ホントウの気持ち 3
七条さんは、俺自身の気持ちを大切にしろって、そうアドバイスしてくれた。
ならば答えはひとつ。
俺は和希のそばを離れたくない。
和希と一緒にいたい。
たとえ和希が俺をどう思っていようとも。
でもそれは和希にとって望む形ではないだろう。
和希は俺を・・・恋愛対象としてみているのだから。
好きな相手に、同じ想いを寄せてもらいたいと願うのが恋心のはず。
俺は和希に、残酷で身勝手な願いをぶつけることになるのかもしれない。
それでも。
放課後、俺は急いで教室へと向かった。
先生と顔をあわせたらなんて言い訳しようと不安もあったが、それよりなによりまず和希をつかまえなければ。
息せきって教室にたどりついて、いそいで和希の姿を探す。―――いた。
「和希ぃっ」
急に呼ばれて目を丸くしている和希の元に、俺はまたいそいで走りよった。
「啓太・・・おまえ、どうしたんだよ」
びっくりしている和希はいつもと変わらぬ様子にみえて、それが俺をほっと安堵させた。
俺は息を整えて和希にまっすぐ視線をむけた。
「和希、話がある。このあと時間あるか?」
「っ・・・あ、ああ・・・」
和希の瞳がかすかに揺らぐ。・・・あぁ、こんな顔をさせたいわけじゃないのに。
和希を連れて俺がむかったのは、二人きりになれる場所、まぁ、俺の部屋だった。
こんな話をしているところなんて誰にもみられたくないし、俺の部屋なら、俺も落ち着いて話が出来ると思って。
和希はいつもどおり、ベッドの端に座って少し、居心地悪そうな表情を浮かべている。
俺はさっさと荷物を机の上に放り出すと、椅子を和希の前にひっぱってきてそこに座った。
「えっと」
「・・・・・・」
「えー・・・と・・・」
なんて切り出したらいいのか、いざとなるととまどってしまう。
やっぱりこういうのって言いづらい。
俺があー、とかうーとか言ってるのをみて、和希がようやっとクスリと笑う。
「どうしたんだよ」
和希が笑ってくれたことに対して、俺の緊張がほっとほどける。
俺はウン、と一人うなずくと、一気にきりだした。
「和希、さっき俺にしたことだけど」
「・・・・・・」
「それってやっぱ・・・そういうこと、なのか?」
うかがうようにそうたずねてみると、和希の表情が少し寂しげなものになった。
「そんなことをわざわざ俺にききなおすのか?」
「っ・・・いや、その・・・確認したかったんだよ。俺が一人ぐるぐる考えすぎてただけじゃないかって」
「そうだったらいいと思うなら、そう思っていればいいよ。啓太がどう受け止めるかは、啓太自身が決めることだ」
「そんなっ・・・」
そんな・・・こんなの、ただの開き直りじゃないか。
和希自身の気持ちすら俺にゆだねるというのだろうか。そんなの・・・そんなのってないよ・・・
「じゃあ和希は・・・あんなことがあっても俺は気にせずに、いままでどおりそばにいてくれたらいいって、そう思ってるのか?」
「・・・ずいぶん都合のいい願望だよな。でも、そう思ってるよ」
「和希・・・」
和希の視線が俺からそらされる。
かすかに笑っているようにみえるのは、自嘲しているようにもみえて。
「本当に、俺ってばどうしようもないよな。我ながら、独占欲が強くてまいっちゃうよ。おまえに気持ち悪がられてもしかたが・・・」
「気持ち悪いなんて思ってないっ」
俺は思わず椅子からおりて、和希の足元の床に座った。
俺からそむけられた顔を見上げて、必死のおもいで和希をみつめた。
「俺は・・・俺が悩んでいたのは、どうしたらいままでと変わらず和希のそばにいられるかってことなんだぞ。
和希の方こそ、俺のそばにいるのは辛いんじゃないかって・・・」
そうだよ。
だって俺、和希の好意に甘えるだけ甘えてきて、そしてこれからもよろしくな、なんて、
それこそムシのよすぎる話じゃないか。
大切な友達の気持ちなら、真摯に受け止めてやりたい。
できうる限り、和希の気持ちにこたえてやりたい。
「俺、和希のこと大事だから。俺のせいで、和希が辛い思いをするのはイヤだよ。でも・・・和希と一緒にいたいよ・・・」
これが俺の本当の気持ち。
ちゃんと伝えたい、大切な想い。
「啓太・・・」
和希は体を起こすと、俺の方へと手を伸ばしてきた。
暖かな両手の平が、俺の頭を包む。
間近で和希の視線と交わって、ドキン、と心臓がとびはねた。
ものすごく切なげな瞳にみつめられて、胸がきゅうっとしめつけられる。
でも、たしかに伝わってくる、俺への、"愛しい" という気持ち・・・。
和希の体がベッドからすべりおちて、そのまましっかりと抱きしめられる。
でも、抱きしめられるというより、大きな子供にすがられているような不思議な感じ。
これが・・・求められている、という感覚なのだろうか・・・。
俺も腕の中にそのぬくもりを感じてみたくて、ゆっくりと和希の背中に腕をまわした。
ぎゅ、と抱きしめると、和希の腕にも力がこめられた。
・・・そばに、いたい。
こんなにも俺のことを想ってくれて、それが伝わってきて・・・幸せな気持ち。
本当は困っていたはずなのに、なぜだろう・・・男だからとか、友達だからとか、そういうのはもう関係なくて。
ただ、和希という存在が・・・・・・愛しい・・・?
長い抱擁をといて、ふと、視線が合う。
なんとなく、申し訳なさそうな、情けない顔した和希をなぐさめたくて。
俺はふっ、と笑みを浮かべた。
「・・・大丈夫だから。俺、ちゃんとここにいるから。和希のそばにいるよ。・・・いても、かまわないんだろう?」
「・・・・・・ああ」
ようやっと和希も安心してくれたのだろうか。はにかむような微笑が、なんだかかわいくみえてしまう。
俺はクスクス笑いながら、和希の頭をなでてみる。
「よしよし」
「・・・なに?」
「いや・・・おまえってずいぶん可愛いやつだったんだなって思って」
「へぇ・・・啓太は可愛い子が好みなんだ?じゃあ、これからはその路線でがんばってみようかな」
「ばーか」
二人して同時にプッとふきだして、もう一度笑いあった。
俺はこうして和希と一緒にいて、笑いあってるだけでいいって思ってる。
でも。
和希を愛しいと感じて抱きしめた・・・その感覚は、じんわりと暖かく俺の心を包み込んだ。
嬉しいのに、泣きたくなるような不思議な気持ち。
好きな人と抱き合ったことって、そういえばいままでなかったっけ。
好きな人って、そばにいるだけでドキドキしてしまう、そういった存在だと思っていたのだけど。
触れ合うことによってその大切さを感じることができる・・・そんな気持ちもあるのだと知った。
俺が和希のことを、和希と同じような気持ちで想う日がくるかどうか・・・いまはまだわからない。
でも、たしかに彼は、俺にとって特別な人。
大切な人なんだ。
リクエストにおこたえして書かせていただきました、「ホントウの気持ち」これで完結でございます。
啓太は優しい子なので・・・人の好意を素直に受け止める傾向があると思うんです。
でも成瀬さんをフった時点で、啓太は和希を選んだんです。
そんな和希が、成瀬さんと同じような気持ちを啓太に抱いてると知った啓太は、どんな行動に出るか・・・
一人じゃもんもんとしそうなので、七条さんに登場してもらいました。
七条さん、ありがとう(笑)
結局ラブラブにはいたっておりませんが、和希のことですから。
きっとこれからじっくりじんわりと啓太を攻略していってくれると思います。
「僕だって、伊藤くんのことが好きですよ?」と、七条さんが後ろでうるさいです(笑)
啓太を結構男の子っぽく、お兄ちゃんっぽく書けて楽しかったです♪