Peanuts Kingdom 学園ヘヴン クラブ ドリーム ヘヴン

クラブ ドリーム ヘヴン Boy's Side

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遠藤和希
01.招待客
02.ハント
01. 曲者同士

その男はまるで、鋭利な刃物のような、鋭い冷たさを感じさせる男だった。
細いフレームの眼鏡のせいか、その奥にある切れ長の瞳のせいか。
皮肉にゆがめられた、口元のせいか。

「中嶋さんをお願いするよ」
そう、俺が彼を指名すると、ドアボーイの啓太は心底びっくりしたように目を丸くした。
そんな反応に俺が思わず、
「啓太は彼のことが嫌い?」
と、たずねると、啓太はあわてて首をぶるぶると横に振った。
でも、その瞳はあきらかに恐怖の色が浮かんでいる。
いったいこの子は彼になにをされてしまったのやら。
俺はおもわずクスリと笑うと、啓太の頬がぽっと赤くなる。
「あ、の・・・」
「うん?」
「中嶋さんとは、いつもどういう話をしてるんですか?
・・・っ、すみません、不躾な質問だとはわかってるんですけど・・・」
「啓太は中嶋さんと仲良くなりたいと思ってるのかい?」
「そりゃあ!・・・同じ店の仲間なんだし、もっと仲良くなりたいとは思います。
でも、ちょっと近寄りがたいというか、なんか怒られそうで」
「怒られそう?」
まぁ、たしかに。
ああいう加虐嗜好のある人間にとって、啓太のようなタイプはさぞいたぶりがいがあるというものだろう。
うなだれてしまった啓太の頭をに手を置き、ぽんぽんと軽くたたいた。
啓太は軽く肩をすくめたが、見上げる瞳はいやがっている様子はない。
俺は安心させるように微笑みかける。
「啓太はそのままでいいと思うよ。君が無理に彼に合わせることはない。
向こうも人に合わせようなんて努力ははなからしない相手だからね」
「・・・そう、なんでしょうか。俺、もしかしたら嫌われてるんじゃないかって・・・」
「たとえ彼に嫌われていたとしても、俺は君のことが好きだよ?」
「っ・・・あ、りがとうございます・・・」
かぁっと赤くなったのを見届けて、俺はもう一度啓太の髪をくしゃりと混ぜた。

啓太に導かれるようにして店内に入ると、
みなの視線が自分に注がれるのがわかった。
しかし、誰よりも強烈な視線が、俺の真正面をとらえていた。
「来たか」
彼は壁にもたれかかったような姿勢で腕を組み、不敵な笑みを浮かべていた。
「来たよ?あれだけ熱烈なメールを連日いただいてはね」
俺の言葉に反応して、隣の啓太がびくりと体をすくませる。
俺はフと笑みをもらすと、反対に中嶋さんの顔が険しくなった。
「啓太。あとは俺がやる。おまえは持ち場に戻ってろ」
「はっ、はいっ。それでは、失礼しますっ」
啓太はぴょこんと頭を下げると、はじかれたように早足で行ってしまった。
「あーあ。あんなにおびえて。あなた、啓太にいったいなにをしたんだ?」
中嶋さんは俺の隣に腰をおろすと、
「さぁな」
と軽くため息をついた。

中嶋さんはすました顔で水割りを作っている。
俺はピピピと携帯を操作して、彼からもらったメールの履歴をチェックしていた。
「なんからしくないよね、こういうの。ほぼ毎日じゃない。俺にメールくれて」
さっきは熱烈なメール、なんて言って啓太を驚かせてしまったけど、
実際のところはなんてことはない。
次はいつ来るんだとか、来ないと退屈だとか、うまい酒を飲ませろだとか、
色気もへったくれもないメールだ。
普通こんなメールをもらったら、店に来たとしても絶対指名なんてしないだろう。
「こっちは退屈でしかたがないんだ。おまえみたく、気楽に外に出られるよう身分が心底うらやましいな。
俺がおまえなら、絶対こんなところには来ないがな」
「俺みたいな物好きにしか相手にしてもらえないんじゃ、さぞかし退屈だろうな」
「そうでもないさ。そこそこの時間つぶしになる相手なら他にもいる。が」
中嶋さんはおもむろに水割りを一口あおると、そのグラスを俺にさしだす。
ゴクリとのど仏が上下して、にやりと唇だけで笑う。
「ほら、毒見ならしてやったぞ。俺のつくったものなどあぶなっかしいとか言ってたからな」
「・・・あのなぁ」
しぶしぶ受け取ると、しかたない風を装って同じように水割りをあおる。
「っ・・・」
予想以上に濃度の高いウィスキーにおもわず噴出しそうになる。
けれどこんな序盤で負けるわけにはいかない。
俺は平静をよそおって、一口、二口とウィスキーを流し込んだ。
「っ・・・ふーっ」
「ほぅ。なかなかがんばるじゃないか」
「こらくらいなんてことはない・・・ふぅっ」
俺が熱い吐息をもらすと、中嶋さんは嬉しそうに目を細めた。
「だからは飽きないんだ」

柔らかいソファに体を投げ出して、
与えられるままに飲んで、食べる。
すべて、中嶋さんが好きなように。
「今夜はいいフォアグラが入ったそうだ。、好きだっただろ」
「あぁ・・・」
「ほら、口をあけろ」
「・・・・・・」
言われるままに、目を閉じて口をあけると、
口の中にころんとフォアグラが放り込まれた。
「・・・ん、うまい」
フ、と中嶋さんが笑ったような気がした。
ちら、と薄目をあけて様子をうかがうと、中嶋さんもフォアグラを口に入れたところだった。
本当に好き勝手にやってるな・・・
中嶋さんは俺の視線に気づいて、瞳をこちらに向けた。
「おかわりか?」
「違う・・・ほんっと、あなたはむちゃくちゃだと思って」
「むちゃくちゃ?どこがだ」
「すべて。やることなすこと、ぜーんぶ」
「ほう・・・」
中嶋さんはフォークをテーブルに置くと、体ごと俺のほうに向いた。
手が、俺の顔の横に置かれ、見上げると、そこに中嶋さんの整いすぎた顔があった。
天井のライトが体の陰になってしまう角度で、上から見下ろされる。
なにをするつもりだ?アルコールでゆるくなってしまった頭でぼんやり思う。
「・・・は、俺のすべてを知ったつもりでいるのか?」
「・・・まさか。もしそうなら、もうこの店には用はないね」
「と、いうことは。の目的はこの俺か」
「指名させておきながらそんなセリフもないでしょ・・・」
「・・・は本当に・・・泣かせたくなる男だな」
ゆるめた襟もとにいきなり指を入れられ、そのままゆっくりあごへとなであげられる。
冷たい指に背筋がぞくりとする。
余所見をするなと言うかのように、あごをきつくとらえられる。
「生意気なやつだ。俺の欲望に火をつけるような・・・だがちょっとやそっとのことじゃ動じない。
あの、小犬のようなドアボーイとは違って」
「だから・・・なにをしたんだよ、啓太に」
「気になるのか?なんなら、同じことを試してやろうか」
氷のような視線が俺の視線と絡まる。
逃れようにも逃れられない、ひどく冷たいくせに妙にねばっこい。
この男の瞳には魔が棲みついている。
俺は目を閉じて、ふたたび目を開けた。
「そう、したいのなら、そうすればいい・・・あなたは最初から俺を好きなように扱っているだろ?
ただ、俺を試したところで、あなたの望みどうりの結果が得られるとは思えないけどね」
ふと、中嶋さんの瞳が驚いたように見開かれた気がした。
そして次には、中嶋さん特有の皮肉めいた笑みが広がった。
「本当には・・・生意気で憎らしいやつだな」
あごをつかんでいた指から力が抜けて、そうっと頬をなでられ、そして離れていった。
天井のライトがまぶしくて、
「・・・お褒めにあずかり、光栄」
と、俺はまた目を閉じた。

気に入らない相手なら、離れていけばいい。
簡単に離れられる関係なのにそうしないのは、
そうする理由がないから。

「俺もあなたのこと、好きにしていいかな」
天井にむかって腕をのばし、光をさえぎりながらふとつぶやいてみる。
「・・・好きにしてるだろ」
中嶋さんの手の中で、グラスの氷がカランと音をたてた。
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