Peanuts Kingdom 学園ヘヴン クラブ ドリーム ヘヴン

クラブ ドリーム ヘヴン Boy's Side

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遠藤和希
01.招待客
02.ハント
03. call

『こんばんは。今、ちょっといいですか?』
「七条さん・・・!」

携帯が鳴ったのは、仕事から帰ってきて、ちょうど猫にエサをやっていた頃だった。
実のところ、いままでもメールで何度か七条さんから連絡はもらっていたのだけど、
こうして直接電話がかかってきたのは初めてだった。
ブルブル震えるバイブにしっぱなしの携帯の液晶に、『七条』って文字が出てたのに心底びっくりした。

「どうしたんですか、いったい」
『どうしたのかって・・・ずいぶん冷たいんですね。
もちろん、君に会いたいのでお店に来てくださいという、お願いの電話です』
「は、はぁ・・・」

電話越しの七条さんの声はすこしくぐもって聞こえて、
それが妙にくすぐったく感じる。
七条さんと俺が出会うきっかけになった猫の背をなでながら、
なんて返答したものかと眉間にしわを寄せた。

『だって。ずいぶん会ってないですよ。メールしても、つれない返事ばかり。
仕事が忙しいのだろうと我慢してましたけど、
もしかしたら・・・僕のこと、もう嫌いになっちゃったのかなって』
「そ、そんなことはありませんよ!」
思いもよらぬことを言われ、思わず声が大きくなってしまう。
俺の声にびっくりした猫が一瞬身をすくめたが、
すぐまたエサに夢中になった。
『・・・そうですか?』
「う・・・そ、そうですよ・・・別に俺、七条さんのことを嫌いとかそんなことは・・・」
『そうですか・・・よかった』
「っ・・・」
七条さんの "よかった" という声が、本当にほっとした声にきこえた。
軽くついた吐息すらも伝わってきて・・・
七条さんがそばにいるわけじゃないのに、そばにいるかのような感覚。
電話で話すって、結構リアルなものなんだなといまさら思う。

『じゃあ、お店に来てくれますか?』
「っ・・・あの・・・なんか結構強引じゃないですか?」
『やっぱり嫌ですか?』
「だから、嫌とかそういうんじゃなくて・・・」
『・・・僕に、会いたくはないですか?』
「えっ・・・」
会いたくはないのかと問われてみれば、俺は・・・会いたい。
七条さんに、会いたいって思ってしまう。
でもなんていうかこういうのって、本当にホストにハマっちゃった人みたいで、
しかも男相手に通いつめるなんて、とてもじゃないけど普通じゃないと思ってしまう。
そんな、理性とか周囲の目といったものが、俺にあの店に向かうのをためらわせる。
「会いたくない・・・なんてことはないんですけど・・・」
そんなことをもごもご言いながら、なぜだか目の奥がつんと熱くなる。
もし本当の友人に対しての態度なら、こんな失礼で無礼なことはないだろう。
本当は会いたいと思っている、周りの自分に対する評価を気にしてその気持ちを否定するなんて。
でもやっぱり、こうして電話してくれたのも、結局は営業電話なんじゃないかと七条さんを責める気持ちもわいてくる。
俺はこんなに七条さんのこと好きだって思っているのに、
七条さんにとって、俺はあくまで客の一人に過ぎないんだ。
そんなこと、わかっているのに・・・
『・・・すみません。君を困らせてしまいましたね』
「っ・・・」
『もしかしたら誤解をさせてしまっているのかもしれませんが・・・僕はあまり電話というのは得意ではないんです。
メールなら慣れてるんですけどね。でも電話は声は直接届くのに、顔がみえないので不安なんです。
電話の向こうの相手が今どんな顔をしているのか。もしかしたら今は、泣いているのではないか、とか』
「そ、そんなことは・・・っ」
あわてて否定するも、声がすこしうわずってしまっていたかもしれない。
電話の向こうで、七条さんがクス、と笑ったのがきこえた。
『・・・ねぇ。やっぱりお店に来てくれませんか?そう・・・君に電話をかける前、僕は何度でも言おうと決めたんです。
僕はに会いたい。の顔が見たい。が僕のそばにいることを感じたい。
文字では伝えきれない想いを、きちんとに伝えたい。僕はに会えないと、寂しい』
「七条さん・・・」
こんなに優しくて、甘い言葉を次々と耳に吹き込まれてしまっては、
俺が気にしていたことすべてがどうでもよくなってきてしまう。
きっと、七条さんは最後まで違うと否定するだろうけど、
これが営業であったとしても、今は七条さんの言葉に身をゆだねてしまいたかった。
七条さんの言葉を信じたかった。
少し濡れた目じりを指でそっとぬぐった。
「俺も・・・会いたいです。七条さんに、会いたいです」
おもいきってそう言うと、エサを食べ終わった猫がおかわりを催促するかのように "にゃあ" と鳴いた。
『おや?猫ちゃんも同意してくれてるようですね。もしかして、猫ちゃんも僕に会いたがってくれてるのでしょうか』
七条さんのジョークに思わず笑いもこぼれる。
こんな晴れやかな気持ちになったのは久しぶりだ。
『ありがとう。君がそう言ってくれて、本当に嬉しいです。では早速今夜にでも会いませんか?』
「え・・・ええっ?!」
素っ頓狂な俺の声に、猫はまたびくっと身をすくめたけど、電話の向こうの七条さんはしれっとした声音で。
『今日、僕非番なんです。さっきも言ったとうり、僕は電話をかけるのは苦手なので。
お店に出る日は電話をかける勇気をふりしぼる余裕なんてないんですよ』
「は、あ・・・」
『あ、でも、明日もお仕事でしょうから、無理にとは言いませんが・・・』
「大丈夫、大丈夫ですっ」
非番なのにわざわざ俺に電話をかけてきてくれたなんて。
仕事でもないのに俺に会いたいって言ってくれていたなんて。
期待以上の展開に頬がかぁっと熱くなる。
『では・・・』
と、七条さんが指定してきた場所は、俺の最寄り駅前にある喫茶店。
俺の住んでる場所をしっかりおさえてるあたり、さすがだな、なんて。
嬉しいと思う反面、少し切なく思ってしまうけど。

携帯を切ってそのあとは、シャワーを浴びてボサボサになってしまった髪を整えて。
普段着の中でもちょっといい服を選んで。
妙にうきうきしてしまってる自分にはっと我にかえって苦笑してしまう。
俺は本当に七条さんのことが好きなんだな。
そのことをはっきり自覚した今、これから俺はどうしたらいいのかなって不安はある。
でも今はこれから七条さんに会える。
考えるのはそのあとでいい。

「じゃ、行って来るよ」
玄関まで出てきた猫のにゃあんという鳴き声に見送られ、俺は部屋をあとにした。
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