Peanuts Kingdom 学園ヘヴン

寝惚けて

せっかくの日曜だというのに、情けないことに俺は仕事が終わってなくて。
啓太を待たせたままずっと机のパソコンに向かっていた。
それでも啓太は不満を言うこともなく、俺のベッドの上で雑誌読んだり、
ゲームしたりしてずっとそばにいてくれる。
ときおり振り返って、「悪いな」と声をかけるけど、
そのたび啓太はにこっと微笑んで、「ううん」と首を横に振る。
・・・幸せだ。
さっさと目の前の仕事をかたづけて、啓太との時間を楽しみたい。
その一念で休むことなくキーを叩き続けたけど・・・
いつのまにか結構な時間がたってしまっていたらしい。
ふと気づけば肩がばりばりこわばってしまっている。
ふー・・・疲れた。
完全にかたづいたわけじゃないけど、ここまでやればといったところまでできたことだし。
俺はノートPCの蓋を閉じ、啓太の方へ振り返った。

「けい・・・」

呼びかけて、あとの声はすんでで飲み込んだ。
啓太はベッドの上で丸くなって、眠ってしまっていた。
・・・あーあ。すっかり熟睡しちゃってる。
指がはさまれたままの雑誌が、啓太の睡魔との闘いを物語っている。
フ、と思わず笑みがこぼれる。

椅子からたちあがって、ベッドのかたわらの床に座る。
俺の枕をしっかり抱きしめているところが、本当に可愛くてたまらない。
代わりに俺がつくったクマさんを抱きしめさせてみたくなる。
幼かったあの頃の啓太と、なんら変わりのない愛らしさだろう。
・・・ま、啓太はいやがるだろうけどね。

「・・・ケータ、寝ちゃったの?」

わざと、昔のように話しかけてみる。

「ケータ、なにもかけてないんじゃ、風邪ひくぞ」
「ん・・・」

遠い記憶が心をくすぐる。
ソファで待っているうちに、眠ってしまった小さい啓太。
起こさないように、でも風邪ひかないように、そっと毛布をかけてやったっけ。

やわらかな啓太の髪に手をそえて、ふんわりなでてやりながら、
そっと耳元に口をよせて囁く。

「もう、勉強終わったぞ、ケータ・・・」

「・・・カズ・・・に・・・・・・」

啓太も昔の夢をみているのだろうか。
ひさしぶりにきけたその呼び名に、こみあげてくる笑みをおさえることができない。

「なにして遊びたい?ケータ・・・」

「・・・・・・ほん・・・よんで・・・」

小さい啓太が、大きな絵本をかかえて立っている。
頬をピンク色にそめて、期待をこめた瞳がきらきらしていた。
本を読んでやるだけで、啓太は大喜びで。
お気に入りのところがあれば、俺も何度も読んでやったっけ。

「・・・わかったよ、ケータ。じゃ・・・おいで」

「ふ・・・」

そう言って、そうっと頭の下に手をさしいれると、
啓太の腕が俺の首にまわされた。
こうして俺は啓太を抱き上げて、夏の日差しのやわらぐ木陰まで歩いていくんだ。
しっかりと俺にしがみつく小さな手の重みが嬉しくて、愛しかった・・・

「カズ・・・兄・・・・・・・・・・・・っ?」

「・・・残念」

夢と現実とが交差して、啓太は目が覚めてしまったらしい。

「・・・えっ・・・えっ・・・な、なんで?」

キョトンとした顔で俺を見ている。
ふふ、そういう驚いた顔は、昔も今も変わらないな。

「今、昔の夢、みてただろ」
「えっ・・・なんで・・・」
「啓太、"カズ兄〜" って甘えてきて、かわいかったぞ」
「っ!!」
啓太の顔が真っ赤になるのと同時に、俺もリミッター解除。
ベッドの上にすばやく飛び乗ると、しっかり啓太を組み敷いた。
「ちょっ・・・なん、でっ・・・」
見上げる瞳はとまどいを隠せず、寝起きのせいでか潤んでもいる。
こんな顔で見つめられたら・・・どうしようもないよな?
「う・・・・・・」
キス、しようと顔をかたむければ、素直に閉じられる瞳。
しっとり合わさったやわらかな唇の感触を楽しんでからそっと離れると、啓太は小さく吐息をつく。
「・・・仕事は?」
「大丈夫」
「大丈夫って・・・終わってないのか?」
「だから、大丈夫だって」
眉間にしわなんか寄せているけど・・・啓太。
本当はおまえだって、もう・・・だろ?
軽く鼻をこすりあわせてから、再び啓太の唇に唇を重ねる。
おまえのカズ兄は、おまえにこんなことしちゃうなんて・・・悪いオニイサンだよな。

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