Peanuts Kingdom 学園ヘヴン

あいさつはしっかりと

俺はいま、いそいで和希の部屋へ向かっているところだ。
和希のやつ・・・出張からしばらくぶりで帰ってきたっていうのに、
着いたという連絡もなしのつぶて。
夜には到着するはずってきいてたから、俺、携帯そばにおいて待ってたのに、
気づいたら朝になってた。
携帯に和希からの着信はなし。

・・・それってずいぶん薄情なんじゃないか?

和希がじつはこの学園の理事長だって知ったとき。
そのときはだまされたって思っちゃって、腹もたてた。
でも、和希が俺の友達であることに変わりはないし、
和希もそうあり続けたいって言ってくれたから、

俺はいままでどおり。

和希の一番の親友として。
俺にできるかぎりのサポートをしているんだぜ?
たとえば和希が出られない授業のノートをとってやったりさ。
あとで和希に教えることができるように、すごく集中して授業もうけてるし。
・・・まぁ、これは俺にとってはいいことなんだけど。
あとは和希が数日もの間欠席することを心配する奴らに、適当に説明つけたり。
そうやって、いろいろ影ながら協力しているわけだよ、俺。

なのに。
その俺にひとこともあいさつなしってどういうことだよ!



腹たつイキオイにまかせて、俺は走って和希の部屋へと向かった。
部屋の前に着いたら、乱れた呼吸を整えて。

コンコンコンッ!

少し強めのノック。

中からの返事は・・・なし。
もう一度ノックをして。

「和希!」

声をかけてみたけど、やっぱり返事はなし。
ここで俺ははじめてあれ?と思った。


もしかして和希・・・まだ帰ってない?


あわてて携帯に打ち込んだスケジュールを確認する。
・・・うん、今日、帰ってくるはずだよな。
もしかしてまだ寝てるとか・・・それとも、どこか他の場所に?

ドアに背をもたれかけ、ピピピと和希の電話番号をよびだす。
発信ボタンをおして、呼び出しコールを数えはじめた。

プルルルル・・・
プルルルル・・・
プルルルル・・・
プッ

『啓太?』

和希の声をきいて、一気に体中の力が抜けた。
「和希・・・おまえ、どこにいるんだよっ」
力が抜けたと思ったら、次には怒りがこみあげてくる。
こんな気のぬけた声で、いったいどこでなにやってるんだよ!
『どこって・・・サーバー棟だけど』
「えっ・・・なんで・・・」
『こっち戻ってきたら早々に仕事が入っちゃってね。
でも今日から学校に出るっておまえに言っただろ?だから昨夜かたづけちゃおうと思って』

和希の言葉に、一瞬言葉がつまる。
「・・・徹夜したのか?」
俺に、今日から学校に戻るってそう約束・・・したから?
『完徹じゃないよ。すこし眠った・・・』
「和希・・・大丈夫か?」
さっきまでの怒りの反動か、和希に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
和希は俺のために・・・こんなにがんばってくれてたんだ。
なのに俺ってば、ひとことも連絡もよこさないって、そんなことで怒ったりして・・・
「・・・ごめん」
『えっ、なにが?』
「俺・・・和希が俺にひとことも連絡してくれないのに腹たてて、
今、和希の部屋の前に来てるんだ。たたきおこしてやるって」
そう言うと、電話の向こうで和希がブッと噴出したのがきこえた。
『ああ、そうか。悪い、悪い・・・でも、俺もこっち着いたの夜遅かったからさ。もう寝てるだろうと思って』
和希の言葉に、胸が痛む。
和希は俺に気遣って、そうしてくれてたんだ。
でも・・・でも、俺は・・・・・・
「・・・バカ。いいんだよ。おまえ一人でそんなになんでも背負い込むなよ。
俺は・・・俺だって、和希の役にたちたいって思ってるんだからな」
『啓太・・・』
いつだって、俺のそばにいて俺のことを思いやってくれるやつだから。
俺だって、和希のためになにかしてやりたいんだ。
和希の秘密を知ってる俺だからこそできることが、たくさんあるはずなんだから。
「もっと、俺のこと頼れよ。俺にそんなこと言ったからって、無理することなんかないんだ」
『・・・ありがと、啓太』
ほっとしたかのような、囁くような和希の声。
その声に、俺の気持ちもやわらかくほぐれていく。
俺の気持ち、ちゃんと和希に伝わったのが、嬉しい。

『でもな、啓太』
「え?」
『俺ががんばるのは、俺が一刻もはやく、おまえのところに行きたいって思ってるからだぜ』
「えっ・・・」
『啓太に早く会いたくて・・・だから時間を惜しんで仕事もするんだ』
「和希・・・・・・」

和希の思いがけない言葉に、俺はなんて返事をしたらいいのかわからなくなってしまう。
だって・・・そんな風に想ってくれてるって、なんか・・・すごくないか?

「そんな、の・・・大げさだよ、和希」
苦し紛れにそう茶化すと、電話の向こうで和希が笑った。
『そうか?俺の本心なんだけど』
「和希!?」
『ああ、でも、サンキュ、啓太。おかげで目が覚めたよ。
啓太のモーニングコールなら毎日でもお願いしたいくらいだな』
「ばっ・・・!」
『冗談。でも、待っててくれて、本当にありがとう。悪かったよ、連絡しなくて。心配かけたな』
「っ・・・いいよ、別に・・・ただ、これからはそういった遠慮はするなよ?」
『了解。じゃ、今から用意するよ。ちょっと遅れるかもしれないけれど、席、あけておいてくれよ』
「OK!じゃ、またあとで!」 

プッ、と切れてから、すっかり熱くなってしまった耳から携帯をはずして、
「はあ・・・」
深いため息。
久しぶりにきいた和希の声。

・・・ちょっと嬉しくなっちゃってる?俺。
結局、俺が和希を心配しているように、和希も俺を気遣っていてくれたってこと、だよな。
そう考えると、やっぱりなんか・・・嬉しい。

・・・一人でニヤニヤしてたら、みんなに変におもわれちゃうよな。

俺はゆるみきった口元を手で覆うと、和希のために、教室へと先を急いだ。

もしお気に召しましたら拍手をポチしてくださると嬉しいですv

上に戻る