Peanuts Kingdom 学園ヘヴン クラブ ドリーム ヘヴン

クラブ ドリーム ヘヴン Boy's Side

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遠藤和希
01.招待客
02.ハント
01.ありがちな出会い

その人は、夜目でもはっきりわかる銀髪の綺麗な人だった。
電信柱の根元に置かれたダンボール箱の中を、座り込んで眺めていた。
ミュウ、ミュウ、とあきらかにそれとわかる鳴き声がその箱の中からきこえていた。
けれど、その人は拾うともなし、かといって立ち去る気配もなく、
ただ、そこにそうして座りこんでいた。
「捨て猫ですか?」
なぜかほうっておく気になれなくて思わず声をかけると、
その人ははっとして振り返った。
その人は異国の血が混ざってるらしい、彫りの深い端正な顔立ちをしていた。
紫にもみえる瞳がひどく印象的な・・・それが、彼、七条さんとの初対面だった。

「あのときのことは忘れられません。もし、あのときが僕に声をかけてくれなかったら、
僕はあそこから離れることができなかったでしょう・・・猫ちゃんは元気ですか?」
七条さんは俺が店にくると必ず猫のことをたずねてくる。
そう、結局そのときの猫は俺が拾って育てている。
七条さんはマンション暮らしで、ホストという昼夜逆転の生活をしてるので猫を飼うことができないということと、
かたや俺はしがないサラリーマンながらも、古い一軒屋を借りて住んでいることから、
その猫をひきとることにしたのだ。
「元気ですよ。日ごとやんちゃになっていくみたいで。
ちょっと目を離すと家財道具に爪たてるのだからたまりませんよ」
「フフ、すみません。では、今度なにか猫ちゃんのために買ってきてあげましょう。またたび入りの爪とぎとか」
本当に七条さんは猫が好きらしい。
あのとき、あそこで釘付けになっていたのも、
マンションの規則を破ってでもつれて帰りたい衝動にかられてたからだし。
「そんなに好きなら、ペットOKのマンションに引っ越せばいいじゃないか。すぐにでもおゆずりしますよ」
すると、七条さんの顔が悲しげに曇った。
「そんな・・・せっかくに拾ってもらわれたのに、もういらないって僕にゆずるんですか?」
「ああ、いや、いらないとか、そういう意味じゃなくて」
軽い冗談のつもりだったんだけど、七条さんはまるで自分が拾われまた捨てられたかのような、
悲しげな表情のまま俺をみつめる。
俺、七条さんのこと傷つけちゃったのかな。
紫の瞳が一瞬涙に濡れたようにみえて、どきりとする。
「っ・・・いや、その・・・」
「・・・・・・冗談です」
ニコ、と七条さんは微笑んで、氷のとけた俺のグラスに新しい氷をいれてくれた。
がそんなつもりで言ったわけではないって、ちゃんとわかってますから、安心してください」
「なんだ・・・人が悪いですよ、七条さん」
「すみません。は優しい人だから、つい、甘えてしまうんです」
「優しいって・・・そんなことは」
「優しいですよ。本来ならもう、僕ともあれきりでお別れになるところを、こうしてまた僕に会いに来てくれた。
僕があの子猫のことを気にかけていることを知って、また来てくれたんでしょう?」
「ええと・・・うーん、そう、なのかなぁ・・・?」
そういえば、ついなんとなくお店に来てしまっているけど、これってなんだろ・・・
はたからみれば、七条さんの営業にうまくのせられてしまった鴨、にみえるのかなぁ。
でもだとしても、こうして七条さんと話をするのは楽しいし、お店の雰囲気もいいし、
料理もお酒もおいしいから、つい、行きたくなるんだよな。
「・・・おや?それとも・・・」
「えっ?」
不意に、七条さんが俺の顔をのぞきこみ、その瞳で、じっと見つめられる。
こんな近くで七条さんにみつめられたら・・・なんだか落ち着かない。
ひざに置いた手に、七条さんの手が重ねられ、びくりと体が震えた。
「・・・僕にこうされるのを、待ってた、とか?」
「なっ?!」
反射的に七条さんの手をふりはらい、あわてて体を離した。
かああと顔が熱くなって・・・うわ、変な汗まで出てきた!
七条さんはくすくす笑いながらゆったり座りなおして、余裕の表情でそんな俺を眺めている。
「そのあわてっぷり・・・図星、ととらえていいのでしょうか?」
俺は必死に首を横にふった。
「おや、違うんですか?・・・それは残念。ここはこういうところですから、
がその気なら、僕はいつでも大歓迎、なんですけどね」
「し、七条さん!」
「・・・冗談です」
「も、もう!」
さもおもしろげにニッコリ微笑む七条さん。
あぁ、もう、まったくかなわない。
心臓だってまだドキドキしてる。
重ねられた手の感触もまだ残ってる。
ホストとして、来た客のニーズにあわせて接待してくれるってことだってわかってる。
でも、ただ俺は・・・
偶然しりあえた七条さんと、もっと仲良くなりたいって、そう、思ったから・・・
「理由なんてどうでもいいんですよ、本当は。が僕に会いに来てくれる、
そのことがなにより大事なことなんです」
「それは・・・七条さんも、俺に会いたいって思ってくれてるってことですか?」
「もちろん。は僕の願いをかなえてくれた人ですから。
今度はどんなおねだりをしてみようかなって、つい考えてしまうんですよ」
「ええーっ?」
「大丈夫。にできる、にしかできないことをお願いするつもりですから・・・たとえば、
今度、がお店に来るときはその前に、どこか食事にでも行きませんか?」
「それって・・・」
「いわゆる、同伴、というやつです」
七条さんはそう言うと、パチンとウィンクをした。
うっ・・・だめだ・・・そういうことされると恥ずかしいって思うのに、
でもやっぱりもっと七条さんと仲良くなりたいって気持ちの方が大きくて。
「わ・・・かりました・・・」
「じゃあ、の連絡先を教えていただけますか?」
どこかうきうきしてみえる七条さんに、
俺はあきらめと、すこし嬉しい気持ちがないまぜになった複雑なため息をつくことしかできなかった。
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