Peanuts Kingdom 学園ヘヴン クラブ ドリーム ヘヴン

クラブ ドリーム ヘヴン Girl's Side

タイトルをクリックすると、名前入力画面が出ます。
必ずJavascriptを有効にしてからご覧ください。
01. We miss you!

その夜はあいにくの雨。
こんな日は早く帰ってしまうに限るのだろうけど、
でも、つい、魔がさしたとでもいうのだろうか。
こんな日だから、もしかしてお店もすいてるんじゃなかろうかと、
調子のいいことを考えて、自然に足はクラブ・ドリームヘヴンに向かっていた。
ちゃんと、ドアに灯りがついているのを確認してほっとする。
小さなシェードの下で傘の水気をはらう。
簡単に服や足元が汚れてないかチェック。
ヒールだったから、ちょっとはねちゃったけど・・・これはしかたがないかな。
ふぅ、とため息をついて、ドアを開けた。

「いらっしゃいませ」
「あれっ?」
予想外のことに、ちょっと面食らってしまう。
だってそこには、いつものかわいいドアボーイ・啓太くんの姿はなく、
代わりにこの店のオーナー、和希さんが立っていたから。
「えっと・・・?」
とまどう私に、和希さんはにこりと微笑んだ。
「そんなところに立っていたら、雨が降りこんでまた濡れてしまいますよ。さ、中へどうぞ」
うながされるまま店の中に入ったものの、いつもと違う様子にどうしたらいいかわからない。
「あの・・・啓太くんは?」
「すみません、啓太は今日はお休みなんです」
「そうなんだ・・・体調崩したとか?」
「いいえ。今日は研修に出してます」
「研修・・・」
「彼が将来、この店のホストになるために必要なことなんですよ」
「えっ、じゃあ、啓太くん、ホストになるの?」
「うーん、今すぐ、というわけじゃないですけどね。もう少し、勉強してもらってからじゃないと」
「へぇ・・・」
ホストになるために研修を受けなければならないなんて、結構厳しいんだなぁ。
どんな研修か知らないけど、啓太くんなら愛想もいいし、礼儀正しいし、
もう十分ホストとしてやっていけそうなんだけどな・・・
「啓太に会えなくて、残念?」
「えっ」
不意に顔をのぞきこまれて、どきんと心臓がはねた。
だって、和希さんの顔をこんな間近でみたのは初めてで・・・
ホストとは違う、少しノーブルな雰囲気をもった和希さんに、こんな風にからかわれたりしたら、私・・・
顔を熱くしたまま、うつむいてなにも言うことができない私に、和希さんはくすっと笑った。
「ごめん、ごめん。でも実は啓太に会えなくてさびしいって思ってるのは、俺や他の店員たちも同じでね。
つい、必要以上にに甘えてしまったね。からかってごめん」
「はぁ・・・」
「おっと、こんなところで立ち話なんてさせてられないね。さて、今夜のご指名はいかがなさいますか」
「えっと・・・」
・・・和希さん、ってわけにはいかないんだろうなぁ・・・彼はホストじゃないもんね。
たまに席にまわってきてくれて、話しかけてはくれるけど。
「うーんと・・・あの、今夜はとくに誰ってことはないんだけど・・・」
「ご指名はなし、ですか。・・・わかりました。では、お席までご案内しましょう」
少し悪いかな?と思いながらも、和希さんに手をとられ、店の中に案内される。
いらっしゃいませ、と店のあちこちから声がかかる。
・・・やっぱり、いつもよりすいているようだ。
案内された席はいつもと変わらぬソファー席。
そこに座ると、いつのまにかそこにひざまずいていた和希さんがおしぼりを渡してくれた。
「どうぞ」
「はっ、はい・・・ありがとう」
こんな風に・・・ホストみたいに、和希さんにかしづかれるなんて初めて。
下から見上げる顔がすごく綺麗で、いまさらながら和希さんの美形っぷりに思わずぽうっとしてしまう。
和希さんは立ち上がると、ソファの後ろをまわって私の隣に立った。
「こちら、座ってもよろしいですか?」
「えっ、え、えぇ・・・!」
「ありがとうございます」
和希さんはにこっと微笑んで、私の隣に座った。
うわー、うわー、これってもしかして・・・?
「今夜は、啓太がいなくてさびしい者同士・・・ってことで、お相手させてもらってもいいですか?」
和希さんが・・・私のホスト役をしてくれるってこと・・・?
わー、なんかすごいラッキーだったかも!雨でもかまわず来てよかった!
「まずは飲み物・・・は、なにがいいかな」
「えぇっと、えーと・・・な、なんでもいいです・・・」
すっかり浮かれてしまってるせいでなにも思い浮かばない。
恥ずかしいなと少しうつむくと、和希さんがまたくすっと笑った気がした。
「じゃ、俺お手製の甘いカクテルでも・・・篠宮さん、ちょっと」
はい、とカウンターの方から声がして、ギャルソン姿の篠宮さんが現れた。
「悪いんだけど、俺の用意しておいてくれるかな」
「はい、わかりました。・・・いらっしゃいませ」
篠宮さんは私に気づくとにこ、と微笑みかけてくれた。
そして軽く会釈をすると、再びカウンターの奥へと行ってしまった。
「ちょっと待っててもらえるかな。すぐ美味しいのを作ってくるから。・・・王様!」
「なんだ、オーナー・・・ん?なんだ、か」
「こ、こんばんは」
あいかわらず王様は大きいなあ。
デキる男の風格漂うっていうのか、いつも余裕ありげな微笑みを浮かべて、
心ごと懐に抱きとめてくれそうな・・・王様というあだ名がぴったりというのもすごい話。
「今夜はオーナーを指名したのか?やるな」
王様のからかうような口調におもわず口ごもってしまうと、横から和希さんがさりげなくさえぎってくれた。
「王様。彼女が俺を指名したわけじゃないよ。俺が彼女を指名したんだ」
和希さんが私を指名?いつからそんな話になっちゃってるんだろう。
和希さんはソファから立ち上がると、私の後ろにまわって、そっと肩に手を置いた。
後ろから、肩に手を置かれると、なんだか和希さんに捕らわれているみたい・・・胸がどきどきする。
「彼女は、俺の大切なお客様だから、変なことするなよ?」
頭の上から響く声に、じん、と痺れてしまう。
本当に、いい声してるのよね、和希さんて・・・
でも正面には王様が立っているから、まさか和希さんにうっとりしてしまてるなんてバレるわけにはいかない。
私はなんてことはない風ににっこり微笑む。
王様はそんな私たちをみてどう思ったのか、軽く舌打ちした。
「だったら俺なんか呼ばずに、他の誰かを呼べばいいだろ」
「俺の代わりは、王様にしかつとまらないだろ?それに、王様も啓太がいないってぶーぶー言ってたからなぁ」
「なっ!そりゃオーナーの方だろっ」
はははと和希さんの笑い声がして、肩から手の重みが消えた。
その瞬間、体中の力が抜けて、ずいぶん緊張してしまっていたことに気づいた。
和希さんがいなくなって、おもわずはぁーっと息をつく。
すると、隣にどさっと座った王様が、なんだぁ?とあきれたような声をあげた。
「もしかして、も啓太がいなくて腐ってた口か?」
「えー・・・まぁ・・・そう、かも・・・」
本当は、和希さんにすっかりのぼせあがってしまっていただけなんだけど、
それは内緒にして王様の言うとおりってことにしておこう。
王様は私の本音には気づかず、はははと豪快に笑った。
「どいつもこいつもしょーがねぇなぁ!・・・って俺もだけどよ。
こんな雨の日にこそ、あいつの笑顔がみんなを明るくしてくれるってーのによ。
ったく、研修行かせたのはオーナーのくせに、ちゃっかりのホストの座をゲットしてるんだもんな。現金なもんだぜ」
「啓太くん、本当にみんなに可愛がられてるんだね」
「あぁ。客も、はやく啓太をホストにしろってみんな言ってるぜ。もそう思ってるんじゃないのか?」
「そうだね。もっとゆっくり話してみたいって思ってるよ」
「ふーむ・・・」
うん?王様ったらなんか急に難しい顔して私のことみてる。なんだろう?
「どうしたの?」
「うーん、いや、その・・・なんだ。俺も啓太には早く一人前になってもらいたいとは思ってるんだが、
いざそうなったら強力なライバル出現、ってことになりそうだなと思ってな」
あー・・・たしかにそうかも。
啓太くんがホストになったら、私もすぐ指名しちゃうだろうし。
それにしても今からそんな心配しちゃうなんて・・・
くすくす笑うと、王様も恥ずかしそうにしてる。
「なんだよ、笑うなよ。結構本気で心配してるんだからよ」
「まさか・・・王様は大丈夫ですよ。王様はずっと王様でしょ?」
「うーん、まぁ、そうなんだが・・・でもよ、だって啓太がホストに昇格したら、まっさきに指名するんだろう?」
「そりゃねぇ」
「ふーっ・・・参ったな。王様と呼ばれても、女王様にはかなわねーや」
そう言って王様は本当に頭をかかえている。
「えーっ、女王様って私のこと?」
そうたずねると、王様は手の下からうかがうように私を見た。
きら、と光る瞳は、さっきまでのコミカルな雰囲気とはガラリと変わった、妖しい光をたたえていて。
「・・・以外に誰がいるっていうんだよ」
なんて、口の端をあげてにやりと笑われたら・・・やっぱりドキドキしてしまう。
ああ、人気No.1って伊達じゃないんだなあ。
「・・・もう!王様のそういうとこ、ずるい!」
「なんだぁ?もう俺の魅力の虜か?」
「王様!」
「こらこら、そんなところで痴話げんかしない」
「んん?おっと、ナイト登場か?」
王様が振り返るのにつられるようにして後ろをみると、そこには和希さんが立っていた。
手にした銀のトレーの上には青く光るカクテルグラスが。
「おっ、それ、啓太の・・・?」
「ああ。啓太の誕生日に、啓太のイメージに合わせて作ったカクテルだよ」
「へぇ〜」
目の前にさしだされ、手にとると、爽やかなミントの香りがした。
「・・・てゆーか、オーナーさんよ。いくら啓太がいなくてさびしいからって、こいつに"啓太カクテル"を出すのはどうかと思うぜ?」
「いいんだよ。彼女も啓太目当ての一人なんだから。王様の分も作ってやろうか?」
「オーナーじきじきに?そりゃ嬉しいな」
ふと、和希さんの目が優しく細められ、私をじっと見つめた。
「雨は嫌いではないけど、さびしがり屋の男ばかり集まったこの店で一夜を過ごすには、少し、憂鬱だから。
このカクテルが似合う、が来てくれてよかった」
「和希さん・・・」
ぽうっと頬が熱くなる。
女心を甘く刺激されて、そんな瞳で見つめられたら、もうとろけてしまいそう。
「おいおい・・・」
はぁーっと隣で王様が盛大にため息をついた。
「おまえら、俺がここにいるってこと、少しはわかって遠慮の一つもしてやってくれよ」
やっぱり自信なくなってきた〜なんて、王様がすねるものだから、
私と和希さんは同時にぷっとふきだしてしまった。

ミントの強いカクテルは、口の中を清涼にしてくれる。
今夜はいくらでも、甘い言葉をいただけそうだ。
もしお気に召しましたら拍手をポチしてくださると嬉しいですv

上に戻る