Peanuts Kingdom 学園ヘヴン クラブ ドリーム ヘヴン

クラブ ドリーム ヘヴン Boy's Side

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遠藤和希
01.招待客
02.ハント
01.招待客

「来てくれたんだな、嬉しいよ!」
そう言って彼は変わらぬ笑顔で俺を迎えてくれた。
メールで互いの近況報告はしていたけれど、
こうして会うのは何年ぶりだろう。
それに・・・和希の姿を見るのも久しぶりすぎて、
ここがクラブだということを差し引いても、なんだかどきどきしてしまう。
「・・・本当にクラブなんだな」
店内を見渡せば、スーツを身にまとった上品そうな男たちが。
ここのオーナーである和希がわざわざ出迎える相手・・・つまり俺に、
興味しんしんといった視線をなげかけてくる。
そこそこきちんとした格好をしてきて正解だったな。

通された席につくと、いつのまにか傍らにひざまづいている青年からおしぼりを差し出された。
「どうぞ」
「ありがとう」
親切に心から謝意を述べただけだったが、彼は頬を赤らめはにかむと、
ぺこりと頭を下げたのち、ぱっと立ち上がって行ってしまった。
「おまえ・・・やっぱり隅におけないやつだな」
和希の言葉に振り返ると、彼は意味ありげな笑みを浮かべて俺を軽くにらんでいた。
「は?」
「今来た啓太って子、俺が目をかけてる子なんだぜ?
それをちょっと微笑んだだけでとんびがあぶらあげさらうようにするんだからな」
「おいおい・・・」
和希の言葉に思わず苦笑してしまう。俺にそんな気はないって!
でもきらきら輝く大きな瞳はたしかにちょっと印象的だ・・・和希が気にかけているというのもわかる気はする。
「彼、まだ入って間もないとか?」
「んん?まぁ、そうだね。今はドアボーイをしてもらってる。客の相手をしてもらうのは、もう少し先かな」
・・・こいつ。
俺が彼に興味をもつのが本気で嫌らしいな。
俺から視線をはずしてそむけた横顔に "不服" の二文字がくっきりと浮かび上がっていた。
別にとって食いやしないというのに・・・というより。
妙に執着してるっぽい和希の方が、よっぽど危険な気がするが?
・・・まぁ、いいか。

「オーナー、ちょっといいですか?」
「うん?」
顔をあげるとそこには長身の男が立っていた。
しっかりと描かれた眉と、力のある、しかし優しげな瞳の・・・
「王様。ちょうどいい。紹介するよ」
王様と呼ばれたその男は、大きな体躯にもかかわらず威圧感などほとんど感じさせない軽い身のこなしで俺の隣に座った。
実にスマートなその動きに思わず目が奪われる。
「彼は俺のアメリカ時代の同級生だ。普段はアメリカにいるが、今帰国してて、ようやっと店にも顔をだしてくれたってわけ」
「ほぅ、アメリカに・・・」
興味をそそられたのか、王様はなにかおもしろいものをみつけたかのような瞳で俺をみつめる。
「で、こちらは王様・・・と呼ばれてる、うちの店No.1ホストの丹羽哲也さん」
「はじめまして・・・王様?」
一瞬のためらいののちそう呼ぶと、彼は満足げな笑みを浮かべた。
「はじめまして。なるほど・・・オーナーが好みそうないい男だな」
「えっ」
王様の言葉に思わず顔がこわばると、王様はからからと笑った。
「なんだなんだ!アメリカ帰りというからてっきり "そう" かと思ったが、そうでもないんだな。
なるほど・・・こういうウブなところもオーナーの好みってわけか?」
「王様。あんまりからかわないでくださいよ」
和希は口ではそう言っているけれど、その表情は余裕の笑みというか・・・
からかわれて困ってる、という風にはみえない。
うーん、和希ってこんなヤツだったっけ?

「おい・・・」
王様に指名が入って再び二人きりになったのをみはからって、俺は和希を軽く手招いた。
「ん?」
和希が耳を傾けると、俺はさらに声を低くした。
「ここって・・・本当にそういうところなのか?」
「・・・そういうところなのか、って?」
「だから。その・・・男が男を・・・」
「ああ。まぁ、一応そういうことになってるね。でも、そういう人ばかりじゃないぜ。
普通にホストと話をして、酒飲んで、リラックスして帰っていく、そういう人もいるさ」
「そうか・・・」
でも一応、ということは、ホストクラブ、という名前をかかげでいる以上、
やっぱりそういう関係というか交流を求めてくる客もいるってことだよな。
ということは、そういう客をターゲットにしたこういう店を開いた和希っていうのは・・・
「・・・おまえはどっちなんだ?」
ずばりと核心をついた質問を投げてみる。
和希とは長いつきあいだ。いまさら遠慮もなにもあったもんじゃない。
それに、和希がたとえゲイであったとしても、俺には関係ない。
そういったなんの裏づけもない奇妙な自信が、俺にそんな大胆な発言をさせたのかもしれない。
俺の質問に和希は一瞬きょとんとしたが、やがてその顔にゆったりと笑みがひろがった。
「確かめてみれば?自身で」

いつのまにそんなことまで身に着けたのか、和希は手馴れた様子で俺のために水割りを作ってくれた。
ずっと俺の横に座ってはいるものの、オーナーということだけあって、
いろんなところから声がかかって忙しそうだ。
汗のかいたグラスを傾けながら、
「いつもこんな忙しいのか?」
とたずねると、
「いつもはこんな風に席についたりしないよ。は特別」
と言ってにこりと微笑む。
さっきからこんな優越感をくすぐられるようなセリフを聞かされっぱなしな気がする。
"確かめてみれば?"
という和希の言葉を意識しすぎている。・・・おかしい、と自分でも思う。
本当に、そんな気はないんだけども、友人としてつきあってきた和希なんだけども、
今夜の彼はやたら、こう・・・艶めいてみえて。
ホストクラブという特殊空間のなせるワザなのか、それとも、もうすでに和希の術中に陥ってしまっているのか。
「これも、処世術ってやつか?」
苦し紛れにそうつぶやくと、和希は軽く笑う。
「そんなこともないさ。俺はごくごく自然にしてるつもりだぜ?どんな演技も真実にはかなわないからな。
つまり、俺がこうしているのは、俺の真心ってわけ」
真心、ね・・・いつもなら軽口として流してしまうところなのに、妙にひっかかる。
「まぁ・・・久しぶりだしな」
自分に言い訳をするように搾り出した俺の言葉を、和希は笑って受け流す。
「久しぶりというのもあるけど、でもやっぱり嬉しいって気持ちが一番にあるんだよ。
に会えて嬉しい。俺に会いに来てくれて嬉しい」
「和希・・・」
真正面から俺を見つめる、その澄んだ瞳はやっぱり昔と変わってなくて。
懐かしさと共にやはり俺も嬉しいって気持ちがこみあげてくる。
それにこんなに熱っぽく真剣にそんな気持ちを伝えられては。
「・・・なんか照れるな」
そう言っておもわず頬がゆるんでしまう。
そんな俺をみて和希はクス、と笑った。
「ああ・・・ようやっとその顔がみれた。のその顔、俺、一番好きなんだ」
和希は足をくんだ膝の上に頬づえをついた。
俺の顔をのぞきこむ和希のどこか嬉しそうなその表情に、
"好き" という言葉に、
過剰に反応してしまってる自分を自覚する。
「その顔って・・・どんな顔だよ?」
「だから、その顔。照れ顔?はにかんだ顔というのか・・・なんか、かわいい」
「はぁ?!」
和希の言葉に驚いて思わず体を引くと、和希はプーッと噴出した。
「ほら、だからそういうところ!素直すぎるというか裏表のないというか。それで企業のトップについてるんだから不思議だよな」
「あ、あのなぁ・・・」
ぶわっと噴出してしまった汗を、おしぼりでふきつつこっそり深呼吸。
ていうか、俺が企業のトップについてるのが不思議だって?大きなお世話だ!
「俺、心配してるんだぜ?のこと。いつも気にかけてる。遠く離れてても、ちゃんとのこと考えてるよ」
「も・・・もういいよ、そういった話は」
「なに警戒してるんだよ。別に口説いてるわけじゃないって。ちゃんと、本当の気持ち」
俺が和希の一言一句にいちいち反応してしまってることなど、彼にはとっくにお見通しだったらしい。
でも、"本当の気持ち" って言われる方が、なんだかタチが悪いぞ?
複雑な気持ちでおしぼりのすきまからちらりと和希をにらむと、和希はニコッと微笑む。
「だって、なんだか、この店に来てはじめは怖い顔してたんだぜ?
緊張してるっていうより、久しぶりに会った俺の顔もまともに見ようとしないというか・・・」
「えっ・・・」
のこと、"心配してる" って言っただろ?
仕事が忙しいのは結構なことだけど、心にも体にも休養は必要なんだよ。
さっきも言ったとうり、この店は来るお客さんの心をほぐす場所なんだ。
だから、にも楽しんでいってもらいたいと思ってるし、俺も、一緒になって楽しく過ごしたいって思ってる。
・・・固い殻を壊して素直な心を救い出すには、こちらも素直な気持ちをぶつけるのが一番。
何度でも言うよ。に会えて、本当によかった。これは本当の気持ちさ」
「和希・・・」
・・・ここまで言われてしまっては、もう、完敗だった。
おしぼりをテーブルに放り投げ、天井をあおぐようにしてソファに身をしずめる。
照明が目に入るのを手でさえぎって、俺はもう笑うことしかできなかった。
「あー・・・もう。和希にはかなわないな」
「まあな。一応ここのオーナーなわけだし」
「えっ」
和希の言葉にぎょっとして体を起こす。
「なんだよそれ。やっぱり営業トークだったわけ?」
こんなにさんざん揺さぶっておいて、ぜーんぶ演技でした、って言うのか?
あからさまに落胆した顔をしていたのだろう。
和希は笑いながら俺の肩に手を置くと、ぎゅっ、とその手に力をこめた。
「バーカ。を落とすのに営業トークなんて通用しないってのはわかってんだよ。
がキャッチできるのは、ストレートな愛情表現、だろ?」
間近で和希に見つめられて、パチンとウィンクなんかされて、ガラにもなくかあっと顔が熱くなる。
「あ、愛情表現って・・・親愛表現と言えよ・・・っ」
「つれないな」
「つりたいのかよ!」

久しぶりに会った和希は、やっぱりなにも変わってなかった。
ただほんの少し、彼の方こそ素直になってたってだけで。
客の心を癒す場所、クラブドリームヘヴン。
だけど癒しているのは客の心だけでなく、和希自身の心も癒しているのかもしれない。
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