初秋の平泉は外歩きも心地よい。
あのうだるような熱気は去り、吹く風は適度な水気を含んでひぃやりしている。
執務が一段落ついたのを見計らって、泰衡は伽羅之御所を離れ、近隣の村を訪れていた。
村人は泰衡の姿をみつけるとどんなに遠くからでもうやうやしく頭を下げる。
そんな純朴な民たちをみつめる泰衡の瞳は優しい。
総領として育てられた泰衡の魂には、彼らとこの地を守るという使命がしっかりと刻み込まれている。
平和の恩恵に満ちた平泉を感じることが出来るこのひとときこそ、泰衡を動かす原動力となる。
とはいえ、戦は間近にせまりつつある。
いつ事変が起こってもおかしくはない。
一人気楽にそぞろ歩きするわけにはいかないのが総領たる不便さであったが、傍らに控える銀は他の無骨な奥州武者とは異なり、いたずらに民を威嚇するようなこともなく、泰衡の気を散らすようなこともないのが幸いであった。
「泰衡様・・・」
「なんだ」
あくまで控えめに、主の邪魔にならぬよう、声をひそめて銀が言う。
「空の様子が怪しくなってまいりました。空気にも湿り気が多く含まれております。夕立がくるやもしれませぬ」
「む」
銀の言うとおり、みあげれば不穏な色をした雲が空を覆いはじめている。
「今から戻れば間に合うか」
穏やかな時をさえぎられ、泰衡の眉間の皺がす、と深くなる。
泰衡は黒衣をひるがえし、伽羅之御所へと続く道をひきかえしはじめた。
村から出て山道を行きはじめると、早速雨粒がぽつりぽつりと泰衡の額に落ち始めた。
予想以上に雲の流れが早かったらしい。
しかし、夕立であればすぐにやむであろう、舘までの道もここからならさほどかからずとも戻れると考えた泰衡は、雨が衣を濡らしはじめても足を止めることはなかった。
銀は前を早歩く泰衡に追いつき、進言する。
「泰衡様、このままでは濡れます。ここからならあの村へ戻られた方が・・・」
「俺が突然押しかけたら民にとっては迷惑であろう。このまま行くぞ」
「・・・はっ」
表情には出さないが、泰衡の民への深い思いやりに、
やはりたいしたお方だと銀は密かに感心する。
と同時に安易な己の思いつきに銀は恥じた。
なんの力ももたぬ自分ができることといえば、せめて少しでも雨から主を守ること。
銀はすばやくあたりを見渡した。
雨が酷くなってきたとき、主を雨から避けさせるよい場所はないか。
道からはずれ森の中に入れば、生い茂る葉が多少雨を避けてくれはするだろうが・・・
なんとかせねばと焦る銀をあざ笑うかのごとく、雨は刻一刻とその激しさを増していく。
このまま主を雨ざらしにするわけにはいかない。
「泰衡様っ、肩布をお外しくださいっ。それを頭からかぶって・・・この先は銀がご案内いたします」
主を気遣う下僕の言に従うのも、主たるものの役目。
泰衡は言われたとおりに肩布をはずし、頭からはおった。
「雨を避けられる大木のうろなどを探しましょう。森の中へ入ります。
お足元にお気をつけくださいませ」
泰衡は黙ってこくりとうなずいた。
厚い雲に日の光をさえぎられた森の中は薄暗く、
茂った葉によってさえぎられた分、たまりかねて落ちてくる雨の雫はぼたっと泰衡の頭を打った。
泰衡の与えた水色の衣に身を包む銀の姿は朧に白く浮かび、泰衡を先導して歩いていく。
雨よけの場所を懸命に探している様子が後姿からも察することができる。
泰衡としてはこれしきの通り雨・・・と、そのへんで適当に過ごしてしまってもよいと考えていたが、じつのところ、にわかに冷えてきた空気にそう強がるわけにもいかなくなってきていた。
晴れていれば日中は穏やかであっても、初秋ともなれば夜は冷える。
ましてやこの雨だ。
すぐにでもやんでくれればよいのだが、空の色はどんどん重みを増していく。
夜陰にまぎれての雨中夜討ちの訓練だとうそぶけば、なんとか耐えられるだろうか・・・
「あっ・・・泰衡様。あそこに小屋がみえます」
はっとして立ち止まった銀の視線の先をみれば、そこにはたしかに小屋とおぼしき影が。
銀は泰衡の方へふりかえり、
「雨のやむまで、あちらで休まられてはいかがでしょう。
急ぎ、小屋の主に雨宿りを乞うてまいりましょう」
といってひざまづいた。
人里離れた、まるで人を避けるかのようにたたずむ小屋となれば、なにかしら不穏の輩の棲家となっている可能性もなきにしもあらず。
用心していけと一言かけると、銀は「はっ」と頭をさげ、足早に小屋の方へとかけていった。
泰衡はそばにあった大木の幹に身を寄せ、銀の動向を見守った。
懐に忍ばせた小刀がそこにあることを確認して、銀はそうっと小屋に近づいた。
中にはなんの気配も感じられない。
誰かが住んでいる様子もない。
窓から中をうかがうと、住居というより単なる物置小屋のようであった。
火の気もなく、雨漏りをしている箇所もありそうだが、このまま雨の中野ざらしになっているよりはましであろう。
打ち捨てられて大分たつのか扉はなかなか開かなかったが、開けた瞬間濃厚な湿めった香りが外へと流れ出た。
銀は中へ入ると扉だけでなく窓も大きく開けはなし、新鮮な空気をとりこんだ。
無造作にころがっていた藁を束ね、散らかった床を掃き、なんとか泰衡が休めるような場所を整える。
一方外から見守っていた泰衡は、銀が小屋に入ったきり出てこないのをみて、ほうっと安堵のため息をついた。
「泰衡様、お待たせいたしました」
ようやっと小屋から出てきた銀が泰衡を迎えに来た。
濡れた上、埃だらけの小屋の中を掃除していたせいで、服のそちこちが泥で汚れてしまっている。
それでもようやく泰衡を雨に濡れない場所に案内できると、銀の表情は明るかった。
忠義な下僕の健気な様子に、泰衡もふと笑みをこぼした。
雨雲はますます厚みを増し、あたりは暗くなっていく。
そしてときおり光る稲光と続いて響く雷鳴。
なんとか避難できる小屋をみつけることができてよかったと、銀はほっとした。
「泰衡様、そのままではお体が冷えてしまいます。完全に乾かすのは難しゅうございますが、どうぞこちらへ」
小屋の中にあったのであろう長い棒を天井の梁に渡し、そこに泰衡の衣をかけて干そうとしているらしい。
泰衡は手に持っていた肩布を銀に渡した。
「下のお召し物も濡れておりますね・・・・・・申し訳ございませぬ」
「なぜおまえがあやまる」
「いえ・・・あらかじめこちらに小屋があると知っていれば・・・いえ、そもそも夕立がきそうだということをもっと早く気づいていれば・・・」
「そのようなせんなきことを言ってもしかたがあるまい。・・・ままよ」
泰衡はむっつりと口を結んだまま、銀の用意した場所へとどかっと座った。
「っ!」
濡れた指貫が泰衡の太股にぴたりとはりつき、その冷たさに体がビクリとはねた。
「泰衡様?」
「・・・・・・なんでもない」
気にしないよう気をつけて、泰衡はじっと腰をすえた。
じわじわと冷たさが肌を這っていくが、泰衡は気を張ってやりすごすことにした。
泰衡が落ち着いたのを見届けて、銀はこまこまと動きはじめる。
泰衡の肩布を梁に渡した棒にかけ、皺にならぬよう注意深く広げている。
布の端からぽたぽたと雫が垂れている。
泰衡は着ている上着のすそを指でしごくようにして揉んでみると、簡単に水がにじみ出てきた。
泰衡はふぅ、と軽くため息をつくと立ち上がった。
「泰衡様?」
「こちらも干せ」
肌にはりつく布を少々苛つきながらはがし、濡れて重くなった上着を銀に渡す。
肌着一枚になってしまったところに風がふきこみ、水気が蒸発すると同時に泰衡の熱を奪う。
ゾクッ、と身体を震わせた泰衡を、銀は気遣わしげにみつめた。
そしてはっと思い出したかのように、銀はふたたび泰衡の衣を干しにかかった。
少しでも早く乾くようにと布の端を絞る。
心細げな主にいっそ己の衣を捧げたいが、銀のもまた泰衡の衣以上に濡れている。
衣を干してやることしかできぬ歯がゆさに、銀はひそりと眉ねを寄せた。
「泰衡様、お寒くはございませぬか」
ふきこむ風を避けるため、窓をしめながら銀がたずねる。
火をおこすことができればいいが、物置にしかすぎぬ小屋にそのような設備があるはずもない。
あったとしてもこの風雨の中で火をおこすのは至難の業であろう。
小屋の中をみまわしてみても、冷えた身体をくるめるようなものもない。
なすすべもなく銀は泰衡の正面にひざまづき、主の様子をうかがう。
そんな銀に視線をやれば、前髪の先に丸い雫が光っていた。
銀もだいぶ濡れているはずだ。
この男は寒さを感じないのかと、呆れにも似た驚きで泰衡は銀をみつめた。
「乾かずともおまえの衣も干した方がよいのではないか」
「え・・・」
「濡れたままでいられて、具合を悪くされては面倒だ」
「あ、も、申し訳ございません」
銀自身は濡れていることなどまったく気になっていなかったのだが、知らないうちに身体を冷やしてしまうかもしれない。
役に立たないどころか泰衡の足手まといになるわけにはいかない。
銀は立ち上がると濡れて色の変わってしまった衣を急いで脱ぎ始めた。
そして泰衡の衣の邪魔にならないよう、端に己の衣を干しかけた。
「まだ、治らぬのか」
泰衡の声に銀が振り返る。
そしてその言葉の意味が銀の上半身を覆う布帯を示していることに気づき、銀はあぁ、と視線を落とした。
「よく、わかりませぬ・・・」
時折襲う肉を切り刻まれるような痛み。
皮膚にあらわれる赤紫の痕がなんなのか、銀にはわからなかった。
時を選ばず現れる苦痛を人には悟らせぬため、己を戒めるかのように布を身体にきつく巻いた。
常日頃は泰衡の手となり足となり、よく動く働き者。
人へ与える印象は柔和で、最初は周囲も戸惑いがあったものの、今となってはすっかり泰衡の近習として受け入れられている。
しかし、こうした銀の得体の知れぬ部分を目の当たりにすると。
―元はよそ者、流れ者。
この男の正体は一体・・・?
暗い感情が泰衡の心を冷やす。
そんな泰衡の感情の揺らぎも、銀は聡く察する。
「申し訳ありませぬ・・・」
銀としては、どこの馬の骨ともわからぬ自分を拾い、そば近くに召抱えてくれた泰衡に深く恩義を感じていた。
この救われた命は、泰衡のために捧げ働くべきなのだと強く自分を律していた。
泰衡の信頼を失い働く場を失ってしまうことは、命を絶たれることより恐ろしかった。
なにも持たない自分に、たった一つ与えられた泰衡という存在。
この主のためならばどんなことでもしてみせよう。
だから今は、自分のこの姿をみて不快にさせてしまったことをお詫び申し上げなければ。
「お見苦しいところを、おみせして申し訳ありませぬ」
「・・・いや」
先ほどとは打って変わって動きが固まってしまった銀をみて、泰衡はふぅ、とため息をついた。
こうして時折自分と銀との間に目に見えぬ壁を感じてしまうことがある。
主と下僕。
その関係に揺らぎはないが、それでも、時折心通わせる瞬間があることを泰衡は面白いと感じていた。
単なる卑しい男ではないことは、普段の立ち居振る舞いをみればわかる。
氏素性の記憶を失ってはいても、おそらく送っていたはずであろう日常生活習慣はぬけてはいなかった。
花や木々、素朴の中に潜む奥ゆかしい美などにも、銀は敏感に反応する。
和歌を歌わせれば朗々と読み上げ、舞も楽もそつなくこなしてみせる。
おそらくそこそこの身分の者だったのだろう。
それがこの乱世においてなんらかの戦にでも巻き込まれ、不幸にも記憶を失い、ここ平泉に流れてきたのであろう。
哀れ・・・と感情がそこにいきつく寸前で、泰衡は否、とおしとどまる。
前はどうであれ、今は下僕の身。
明日はわが身の儚き浮世である。
下僕として扱う以上にこの男にしてやれることはない。
哀れむことこそ、銀を貶めることになるだろう。
「銀!」
泰衡は少し強い語気で銀を呼んだ。
銀ははい、と、おとなしく泰衡のそばに近づいてきた。
そして泰衡の前でひざまづくと、頭を垂れた。
「もうよい。あとは雨が去るのを待とう」
「はい」
銀はもう一度頭を下げると、静かに扉の方へ行き、そこに座った。
扉のすきまからは風雨がふきこんでいる。
泰衡は今度は大げさにため息をついてみせた。
「銀」
「はい」
「そこにおっては濡れるであろう。中にいろ」
「っ、は、はい・・・」
泰衡の手招きに銀はあきらかに狼狽していた。
狭い小屋の中のことである。
服を干していることもあり、中で座れる場所といえば泰衡の隣くらいしかない。
「・・・・・・」
下僕の身で主の横に並ぶなど、非常時のことであっても抵抗がある。
それでも中に入れという主の命令には従わねばならない。
「・・・失礼いたします」
ようやっとそう言うと、銀は遠慮がちにそうっと泰衡の隣に座った。
徐々に雷は去っていき、それと共に風もだいぶ落ち着いてきた。
しかし、雨だけはそこに残され、いつまでも音をたてて降っている。
どのくらいそこにそうしていたのだろう。
雨があがれば明るくなると思っていた空も、いつのまにか薄闇色に染まりつつある。
「やまぬな・・・」
ぽつりと泰衡がつぶやくと、銀もまた「はい・・・」とこたえる。
このままここで一夜明かすことになるのかと、漠然と思う。
「お寒くはございませぬか」
再び銀がそうたずねてきた。
泰衡はごそ、と身じろぐと、
「そうだな・・・」
とこたえた。
身に着けていた肌着は泰衡の体温を奪って生乾きになっていたものの、その身を暖める役はまったく果たしていない。
濡れたままの指貫を身にまとい続けているのも気持ちが悪い。
戦中だとかいった気を張っているときならば、これしきのことと吹き飛ばせそうであるが・・・
「泰衡様、失礼いたします。お手を・・・」
「?」
請われるまま手をさしだしてやると、銀の手がそっと包んだ。
「・・・冷とうございます」
銀の手もけして暖かいといったものではなかったが、己の手を包む銀の手を暖かいと感じてるということは、泰衡の手の方が冷えてしまっているのだろう。
銀は泰衡の指貫にも触れ、まだ湿っていることを確認しているようだった。
「本当はこちらも、干した方がよろしいのですが・・・」
しかしそうなると、本格的に裸になってしまうことになる。
別にふんどし姿になることに抵抗はないが、下僕の前でというのはなんだか情けない。
それにこれ以上着物を剥かれては、ますます冷えてしまいそうである。
「かまわぬ」
泰衡は銀から顔をそむけた。
しかし、身体を動かした瞬間わき腹をかすめた冷たい感触に、泰衡はウッ、と息をつめた。
「泰衡様?」
「・・・なんでもない」
口ではそう言ってはいても、小刻みに身体が震えているのを銀は見逃さなかった。
このままでは本当に、主の身体に障りが出てしまうかもしれない。
銀はしばらくの間逡巡していたが、やがて、迷っていた気持ちをふっきった。
「泰衡様・・・服を、お脱ぎください」
「・・・なに?」
銀の言葉を聞き間違えたのかと、泰衡は銀をふりかえった。
しかし、銀は思いつめたような瞳で泰衡をまっすぐみつめて、
「服をお脱ぎください」
と、はっきりとそう言った。
驚きのあまりあんぐり口をあいた泰衡の前で銀は立ち上がると、さっさと自分の上半身を覆っていた布をほどきはじめた。
「し、しろがね?!」
なにをするつもりだと問う前に、銀が凛とした声でこたえた。
「このままでは泰衡様のお身体が冷えきってしまいます。僭越ながらこの銀の熱をもってして泰衡様をお守りいたします」
「なっ?!」
想像を超えた銀の申し出に、泰衡は返す言葉も失っていた。
この男がなにをするつもりなのか、どうしたいのか、まったく理解ができない。
しかし、上半身裸になった銀が「失礼します」と泰衡の指貫の紐に手をかけた瞬間、泰衡ははっとしてその手を押さえた。
「まっ、待て!いったい貴様、なにをするつもりだっ」
「ですから、私自身で泰衡様をお暖めしますと申し上げております」
「い、意味がわからぬ!」
「このまま濡れた服をお召しになられたままでは、お身体の熱がどんどん奪われていきます。
かといって裸のままでおられては、夜気にあたってお身体に障るやもしれませぬ。ですから、私の熱で泰衡様を―」
「俺になにをするつもりだ!」
切羽詰った泰衡の声に、銀ははっとした。
よくみれば、目の前の泰衡の顔は真っ赤になっている。
まるで・・・男にせまられた生娘のように。
この状況を客観的にみれば、たしかに銀が泰衡に関係をせまっているようにもみえる。
泰衡がなにに戸惑っているのかようやっと気づいた銀は、おもわずぶっ、と噴出した。
「銀?!」
笑われた?と、瞠目する泰衡をみて、銀はあわててその笑みをひっこませた。
「・・・申し訳ありませぬ。あまりに・・・いえ、その・・・ご安心くださいませ。なにもいたしませぬ。
ただ、泰衡様より私の方がまだ冷えておりませぬゆえ、私の熱を直接肌からお伝えしたいと・・・それだけでございます」
「・・・・・・?」
「人肌同士をくっつけるのが、暖をとる一番手っ取り早い方法にございます。
その上からあの泰衡様の肩布をかければ、一晩明かすことも苦ではありますまい」
「な・・・・・・」
ようやっと銀の意図するところを理解した泰衡であったが、それはそれでまた泰衡の想像を超えたものであった。
銀は泰衡の気をしずめるように、柔らかな微笑を浮かべた。
「私などがお相手ではご不満もございましょうが、ここは非常時ということで、ご辛抱いただけませぬか?私のことは、大きな火鉢とでもお思いくださいませ」
大きな火鉢、という銀の表現に、今度は泰衡がぶっと噴出した。
男同士が暖をとるためとはいえ裸で抱き合うだなどと、奇妙としか言いようがなかろう。
しかし、銀を火鉢と思えというのであれば、笑って後の語り草にもできるかもしれない。
なにより、冷えから逃れる唯一の方便なのであれば。
「・・・わかった」
泰衡が苦笑を浮かべるのをみて、銀もほっとして微笑んだ。
着物は自分で脱ぐという泰衡にあとはまかせ、銀は干してあった泰衡の肩布を手にとった。
まだ湿ってはいたが、熱を逃がさぬくらいの役にはたつであろう。
銀は肩布を己の背中にかけ、指貫を脱ぎにかかった。
主の前で命ぜられてもいないのに肌をみせるのは無礼にあたるが、今はいたしかたない。
せめて脱いでる最中のみっともない姿をみせまいと、泰衡に背をむけたまま銀は裸になった。
「泰衡様・・・」
振り返ると、泰衡は脱いだ肌着と指貫を腹に抱え、所在なさげに立っていた。
その心細げな様子に、銀は無意識に泰衡の身体を肩布で覆った。
「・・・衣を」
泰衡から衣をうけとった銀は、肩布が干してあった場所に泰衡のものと銀のものとを干しかけた。
泰衡はじっと黙って、はじめてみる銀の裸をみつめていた。