Peanuts Kingdom 学園ヘヴン

今日の約束

放課後、啓太はひとり、走って寮へとむかっていた。
走ってきたいきおいのまま部屋に飛び込み、
ベルリバティスクールの赤いジャケットを脱ぎ捨てる。
あらかじめ用意しておいた服に急いで着替え、リュックを背負い、
啓太は再び部屋から走りでた。
その間、5分もあっただろうか。
啓太がこれだけ急ぐのにはわけがある。
なぜなら今日は、和希の誕生日なのだから。

今日、和希は学校を休んでいた。
啓太たちが学校からあがる夕方からはフリーになれるよう、仕事をかたづけるためだ。
だから啓太はまだ和希には会ってない。
おめでとうの一言も、言ってない。
そんなことも、余計に啓太を急がせる。

バスに乗って、ひさしぶりに島の外へ出る。
たまには外で食事でもしようかと和希の方から提案された。
その日、外で打ち合わせがあるからという理由もあるだろうけど、
啓太は素直にわくわくしてしまう。
外でこうして待ち合わせをするのも新鮮なことだから、
バスにこうして揺られている間も、啓太の頭は和希のことでいっぱいだ。
放課後になってすぐ飛び出したから、バスの中にはベルリバティスクール生の姿はない。
制服を脱ぎ捨てた啓太もまた、今は。
ただ和希を恋い慕う少年に過ぎない。

「啓太、こっちだ」

待ち合わせの場所、街で一番大きなホテルのエントランスで、
和希はいつもの赤い制服ではなく、理事長のときに着るスーツを着てそこにいた。
まわりにいつもしたがえている人の姿もないところをみると、一応OFFになったということだろうか。
啓太はおずおずと和希の方へと近づいていく。
「どうしたんだよ」
「えっ、いや・・・その。俺、こういうとこ、慣れてないからさ」
さっきまでのいきおいはどこへやら。
でもこれは啓太なりの思いやり。
和希のような立派な大人の男性が、一介の男子学生と会っていることが、
和希にとって不利なことになったりしないようにとの、啓太なりの気遣い。
こうした和希の隣に立つときは、自分もしっかりしなければと啓太は思っている。
そうしてがんばって背伸びしている啓太に、和希もまた愛しさを募らせる。
和希は目を細めて啓太をみつめると、くしゃ、とその髪をかるくなぜた。
「なぁーに、借りてきた猫みたくなっちゃってんだよ。もっとリラックス、リラックス」
「っ、ちょっと、和希・・・」
「仕事の連中はみんな帰ったって。たとえ啓太と会ってるとこをみられたとしたって困ることなんかなにもないんだから」
「そういうわけにもいかないだろ。おまえは理事長で、俺はその学校の生徒なんだから」
「それが?」
和希はきょとんとした顔で啓太をみつめている。
えっ、本当に理解していないのか?と、啓太はおもわずいぶかしげな顔になる。
「そういうの、特別扱いっていうんじゃないのか」
「だって・・・しかたないだろ。啓太は俺にとって、特別なんだから」
「っ・・・」
そんなセリフを "カズ兄" の顔して言われると、啓太はもうなにも言えなくなる。
頬を染めて目をそむける啓太の頭を、和希の手がぽんぽんとなでた。
「それに、今日は特別な日でもあるだろ」
パチンとウィンクまでされてしまって、啓太はますます赤くなる。
一瞬、どうしようかと言葉がのどまででかかったけど、すんでのところで飲み込む。
特別なことだから。
こんな落ち着かない場所でじゃなくて、ちゃんとしたところで伝えたい。
唇をかみしめている啓太の様子をどう思ったのか、和希はクスッと笑って、行こうかと啓太の背に手を添えた。

二人が向かったのは最上階のレストラン・・・ではなくて、
ホテルの一室だった。
ちゃっかり部屋をリザーブしてしまっている和希の手際のよさに、啓太はまた閉口してしまう。
食事しにきたんじゃないのかよ!とつっこみたいところではあったけど、
なんといっても今日は和希の誕生日。
彼がのぞむならどんなことでもこたえてあげたい。
むしろ、そういったことを期待していないわけではない啓太だから。
少しとまどっている風ではあるけれど黙って後ろをついてくる啓太に、和希はそっと微笑む。
「そんな心配そうな顔しなくても大丈夫。俺にまかせとけって」
ピ、と電子ロックが解除され、和希はドアを大きくあけた。

「え・・・うっそ」

和希にうながされ部屋に入ってみたら、
啓太が予想していた室内とはだいぶ様子が変わっていた。
窓際に白いカバーがかけられたテーブルが備え付けられ、
その脇には銀色のワゴンがついている。
テーブルの上には食器がもう用意されていて、
まさに啓太たちの訪れを待っていたかのように食事の準備がされていた。
「ルームサービス、とってみたんだ。恥ずかしがり屋の啓太が落ち着いて食事できるように。こっちの方がよかっただろ?」
「恥ずかしがり屋って・・・でもすごいな、これ。こんなの俺はじめてだよ」
「喜んでもらえた?」
そういって機嫌よさそうに啓太の脇をとおりすぎ、テーブルへと歩みよる和希の背中に啓太はハッとする。
俺が和希に喜ばしてもらってどうするんだよ!
今日は和希の誕生日なんだから、俺が和希をお祝いするんだから。
啓太は和希にちかづくと、ぐいっと腕をひっぱって自分の方へふりむかせた。
「え・・・?」
驚いた和希の視界には、瞳を閉じた啓太の顔のアップ。
おしつけられた唇が離れると、啓太は恥ずかしそうに、でもまっすぐ和希をみつめて言った。

「和希、お誕生日、おめでとう!」
「啓太・・・」

和希の顔が喜びに輝く。
伝えたいことを伝えることができた啓太も満足!といった笑みを浮かべて。
「ちゃんと、プレゼントもあるんだ。っていっても、俺が準備できるものといったらたいしたことはないんだけど・・・」
背からリュックをおろし、啓太はごそごそ中をさぐった。
が。

「啓太っ・・・!」
「うっ、うわあっ?!」

不意に背後から和希に抱きつかれ、啓太は顔面からベッドに押し倒されてしまった。
「っ、ぷはっ!ちょっと、なにすんだよっ!」
「啓太、かわいいっ!最高!」
ぐりぐりと頭をおしつけ、全身で喜びを表現している和希はまるで子供。
啓太は苦笑してなんとか体を反転させると、正面からしっかり和希を抱きとめた。
「わかったから・・・ほら、どけって。プレゼントもあるんだから」
「啓太がいればそれでいいっ」
「ちょっ・・・あのな〜」
一瞬のキスと、おめでとうの一言でこんなに喜んでもらえるなんて。
啓太にしてみても嬉しかったし、つい可愛いなんて思えてしまう。
そういえば、ずっと仕事をがんばってきた和希がようやっと得た恋人との時間なわけで。
和希が啓太の前でしかみせない甘えも、
今日という特別な日であればもうなんでも受け止めてやるかと啓太も思ってしまう。
けれど。

「・・・和希、いつまでこうしているつもりだ?」
「え〜?」
「あのさ、食事、用意されてるんだろ?冷めちゃうぞ」
「ん〜大丈夫だろ」
「そんな・・・あとプレゼントだってまだ渡してないのに」
「あとでちゃんともらうよ」
「っ・・・もう〜・・・」

ワゴンの食事はどうするのだろうとか、
本当はプレゼントすぐ渡したいのにとか、
啓太が頭の中でいろいろ考えているその時も、
和希の手は啓太の頭をなでたり、ぎゅっと抱きしめたりと、啓太のぬくもりを楽しんでいた。
そして・・・徐々にその動きにあきらかな意図がみえるようになってきて。
「ちょっ・・・和希?」
「・・・ん?」
「なにやって・・・っ?!」
いたずらな箇所まで触れられて、啓太の体がビクッとはねた。
「和希っ・・・?!」
「・・・食事よりなによりも、まずは・・・啓太が欲しい」
「っ!・・・も、もう・・・」
こうなってしまっては、啓太も和希をはねのけることなどできようはずもない。
啓太自身、和希のバースデーを祝うこの時を、待ちに待っていたのだから。
和希と一緒に、和希のために、共に過ごすこの時を楽しみにしていたのだから。
「今日は・・・特別だからな」
照れ隠しに口をとがらせ、啓太がそう言うと、和希は嬉しそうに、
「特別、か・・・じゃあ、特別なこともしてもいい、ってことかな?」
と言って幸せそうに笑った。

ハッピーバースディ、和希。

結局、「俺がプレゼントだよ、か・ず・きv」ってなお約束な展開になってしまいました。
しっかり啓太をいただいた後の料理はきっちり冷めてしまっていることでしょう!
それでもアツアツの二人で食べるなら、冷めた料理でも美味しいってか。
ごちそーさまです(笑)
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