む。
「伊藤くんはまだできませんか?」
「えっと・・・んー・・・・・・んむむむむ・・・」
舌の動きにあわせて、視線まであっちこっちに動いてしまう。
「茎が短かったのかもしれませんね。無理しなくてもいいですよ」
「むー・・・っ、はぁ〜、だめです。できません」
啓太はがっかりしてため息をつく。
手のひらに出した茎はさして短いとは思えないのだが。
「啓太はキス下手か」
西園寺はのどの奥でくつくつ笑っている。
「まぁ、遊びですから。がっかりする必要はないですよ、伊藤くん」
七条になぐさめられると、なんだか余計にがっくりしてしまう。
啓太はハハハと情けない笑みを浮かべた。

もしかしたら自分は本当にキス下手なのかもしれない・・・
寮へと帰りみちすがら、啓太はなんとなくしょんぼりしてしまう。
でもだってしかたがないと思うのだ。
和希と出会うまで、キスの経験なんてなかったわけだし。
今だってキスの仕方なんてわからない。
いつも和希にリードされるまま・・・だし。
でももしかしたらそれって、和希に "ヘタクソ" と思われてるのではないだろうか。
「・・・はぁあぁぁ〜」
深いため息はそれだけ啓太の苦悩をあらわしていた。

その日の夜、いつものように、すっかり寝るしたくのできた啓太が和希のベッドの上で枕を抱えて体育座りをしていた。
残業、という名の仕事をかたづけている和希の背中をながめては、はぁ・・・とため息が漏れ出てしまう。
何度目かのため息に、和希も苦笑して振り返った。
「どうしたんだよ。さっきからため息ばかりついて。・・・具合でも悪いのか?」
「そんなんじゃないけど・・・」
ちら、と和希を見上げる瞳の周りが、ほんのり紅く染まっている。
やけに可愛らしいその様子に、まだ仕事途中だというのに和希は立ち上がり、啓太の横に座った。
「なに?」
にこ、と微笑みかける和希の表情はいつも頼もしく感じてしまって、つい、啓太も甘ったれた気分になってしまう。
枕に半分顔をうずめ、啓太はぼしょぼしょ話し出す。
「俺・・・もしかして、その・・・ヘタクソなのかなって思って・・・」
「・・・・・・なにが?」
「・・・・・・き、す」
「は?」
何を言われたのかわからず思わず和希がききかえすと、啓太はむっとした顔になった。
「だぁかぁらぁ〜・・・俺、和希とするのが初めてだったから、よく・・・やり方とかわからないし。
ちゃんとできてるかどうか・・・わからないんだもん」
「・・・・・・なにが?」
再び間のぬけた和希の返事に、啓太はますますへの字口になってしまった。
「だから、キスのやり方ぁ!」
「っ・・・あー・・・」
真っ赤になってにらみつけてくる啓太の意思をようやっとくみとって、和希は苦笑した。
「なに急に。おかしなこと思いついたな」
「おかしなことって・・・だ、大事なことだろぉ?!」
「いや、まぁ・・・はは、可愛いな、啓太」
頭をナデナデされてしまって、すっかり子供扱いの和希に、啓太の不機嫌メーターがぐーんと上昇してしまう。
「ちょっとっ、俺、本気で悩んで・・・っ」
つっかかってくる啓太を和希は軽く手で制した。
「わかった、わかった。じゃ、実践あるのみ。啓太、俺にキスしてみろよ」
「へっ・・・」
「俺はおとなしくしてるから・・・啓太がしてみて?」
じっ、と意味ありげな瞳でみつめられて、啓太は急にドキドキしてきてしまう。
「えっと・・・」
じゃあ、と、和希の方にむきなおって、両肩に手をおいて、いざ、と和希をみつめる。
「・・・和希、目ぇ閉じろよ」
あいかわらず口がへの字に曲がってしまっている啓太に怒られ、はいはいと和希は目を閉じる。
目を閉じてもなんだか嬉しそうな和希をみてたら・・・なんだかシャクにさわってきて。

ゴンッ

「てっ。なんで頭突きするんだよ」
「いいから目、閉じてろよっ」
照れ隠しに頭突きだなんて、痛いじゃないかとぶちぶち言いつつ、和希はまた目を閉じる。
イタズラをしてやったので、少しリラックスできた啓太は、よし、と意をけっして顔を近づけた。

チュ

「・・・・・・ん?」
一瞬触れただけですぐ離れてしまったことを不審に思って和希が目をあけると、
あいかわらず啓太はむーっとしてて。
「な・・・なんで怒ってんの?」
「・・・なんかやりづらい」
「えぇ?」
啓太の頭がだんだん下むきになっていって、最後にはがっくりうなだれてしまう。
「だぁ〜めぇ〜・・・俺やっぱヘタクソなんだぁぁ〜」
思わずブッ、と噴出した和希に、啓太はギッとにらみつけた。
だけど和希としてもいい加減もう限界で。
への字というより、だだをこねてる子供のようにとがってしまった啓太の唇に、軽くキスをおとした。
「えっ・・・」
驚いて思わず開いてしまった口内に、すかさず舌が差し入れられる。
意思をもって動くざらりとした熱。
舌を舐められ、強引に絡みとられ、ジンと、頭の芯がしびれる。
ようやっと唇が離れたかと思った次の瞬間、きつく角度をつけられさらに深くキスをされる。
「ンっ・・・」 呼吸をするのもままならぬ性急とも思える和希のキスに、心臓が痛いほど鼓動を打っている。
口中を舐められ、飲みきれなかった唾液が、口を端をつたっていってもまだ・・・
「ン・・・フ・・・・・・」
自然と啓太も和希を求めて、体をすり寄せる。
恍惚・・・といった感の啓太の表情をチラリと盗み見て、和希はこっそり微笑んだ。

長いキスが終わり――啓太は和希の肩にがっくりとうなだれかかっていた。
肩で息をつく啓太を、和希は愛しげに抱きしめる。
「啓太はキス上手だよ。何度でもしたくなる」
「ば・・・かやろ・・・」
啓太は和希にもたれたまま、空いた手で頬の肉をつまんだ。
「いだいいだいいだいいだい〜っ、なんでつねるんだよっ」
この調子だともしかしたらさくらんぼの茎でちょうちょ結びくらいできてしまうんじゃなかろうか。
一枚上手の恋人に、結局いいようにされてしまう自分を情けなく思いつつも、
いつか自分がリードしてメロメロにしてやると固く決意する啓太なのであった。

あーんよーはじょーずー♪というわけで、啓太はこれからも和希に手とり足とり腰とりで教えこまれていくのです。
お題はキス5題 【03】 情熱的に、でした〜
啓太はともかく、和希はキスのテクニックをどうやって学んだのでしょうね?
本能、というやつでしょうか?(にやり)
途中で頭突きやらほっぺの肉をつまんだりしたのは、啓太以上に私が照れたからです(爆)
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