Peanuts Kingdom 学園ヘヴン クラブ ドリーム ヘヴン

クラブ ドリーム ヘヴン Boy's Side

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遠藤和希
01.招待客
02.ハント
02.狙われた獲物

カランカランと小気味よい音を響かせ、扉が開く。
「いらっしゃいませ!」
明るいドアボーイの声が、俺を出迎える。
ここ、クラブ・ドリームヘヴンの看板、啓太の笑顔に、俺も自然と笑顔になる。
「こんばんは」
中の様子をうかがうと、結構客が入っているらしい。
うるさくはないが、いつもより空気が濃厚に感じた。
これはもしかすると・・・
「えっと、王様をお願いしたいんだけど・・・」
そういうと、案の定啓太の顔がわずかに曇った。
「すみません、今、王様は接客中でして、少し、お待ちいただくことになりますけど・・・」
うーん、やっぱりな。
王様はこの店一番人気ホストだし、今日みたいに混んでる時はひっぱりだこだろう。
となると、誰か別の人を指名しなくちゃいけないかな。
「じゃあ・・・七条さんは?」
「あ・・・七条さんも、ちょっとお待ちいただくことになりますけど・・・」
「うーん・・・じゃあ篠宮さん・・・は、もしかして厨房でてんてこまいだったりする?」
そうたずねると啓太は、
「あたりです」
と苦笑した。
うーん・・・となると、これはもう待つ覚悟でいたほうがいいかもしれないな。
でもゆっくりお話できないんじゃ、いっそ出直してきたほうがいいのかもしれないなぁ・・・

「なにをやってるんだ」

「えっ?」
不意に頭上から降ってきた低い声に驚いて顔をあげた。
するとそこにいたのは。
「な、中嶋さん・・・」
先におびえたような声をあげたのは啓太の方。
細いフレームの眼鏡の向こうから鋭い眼光が俺を貫く。
か・・・」
口元が皮肉な笑みを形づくる。
その瞳はまるで獲物をみつけたコヨーテのような、残酷な光をたたえている。
ざわりと首筋から頬にかけて、鳥肌がたった。
「どうせ、お目当てのホストが皆出払っていて、
誰を指名したらよいのかと途方にくれてたところだろう」
「あ・・・はい、そうなんです・・・」
俺の代わりに応えながら、ちら、と啓太が俺の方をみた。
これは・・・もしかすると。
「ならば、俺を指名しろ。俺がおまえの相手をしてやる」
「っ!!」
一気に頭から血が引いた。
軽くめまいを起こしかける俺に、中嶋さんは「ついてこい」とだけ言って先に行ってしまう。
「大丈夫ですか?」
啓太に手をとられ、ようやっと我にかえる。
「あの、すぐ、王様に来てもらえるように、お願いしておきますから」
啓太がひどく心配げにしてるのに気づいて、俺はあわてて笑顔をつくった。
「いや、いいよ。お仕事中なんだから。俺は・・・大丈夫だよ」
「はい・・・でも・・・」
なお心配な様子の啓太に、俺はもう一度大丈夫とこたえて、中嶋さんの待つフロアへと向かった。

「浮かない顔だな」
ソファにゆったりと座り、すっかりくつろいだ様子の中嶋さんはそう言ってわらった。
「まぁそうおびえるな。別にとって食おうっていうんじゃない。
もっとも・・・がそう望むならそうしてやってもかまわないが」
「な、中嶋さんっ」
早速首筋に指をはわされ、俺は反射的にその手を押しのけた。
「俺は別にそんなこと望んじゃいません!ただ一緒に酒を飲んで、普通に話をしたいだけです」
「そうか?だとしたらあいにくだったな。そういう役目にふさわしいやつらは皆出払っている。
俺はそんな退屈なやつらの相手をする気はない」
ピシリと冷たく言い放つ。
中嶋さんはいつもこうして、冷たいグラスを頬におしつけるような物言いをする。
初めて会ったときですらそう。
最初は興味本位だった。
いつも一人で暗がりにたたずんでいる人だった。
目立たない場所なはずなのに、それでも圧倒的な存在感があって。
どんな人なのだろうって、そう、思って指名してみたら。

『俺がおまえをもてなす、だなんて期待はするなよ。
おまえが俺を楽しませるんだ』

開口一番でそう言われて、度肝をぬかれてしまったあとは、もうすっかり中嶋さんのペース。
思い出すのも恥ずかしいほど、乱れて酔いつぶれてしまって・・・
この人にとって俺は単なるおもちゃにすぎないんだろう。
ホストのくせに、客をなんだと思ってるんだ、なんて常識的なことはこの人にはまったく通用しない。
でも、それでもいいと、中嶋さんを指名する人は後を絶たないらしい。
今夜だって、本当は中嶋さんを指名しようとした人はいたに違いない。
けれど、さっき言ったとうり、中嶋さんは客を選ぶ。
そのとき、彼の嗜好にあった獲物をいたぶるために。

「ほら、飲めよ」
「・・・?」
一口飲んで、それがノンアルコールのものとわかって思わずきょとんとすると、
中嶋さんはさもおかしそうにクックとのどの奥で笑った。
「おまえは本当にいい表情をしてみせるな。
おまえ、酒に弱いくせに、酒が飲みたいだなんて生意気を言うからな」
「なっ・・・子供あつかいしないでくださいっ」
「大人なあつかいはして欲しくないんだろう?」
す、と中嶋さんの人差し指のつめが、俺の頬をかすめた。
触れられた箇所がしびれた。
耳の後ろに手をそえられ、中嶋さんの方へ強引に顔を向けられる。
氷のような冷たい瞳にみつめられれば、蛇ににらまれた蛙のごとく、俺はもう身動きをとることができない。
「おまえ、ずっと俺のことを避けていただろう。だが意図的に避けるというのはそれだけ俺のことを意識しているということだ。
ちゃんと感じていたんだろう?俺の視線を、は」
「そんなこと・・・」
ない、と言いたかった。
でも、中嶋さんが触れている箇所から、どんどん力が吸い取られていくような気がして、言葉を続けることができない。
まだアルコールは入ってないのに、くらくらする。
中嶋さんの視線が苦しくて目を閉じると、中嶋さんは低く笑った。
「どうした。話をしたいんじゃなかったのか。おもしろい話なら聞いてやる」
ようやっと解放されて、詰めていた息を大きく吐く。
「おもしろい話なんて・・・ないです」
「じゃあどうしてほしいんだ?この俺に」
「・・・・・・酒をつくってください」
「・・・ほう?」
「俺は酒を飲みにきたんです。俺のつまらない話なんかきく気がないなら、せめて酒くらい用意してくれたっていいでしょう」
「また、酔いつぶれる気か」
「なっ、中嶋さんがそうさせたんじゃないですか!っ、むぐっ」
思わず大きな声を出してしまった口を、中嶋さんの手がふさいだ。
そのまま体重をかけられ、体がソファへと沈む。
中嶋さんの整いすぎて冷たい印象の顔が、間近にあった。
手がなければキスされているんじゃないかと思うほど、近くに。
「静かにしろ。周りは自分たちの乱痴気騒ぎで他は目に入らない。好都合じゃないか。
・・・いいだろう。の望むどうりにしてやるよ」
俺の体の上から中嶋さんの重みが消えた。
首だけ起こしてそちらをみると、俺のリクエストどうり、なにかカクテルをつくってくれているところだった。
・・・長くて、かたちのよい指が、優雅な軌跡を残して動く。
中嶋さんの体の重みと、ぬくもりが、ぼんやりと俺の体に残っている。
・・・そう、なんだ。
自分でも、本当はわかってる。
俺は、中嶋さんのことが気になってしようがないんだということを。
近づけば傷つけられるとわかっていても、どうしても意識してしまう。
この店に来れば、必ず彼の姿を探してしまう。
たいてい彼は一人でいたけど、ときおり接客に入ってる姿が目に入ると、
なんとも言いがたい不快な気持ちがこみ上げてきたんだ。
「・・・中嶋さん」
体を起こしてそう呼びかけると、シェイカーを手にした中嶋さんがこちらを向いた。
「なんだ」
「また、俺のこと酔いつぶすんですか?」
「それは俺のしったことじゃないな」
中嶋さんは目を閉じると、おもむろにシェイカーをふりだした。
シャカシャカと小気味よい音が響く。
きちんとセットされた前髪が、照明に照らされ濡れたような艶をおびている。
じっと、シェイカーの中のお酒と対話をしているかのような、真剣な横顔に、
おもわず目が吸い寄せられる。
「ほぅ、ヒデがシェイカーふるなんて、珍しいじゃねーか」
「あっ、王様・・・」
いつのまにかソファの背もたれにひじをかけ、王様がそこに立っていた。
中嶋さんはシェイカーの手を止めると、ちら、と王様に一瞥をおくったが、すぐ、グラスにシェイカーの液体を注ぎ入れた。
「グリーン・アラスカ・・・」
王様のつぶやくとうり、テーブルの上のカクテルはグリーンに光っていた。
「ジンベースのカクテルだ。まぁ、多少度数は高いが、飲めるだろう」
最後のセリフは俺にではなく、王様に向かって発せられた言葉らしい。
王様は軽く肩をすくめた。
には気の毒だが、こいつ、そうとうおまえのことが気に入ってるらしいぞ。
ま、口は悪いが悪いやつじゃないから、素直になっちまった方が身のため、か?」
「丹羽」
中嶋さんが不機嫌そうに王様の言葉をさえぎった。
それって、もしかして、王様の言葉が本当のこと・・・だから?

「中嶋さん・・・」
王様が行ってしまったあと、俺はもう一度中嶋さんを呼んだ。
「なんだ」
中嶋さんは道具の片付けの手を休めることなくぶっきらぼうにこたえる。
なんだかそれが、俺には・・・少し照れているようにみえる。
「俺、また酔いつぶれちゃってもいいですか?」
中嶋さんの手がふと止まる。
そしてこちらを向くと、俺の真意をはかるように、じっと俺の瞳をみつめた。
やがて、瞳から鋭さが薄れ、口元には笑みが浮かんだ。
「大人の扱いをして欲しくなったか」
「・・・たぶん、そう、だと思います」
痛みを伴うとわかっていても、
傷つくことを恐れて避けていてもなにもならない。
生ぬるい馴れ合いを好まない人なのだから、
俺も、ありのままの姿をぶつけてしまえばいい。
「そう・・・したいんです」
中嶋さんの表情から、彼の心境をうかがい知ることはできないけれど、
俺に注ぐまなざしに、ほんの少しだけ暖かなものを感じることができるから、
たぶんきっと、これでいいんだ。
「・・・いいだろう。おまえの望むとうりにしてやる」
俺につくってくれたはずのグリーン・アラスカを一口飲んで、中嶋さんはそのグラスを俺に差し出した。
「とことんつきあってやるよ、おまえに」
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