Peanuts Kingdom 学園ヘヴン クラブ ドリーム ヘヴン

クラブ ドリーム ヘヴン Boy's Side

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遠藤和希
01.招待客
02.ハント
01. あまやかしたがり屋

久しぶりのオフ。
このところずっと忙しい日が続いていて、
自分でもわかるくらいに疲れていた。
小さなレストランで腕をふるう日々。
お客さんの笑顔がみたくて選んだ仕事だけど、
俺だってたまには、もてなされる側になりたい。
そんな風に思う頃、自然と足がむかってしまう場所がある。
それがここ、クラブ・ドリームヘブン。

「いらっしゃいませ!あっ・・・」
ドアの向こうで俺を出迎えてくれたドアボーイの啓太の顔が、ぱっと明るくなる。
「ひさしぶり」
「おひさしぶりです!うわぁ・・・来てくださったんですね」
啓太は俺を店内に招きいれると、そっと俺の右側に身を寄せる。
右腕に軽く添えられた手が嬉しくて、少し、照れくさい。
啓太は俺のどこが気に入ってくれたのやら、いつもキラキラした瞳で俺を見上げてくる。
プライベートでは俺の店にも来てくれた。
そのときはここのオーナーの和希さんと一緒だったのが、なんだかほほえましかったっけ。
「こないだいただいたプリン、すっごく美味しくて、俺、二個も食べちゃいました!」
「二個?人数分持ってきたはずだけど・・・誰か食べなかったの?」
「いいえ、みんなちゃんといただきましたよ。
甘いものが苦手だ、なんて言ってた中嶋さんですら、ぺろりと食べてましたから。
二個、って言うのは本当はちがくて、正しくは一個半。和希から半分もらっちゃったんです」
啓太の言葉に思わず笑みがこみあげる。
本当にあのオーナーはこの子を可愛がっているんだな。
それにあの中嶋さんの口にも合ったのなら、あのレシピ、自信を持ってお客さんにも出せるな。
それと・・・あとやっぱり気になるのは。
「篠宮さんはなんて言ってた?」
そう言うと、啓太は「あ」と口をひらいたあと、くすくすと笑いだした。
「それは、あなたから直接きいてください。ご指名、篠宮さんでいいんですよね?」
「ああ、でも、指名できるのかい?」
「大丈夫。あなたのご指名なら、呼んでくれてかまわないって、篠宮さんに言われてますから」
「そっか・・・」
啓太の言葉に、少し、頬が熱くなる。
篠宮さんが、俺の指名には特別にこたえてくれる、そういうことだよな。
それって、少しは俺のこと、気に入ってくれてるってこと、だよな・・・
啓太に導かれるまま、案内された席のソファに座る。
「少し、お待ちください」
啓太は軽く頭を下げると、奥のカウンターへ小走りでかけよっていった。

篠宮さんと知り合ったのは、とある有名シェフがひらいた料理研究会だった。
プロが集まる中、ひときわ手際がよく目を引いたのが篠宮さんだった。
いったいどんな料理をつくっている人なのだろうと、興味がわいた俺は自分から篠宮さんに声をかけた。
篠宮さんは驚いたようだったけど、すぐにふわりと微笑んで、そして、
少し恥ずかしそうに、この店を教えてくれた。
篠宮さんがこの店のホストだと知ったときは本当に驚いた。
けれど、真っ白なエプロンをとり、シックなスーツをすっきり着こなしたその姿は、
篠宮さんの精錬なイメージを際立たせて・・・素敵な人だな、と、そう、思った。

「待たせてしまったな」
不意に声をかけられ、はっとしてふりかえると、
ずいぶん急いで来たのだろう、少し息をはずませた篠宮さんが俺を見下ろしていた。
俺と瞳があうと、嬉しそうに微笑む。
そんな篠宮さんの表情に、ああ、来てよかったと俺もほっとして笑顔になる。
けれど、今夜の彼は俺をもてなしてくれるホスト。
篠宮さんは俺の隣に座ると、てきぱきとテーブルの上を整えていく。
その手際のよさは、料理研究会でみせたそれとなんら変わりはないはずだけど、
ホストクラブという場所と、上品なスーツを着ているというそれだけで、
篠宮さんがホストなのだということを意識してしまう。
「あ、の・・・篠宮さん。こないだ持ってきたプリンなんですけど、どうでしたか?」
「ああ、抹茶味のプリンか。あんなにたくさん大変だったろう?」
篠宮さんは俺を気遣ってそう言ってくれるけど、俺がききたいのはそういうことじゃなくて。
「あれくらい、どうってことないですよ。みんなに喜んでもらえるなら」
「ああ、みんな気に入ったようだ。啓太なんか、オーナーの分まで食べてたからな」
「さっき、啓太くんからききました。で・・・その・・・」
篠宮さんは?
そう、たずねようと口をあけた瞬間、ちら、と篠宮さんの視線が俺に向けられた。
さら、と前髪が揺れて、篠宮さんの口元に笑みがかたちづくられる。
「・・・美味しかったに決まってるだろう。、俺が抹茶味が好きなの知ってて作ってきてくれたんだろう?」
「うっ」
すっかりお見通し、というわけか。
まぁたしかに、そりゃわかるよな。
くすくす笑われて、頬が熱くなる。
「・・・でも」
「?」
篠宮さんの言葉が途切れて、思わず顔を上げると、
いつのまにかこんなに近くにいたのかってほど間近に、篠宮さんの瞳があって。
そのまま俺の顔の横に、唇を寄せられる。
「次は俺だけのために作ってきてくれないか?」
「えぇっ・・・!」
急に耳元でささやかれたのと、篠宮さんがそんなこと言うなんてと、
二重に驚いて身を引くと、篠宮さんは照れたような笑みを浮かべた。
「こんなことを言う俺はいやか?」
俺は急いで首をブンブンと横に振る。
「そうか・・・よかった」
篠宮さんはテーブルの上の空のグラスを手にとった。
「俺は・・・こういうのには慣れない。だが・・・だけは特別だから」
「篠宮さん・・・」
篠宮さんはふと、俺の方に向き直った。
そして、まっすぐ俺を見つめた。
「俺はを尊敬している。だが、俺にできることといったら、
たまにこうしてここに来てくれるをもてなすことくらいだ。だから・・・」
そ、尊敬だなんて。
俺の方が篠宮さんを尊敬してるというのに。
俺なんか、篠宮さんのように手際もそんなによくないし、
なんのとりえもないから、一生懸命やることくらいしかできないのに。
「今夜は楽しんでいって欲しい。
の料理が、俺は好きだから、俺はを応援したい」
「し、篠宮さん、そんな・・・俺・・・」
褒められすぎて、頭にどんどん血がのぼっていってしまう。
どきどきして、耳から煙とかでちゃいそうだ。
ホストには慣れないとか言っておいて、すらすら出てくるこのセリフはなんなんだ。
「・・・も、もう、篠宮さんにそんな真顔でそんなこと言われたら、
俺、なんて返事したらいいかわからないじゃないですか」
「本当にそう思っているから、そう言っただけだ。
返事なんてしなくていい。俺が、そう伝えたかっただけだ。
もっと、の店に足をはこべたらいいのだが・・・」
「それは、お互いさまですよ。俺だって、もっとここに来れたらいいのにって思いますけど」
「そう、思ってくれているのか?」
「もちろんですよ」
「そうか・・・待ち焦がれているのは俺ばかりかと思っていたが」
「えっ?」
「互いが同じ気持ちなら、悪くはない」
篠宮さんの瞳に、どきりと心臓がはねる。
見慣れた笑顔のはずなのに、ざわざわと肌があわだつ。
これって、なに・・・なんか俺、すごく、ゾクゾクしてる。
具合が悪くてとか、寒くてとか、そういうんじゃなくて。
俺・・・なんか、篠宮さんの色香にあてられてるみたいだ。
「篠宮さん・・・もしかして、俺のこと・・・口説いてます?」
おそるおそるそうたずねると、篠宮さんはフフ、と笑った。
があんまり俺を焦らすからこうなるんだ。
ひさしぶりに顔を出したと思ったら、元気がなくみえるから、 つい、甘やかして、こうして・・・」
篠宮さんの腕がすっと伸びた。
耳のわきを通り過ぎて、大きな手のひらが後頭部を包み込む。
篠宮さんの胸に引き寄せられ、頭の上から、低い、篠宮さんの声が降ってくる。
「抱きしめたくなる」
その言葉に、俺は一気に体温が上がって、本当に、ボンッ!て頭の中でなにかが破裂してしまった。
自分で自分の体を支えられなくなって、ふにゃふにゃと篠宮さんにもたれてしまう。
「おい?どうしたんだ・・・大丈夫か?」
篠宮さんのせいでこうなったっていうのに、どうした?はないだろと、弱弱しく心の中でつっこんでみる。
あぁ、でも、もうだめ。
心臓バクバクいっちゃって・・・これじゃもてなしてもらうどころの騒ぎじゃないよ。
「お、れ、だって・・・こういうの、不慣れだって知ってるくせに・・・!」
真っ赤な顔を隠すこともできず、うらめしそうに見上げる。
篠宮さんは俺をなだめるように、よしよしと俺の頭をなでる。
「ようやっと元気が出てきたみたいだな。さっきのはずいぶん思いつめたような顔をしていたぞ」
「えっ」
「だから、ほうっておけないんだ」
「っ・・・も、もう・・・」
本気なんだか、ホスト流の社交辞令なんだか、
今夜はすっかり篠宮さんにけむに巻かれてる気がする。
「ほら、そう考えこむな。俺はに楽しんでもらいたいだけなんだ。
そしてまた、食べる人をみな笑顔にする料理をつくっていってくれ。俺もまた、食べに行くから」
「・・・・・・はい」
篠宮さんの穏やかな微笑に、俺も自然と笑顔になる。
ひさしぶりのホストクラブに緊張していたのも、いつのまにか解け、
疲れた心がやさしく癒されていく。
篠宮さんがつくってくれたカクテルを一口飲んで、
俺は甘いため息をついた。
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