Peanuts Kingdom 学園ヘヴン クラブ ドリーム ヘヴン

クラブ ドリーム ヘヴン Boy's Side

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遠藤和希
01.招待客
02.ハント
02. 同伴出勤

定時のチャイムが鳴ると、決まって、内ポケットに入れた携帯がブブブと震える。
あ、また・・・
なんかすこし恥ずかしくて、つい、人目を避けるようにして携帯を開く。
『お仕事お疲れ様です。ご都合は大丈夫ですか?
19時に待ち合わせの場所でお待ちしてます。なにかあったら連絡してください。』
俺に負担をかけないように、気をつかった内容のメール。
携帯の連絡先を教えてすぐ、食事に誘われて。
ようやっとスケジュールの調整がついて、約束の日時が決まると、
今度は毎日のように、こうして定時ごろをみはからってメールを打ってくる。
さすが・・・ホスト。マメだなぁと半分あきれながらも、少し、嬉しく思ってしまってる自分がいる。
誰かに気にかけてもらえるって、嬉しいもんな。
でもその相手が男のホストだってのは、少し問題な気がするけど。

捨てられていた猫を拾うに拾えずにいた七条さんの代わりに俺が拾ったのが、
俺たちが出会ったきっかけ。
その後、お礼にと彼の勤める店に連れて行ってもらった。
そこはホストクラブ。
男の俺が入ってもいいのかと最初はびっくりしたけど、
男性専用のホストクラブってことでまたびっくりした。
でも、話し相手がホストってだけで、いかがわしい雰囲気はまったくなかったし、
お酒や料理も美味しかったから、俺なんかでもすぐ馴染めた。
女性相手だと気負ってしまうこともあるけど、彼ら相手なら、
七条さんが相手なら、俺も気を使わずリラックスできた。
そして今夜は、七条さんといわゆる同伴出勤をすることになっていた。

待ち合わせの場所に行くと、そこにはすでに七条さんの姿があった。
グレーのスーツを着てるけど、ネクタイはしめてない。
ラフな姿にほっとしつつも、でも、道行く人がみな、七条さんに目を奪われている様子をみると、
なんだかすごいことをしてしまってる気がしてきた。
「こんばんは」
七条さんは俺の姿をみつけると、にこっと微笑んでむこうから近づいてきた。
「こ、こんばんは」
「よかった。もしかして来てくれないんじゃないかと、心配してました」
「そんな・・・だって約束したじゃないですか」
「それはそうなんですけど。でもなんか、緊張してるようにみえますし」
「えっ、そ、そんなことないですよ・・・」
俺、そんなに顔に出てた?
でもだって無理ないよ。こうしている今だって、みんな俺たちのことみてる気がするし・・・
「では、早速行きましょうか」
「あ、はい・・・すみません、お店とか・・・全部おまかせしちゃって」
「いいんですよ。でも・・・すみません、少し、寄り道してもいいですか?」
「寄り道?どこへですか?」
「それは・・・秘密、です」
「はぁ・・・」

長身の七条さんと肩を並べて歩くと、なんだか自分がずいぶん小さく感じてしまう。
俺だってけして背は低いほうじゃないはずなんだけどな。
でも、七条さんの方をみようとすると、どうしても見上げる形になってしまう。
すると、七条さんも優しい微笑みを浮かべて俺を見下ろすものだから・・・なんだか恥ずかしい。
普通ならこんなに意識しない。
俺より背の高いやつなんて俺の周りにもいくらでもいる。
でも相手が七条さんだと、どうしてこんなにドキドキしてしまうんだろう。
彼がホストで俺が客だから?
でもだからって、別に俺はそういうつもりじゃないんだし・・・
七条さんだってそういうつもりなくして、俺の相手をしてくれてるんだって・・・
「着きましたよ」
「えっ・・・ここって・・・」
「ペットショップです。猫ちゃんに、なにか買ってあげましょうって言ったでしょう?」
「あっ・・・」
「フフ。さ、なにがいいか一緒にみてみましょう」
「はい!」

本当に七条さんは動物が好きなんだなぁ。
猫が特別好きなのかと思っていたけど、店内にいたあらゆる動物に反応してる。
犬や猫、鳥やハムスターやフェレットにも。
俺も動物は好きだから、つい顔がゆるんでしまう。
気持ちもほぐれて、七条さんといて緊張するなんてのも、どこかに飛んでいってしまった。
「この子も可愛いですね。ふふ、の方をじっとみつめてますよ」
「そんなこと言われても・・・もう連れて帰ってはやれないぞ」
「つれないですね。僕も柵の向こうで鳴いてみましょうか。そしたら連れて帰ってくれますか?」
「う〜ん、七条さんは手がかかりそうなので、やっぱり遠慮しときます」
「それは残念。でも案外いい線ついてるかもしれませんね。
僕はさびしがり屋ですから、一人でお留守番なんてしてられませんから」
「俺んちの猫はちゃんとお留守番してますよ。七条さんより優秀ですね」
「意地悪ですね。でも、やっぱりなにか遊び道具がないとさびしいでしょう。さて、なにを買っていってあげましょうか」
猫のグッズがおかれた棚で一緒に物色する。
これは?あれは?と手にとって、動きをたしかめたり感触をたしかめたり。
七条さんは直接、あの猫に会ったのはあの一度きりだったというのに、
とても楽しそうに選んでいた。
そして、本当に猫のためにいろいろ買ってくれた。
思った以上にたくさん猫グッズを買ってもらってしまって、その荷物の重みに申し訳ない気持ちになる。
「こんなにたくさんすみません。普段俺が買わなくちゃいけないようなものまで」
「いいんですよ。あの子を救ってくれたお礼です」
「そんな・・・」
七条さんはまだ気にしてるんだろうか。
俺はもう、猫のいる生活にすっかりなじんでるっていうのに。
七条さんは会うと必ず"お礼に"という言葉を言う。
七条さんが捨てた猫ならともかく、また、七条さんに頼まれたから拾ったわけでもないのに、
いつまでも七条さんがそのことを気にする必要は、まったくないのに・・・
「あの、俺はもう気にしてないですから。七条さんもそんな気にしないでください。
こんなにしてもらって申し訳ないくらいですよ」
「・・・そう、ですね」
「・・・七条さん?」
七条さんはふと足を止めると、ふと遠くをみつめた。
その横顔はなんだかとてもさびしそうで・・・今にも、泣き出してしまうんじゃないかってほど、切なげな顔にみえて。
俺は急に不安になって、思わず七条さんの腕をつかんだ。
「七条さん、どうしたんですか?」
七条さんは俺のほうに振り向いた。
そして、やっぱり、さびしげな微笑を浮かべた。
「君は僕に、君のことを気にするな、と言うんですね・・・」
「え・・・?」
「でも・・・僕は・・・」
「七条さん・・・?」
「・・・」
七条さんの手が、ゆっくり伸びてきて、ふわ、と、俺の髪をなでた。
そのまま顔の横をなでられ、肩におりて、そしてまた、すっと離れていく。
「し、ちじょう・・・さん?」
こんな風に触れられることなんてはじめてのことで、
俺をみつめる瞳が、やけに真剣で、心臓の鼓動がはやまる。
なにを言われるのか、なにを言おうとしてるのか、次の言葉が予想できなくて・・・怖い。
「・・・すみません。君を・・・おびえさせてしまいましたね。
でも・・・僕は・・・もっと君と近づきたかったんです。どうしたら君に喜んでもらえるだろうって、
お誘いしてからずっとそのことばかり考えてました」
「七条さん・・・」
「でも・・・僕の好意が君にとって重荷になるかもしれないって、それが一番心配だったんです。
こうしてお誘いすることは、にとって迷惑かもしれない、と。
だから、猫のことを僕はだしに利用しました。僕の代わりに猫を拾ってくれた、へのお礼だなどと、
自分の気持ちを偽って」
「えっ」
七条さんの気持ち?それって一体どういうこと?
俺はなんとこたえたらいいのか、わからない。
頭の中が、ぐるぐるまわってる。
俺はただ、七条さんと一緒にいるのは楽しくて、嬉しくて。
だから七条さんが俺のことを誘ってくれるのを、重荷になんて思うわけがないのに。
でも、俺がおもっている以上に、七条さんが俺のこと・・・考えていてくれたのだとしたら?
俺は、どうこたえたらいいんだろう。
だって七条さんはホストだ。
俺以外の男も相手にする、プロなんだ。
でもこんなに熱っぽく語られたら、そんなこと、わかっていても、どうしようもなくなる。
「あ、の・・・冗談・・・ですよね?」
「・・・冗談と、言って欲しいんですか?」
「っ・・・そんなの、ずるいです・・・」
「ずるい?」
「そうです・・・ずるいですよっ。だって俺は、七条さんと一緒にいて、すごく楽しいって思ってます。
こうして一緒に出かけるのも、お店で話をするのも楽しいです。
でも七条さんは、自分の気持ちまで俺にたくそうとしてるじゃないですか。
七条さんこそ、本当は楽しくないんじゃないですか?」
「っ・・・」
「・・・これが、同伴といって、七条さんのお仕事の一環であることはわかってます。
だからこそ、こんなに買ってもらっちゃって、悪いなって思ったんです。
それを、俺が七条さんのことを、まるで嫌いだからそう言ったなんて、そんな風に思わないでください!」
「ああ・・・君という人は・・・」
七条さんはほうーっとため息をついた。そういうことですか、と小さくつぶやいて。
「・・・すみません。僕は本当にズルイ男ですね。があまりに優しくて、まっすぐな心の人だから、
つい、君が欲しいと、思ってしまったのかもしれません」
「ほ、欲しいって・・・っ」
びっくりするような言葉に思わず体を引いてしまうと、七条さんは大丈夫ですよ、とニコリと笑った。
「僕はのことが好きですから、がいやがるようなことはしません。
でも、は僕の本当の気持ちが知りたい、そう思っているのでしょう?」
「そ、れは・・・」
俺のことが欲しい、とか、好き、だとか、なんかものすごいことを言われすぎて、
なにがなにやらわからないうちに七条さんのペースにもっていかれてしまいそうだ。
こんな状態で七条さんの本当の気持ち、なんてきいたら、俺、ちゃんと受け答えができるだろうか。
こんなにドキドキして、実はちょっと、体が震えてすらいるなんて、俺、いったいどうしちゃったんだよ・・・
七条さんは俺のこんな状態に気づいているのかいないのか、穏やかな瞳で俺を見つめている。
「本当に、は素直な人ですね。あんまり素直だと、つい、イタズラしたくなってしまうのですが、
今夜のところはやめておきましょう。僕は、に嫌われたくはないですから」
「イタズラって・・・!」
「フフ。僕はホストですから。
が言ってたとうり、こうしてと出かけるのはお仕事の一環であることには違いありません。
でも、と一緒にいると楽しい、これは本心です。いくらお仕事とはいえ、
好きでもない人と同伴するほど、僕は切羽詰っていませんから」
「はあ・・・」
「だから、猫ちゃんへのプレゼントは僕の好意です。
と、の猫ちゃんに喜んでもらいたい、その気持ちに偽りはありません。
こんな僕の気持ちを、君がどう受けとるかまでは、僕にはわかりませんけど」
「うっ・・・」
それって、七条さんが俺に好意をもっていることは間違いないけど、
その好意をどう呼ぶかどうかは俺にかかっている、ってことなんだろうか。
友達としての親愛の情?
それとも、恋愛としての好き・・・?
「七条さんは・・・やっぱりズルイです・・・」
「そうですか?でも僕はホストですから。人に夢を与えるお仕事ですから」
「そういうのをズルイっていうんですよっ」
「すみません。でも、に嫌われたくないって気持ちは本当です。
こうしてデートしてるのも、とても楽しいですから」
「でっ、デートって・・・!」
「二人で待ち合わせして、二人でどこかに出かける。デート、ですよね」
七条さんはそう言って、パチンとウィンクしてみせる。
うう・・・ダメだ・・・絶対この人にはかないそうにない。
でも、俺だって、七条さんとこうして話しているのは楽しいし、
もっと、彼のことを知りたい、近づきたいって思ってるんだ。
その感情は恋愛とは違う!って思うけど・・・でも、七条さんのことが気になるのは本当のことだ。
だから、どういう感情であれ、七条さんが俺のことを気に入ってくれてるのだとしたら、
やっぱり素直に嬉しいって思う。
「俺・・・七条さんの友達になりたいです」
「え?」
「俺も、その・・・七条さんのこと・・・じゃなくて、ええっと」
「・・・僕たちは、もう友達ですよ」
七条さんの言葉にはっとして顔をあげると、七条さんはとても嬉しそうな微笑みを浮かべていた。
「七条さん・・・」
「でも、本当のところはわかりませんけど」
「えっ?」
「だって、僕の友達という概念と、君の友達という概念がまったく同じとは限らないでしょう?たとえば僕だったら・・・」
急に、七条さんは俺の頬に手をそえると、体をかがめてきて・・・
ふわっとした感触が、俺の頬のあたりをかすめた。
「・・・えぇっ?!」
反射的に体を離してかまえると、七条さんはクスクス笑った。
「好きな友達へ、友愛の意味をこめてキスを贈るなんてこともあるんですけどね」
「っ、っ、っ、七条さんっ?!」
冗談、ですよね?と確認したくなったけど、これ以上なにか言ったらまた余計なことをされそうな気がする。
それくらい、七条さんもなんだかすごく楽しそうにみえたから。
これ以上調子にのせたらなにかまた変なことしそうで・・・すっかりドキドキしちゃってる俺としてはもうカンベンだ。
けれど・・・そのうち、もう少し仲良くなれたら、七条さんを家に招いて猫とご対面させてあげたいなって思う。
でも、そんな風に思ってるってことはもうしばらく内緒にしておこう・・・
もしお気に召しましたら拍手をポチしてくださると嬉しいですv

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