Peanuts Kingdom 学園ヘヴン クラブ ドリーム ヘヴン

クラブ ドリーム ヘヴン Boy's Side

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遠藤和希
01.招待客
02.ハント
03.楽園への入り口

「うわぁっ!?」
突然響く悲鳴と、それに続いてガシャンとなにかが倒れる音。
事故でも起きたかと体が条件反射的に動いて、俺は音のしたビルとビルのすきまへとかけこんだ。
すると、
「わっ?!」
ぴゃっとなにかが飛び出してきて、俺の足元をものすごい勢いでかけだしていくものが。
あれは・・・猫?
いや、そんなことより、さっきの悲鳴が気になる。
いったいなにが起こったのかと気を取り直して路地に足をふみいれた。
乱雑に置かれているガラクタのむこうに、人らしきものがみえる。
とっさにかけよると、そこに倒れていたのは屈強そうな男。
しかし、目の焦点はあっておらず、ひどくなにかにおびえた様子で。
「大丈夫ですか?」
声をかけると、彼はようやっとしぼりだすようにして声をだした。

「ね・・・ネゴ・・・・・・」

「・・・ネコ?」

さっき飛び出していった猫のことを言っているのだろうか。
しかし彼は俺の言葉にすらビクッと体を震わして、本気でおびえているようだった。
そう、あのネコに。
しかし、今はそんなことを気にしてる場合ではないだろう。
意識はあるものの、打ち所が悪かったりしたら大変だ。
俺は片膝立ちになって彼の上半身を抱き起こした。
「大丈夫ですか?どこか怪我とかありませんか?痛いところとか・・・」
「っ・・・う・・・っ、あ、ああ・・・いや、大丈夫だ」
ようやっと、俺の存在を認識したらしい。
すまない、と言いつつ立ち上がろうとしたが、
「ツッ」
と顔をしかめ、体がよろけた。
「っ、大丈夫ですか?どこか、痛いんですか?」
「あ、ああ・・・いや・・・少し、足をひねったらしい」
「足ですか?どれ・・・」
「お、おい、このくらい大丈夫だから・・・」
かがんで足の状態を確認しようとする俺を彼は制止しようとしたが、
俺は見上げてニコリと微笑んだ。
「俺、医者なんで。すこし、診せてください」

簡単にではあったけれど診たところたいした怪我ではなく、
軽い捻挫ということで、彼が勤める店においてあった湿布で簡単に手当てをした。
「・・・あとはちょっとすりむいてますね。消毒しておきましょうか」
「いいって。これくらい。舐めときゃ治る」
彼・・・丹羽さんはそう言って、本当に指に唾をつけると頬になすりつけた。
なんだかそれって・・・ネコみたい。
「そんなことして・・・傷あとが残ってしまいますよ?」
「なーに。傷は男の勲章っていうじゃねーか。・・・って、コケての傷は、不名誉の傷か」
彼はそう言って苦笑った。
俺よりだいぶ背の高い、頑強な体をした人なのに、こうして笑うと意外とかわいいんだな・・・俺もつられて笑ってしまった。
・・・それにしても。
このお店っていったいどんなお店なんだろう。
昼間やってないってことは、夜のお店・・・つまり、バーとかクラブとかいったところか。
こういうところで働いているということは、丹羽さんってもしかしてバーテンダーとか?
「あの・・・このお店ってどんなお店なんですか?すごく雰囲気がいいというか、落ち着いた感じですけど」
「ああ、ここか?ここは "ドリームヘヴン" 。夢を売る場所だ」
「夢?」
「ああ、まぁ・・・ホストクラブってとこだ」
「ホスト・・・クラブ・・・」
聞きなれない言葉にきょとんとしてしまう。
ホストクラブって・・・いい男が女性客をもてなすという、あれのこと?
へぇ・・・もっとギラギラしたイメージかと思ってたけど、意外と落ち着いた感じなんだな。
「そうなんですか。じゃ、丹羽さんは・・・」
「ああ。俺はホストだ」
「へぇ〜・・・」
丹羽さんがホスト、かぁ・・・俺のもってるホストのイメージとはだいぶ違う感じ。
もっとこう、ちゃらちゃらして、遊び人なイメージがあったから・・・正直、意外だ。
、今、俺がホストだなんて似合わねぇ、って思ってるだろ」
「えっ?」
図星をさされて思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
そんな俺をみて丹羽さんはカラカラ笑った。
「ま、そうだろうな。俺も自分がホストやってるなんて自覚はあんまねーからよ。
それでたまにオーナーとかにどやされたりするけどな」
「い、いやぁ・・・で、でも、丹羽さんみたいな男らしい感じの人だったら、女性にもモテるでしょう」
俺がそう言うと、丹羽さんはなにやら意味深な笑みを浮かべた。
「まあ・・・な。だけど俺がここで相手をしているのは・・・」
丹羽さんの手が俺の方に伸びてきて、軽くあごをつかまれる。
え、と思う間もなく、丹羽さんの顔が近づいてきて・・・

「男だぜ?」

「・・・・・・へ?」

間近でみつめられるという状況も状況だけど、それ以上に丹羽さんの言葉がなんだかよくわからなくて、
思わず出た声はひどく間抜けなものだったものだから。
「プッ・・・クッ、アハハハハハハ!」
丹羽さんは天井をあおいで大笑い。
あいかわらず言葉もない俺の肩をばしばしたたきながら、丹羽さんはまなじりの涙を指でぬぐっている。
・・・いい反応だったぜ!あー、新鮮、新鮮!」
笑い続ける丹羽さんを前にして、俺は俺で頭の中で丹羽さんの言葉を一生懸命整理していた。
でもなにがなんだか、どうしたって理解不能で。
「あ、あの・・・丹羽さん?ホストって・・・普通女性を相手にするんじゃ?」
おずおずとたずねてみると、丹羽さんはあぁ、とうなずいた。
「普通はそうかもしれねーけど、ホストってのは結局人をもてなす役、という意味だろ?
だから客に男も女も関係ない。で、うちは男を専門におもてなしをする店だってことだ」
「男を専門にって・・・えっと、それってつまり、丹羽さんは・・・その・・・」
ゲイ、ってこと?
少し口に出すのをためらう質問を、丹羽さんは察してくれたのか、クス、と笑って俺と正面に向き直った。
「さあ?だが、男だろうが女だろうが、好きだと思うやつはいる、ってことはたしかだ。
俺にとってはも・・・かなり興味深い対象だぜ?」
そう言って、伸びてきた指がチョン、と俺の鼻の頭をつつく。
「・・・えぇっ?!」
あまりのことに動揺をかくせず、おもわずのけぞってしまったものだから大きくバランスを崩してしまった。
「おっと、危ねぇ!」
「っ!」
グッ、とつかまれた腕を強く引き寄せられて、いきおいのままに丹羽さんの胸へと倒れこんでしまった。
「おい、大丈夫か?」
「あ・・・・・・」

・・・こんな風に誰かに抱きしめられたのは久しぶりのことで。
たくましい胸の筋肉の感触と、俺の体にまわされた腕の力の強さに、かああっと体中が熱くなる。

「・・・これで一応おあいこ、ってことになるか?大丈夫か・・・・・・先・生?」
「っ・・・!」

最後の "先生" という言葉を耳元で囁かれて、全身が鳥肌たってしまった。
でもそれは嫌悪ではなく、それはあまりにも・・・刺激が、強すぎて・・・・・・

「ちょっ・・・に、丹羽さん、もう放してくださいっ」
「おー?なんだ、テレてんのか?案外ウブなんだな」
丹羽さんはそんなことを言いつつもあっさりと俺を解放してくれた。
俺は肩で大きく息をついてしまう。
心臓がドキドキして・・・苦しいくらいだ。
「あー・・・すまなかったな。いやその・・・」
丹羽さんが、なにかを言おうとしているのに気づいて視線をやると、
なぜか彼は少し、はにかんだような微笑を浮かべてぽりぽり頭をかいていた。
がそんなにびっくりするとはよ。悪かったな」
「っ、あ、い、いや、そんなことは・・・」
急に謝られてしまうと、今度はこちらが申し訳なく感じてしまう。
このくらいの・・・こと、で、反応しすぎる俺がどうかしてるんだ。
「そんな謝らないでください。俺は・・・大丈夫ですから」
彼を安心させようと、ニコと微笑んでみせると、丹羽さんもようやっと表情をゆるめた。
「そ、っか・・・いや、ほんと、悪フザケがすぎたと思ってるんだ。俺はどうにもこう・・・あまり自分をおさえるってことが苦手で」
「そうなんですか?」
本当に反省している様子の丹羽さんを、俺はまたかわいい、と思ってしまっている。
腕っぷしなら絶対かなわないような大きくたくましい男の弱い側面をみせられてしまうと、なんだか・・・
おもわずこみあげてくる笑いをこらえきれず、クス、と笑うと、丹羽さんの笑みはさらに崩れたものになった。
「ほら、その顔。・・・なんていうか、人を安心させるっていうのか?さすが先生、ってとこなんだろうな。
すごく・・・いいな、って思っちまったんだよ・・・」
「え・・・?」
丹羽さんは俺に背をむけると、おもむろに奥へと歩いていってしまった。
そしてしばらくすると、一枚の小さなカードを手にして俺の前に立った。
「今度、遊びにきてくれないか?もちろん、俺の指名で」
そういって丹羽さんが手渡してきたものは、"丹羽哲也" と書かれた名刺だった。
「店にきて、この名刺をドアんとこにいるベルボーイに渡してくれるだけでいい。
そしたら、誰についてても、必ずんとこに行くから」
「丹羽さん・・・」
丹羽さんは俺の視線と同じ高さに背をかがめた。
そして俺をまっすぐみつめた。
「俺はホストだが、ナンパじゃないぜ?本当に笑顔にしたいって奴には、ちゃんと特別なんだ」
そういってみせた笑顔が・・・男の俺からみても十分魅力的な笑顔で。
どうしたって口説いてるようにしかきこえないセリフも、ただ、嬉しくて。
またかぁっと熱くなってしまった頬を隠すように、俺はうつむいたままうなずいた。
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