Peanuts Kingdom 学園ヘヴン クラブ ドリーム ヘヴン

クラブ ドリーム ヘヴン Girl's Side

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02.らしくない人

本当のことを言うと、夜は苦手。
暗いのも苦手だし、すぐ眠くなっちゃうし・・・
そう言うと、和希さんはおかしそうにクスリと笑った。
「そんなこと言って、も夜の蝶と呼ばれているくせに・・・どうしますか?お酒やめてノンアルコールにしますか?」
ここまできてお酒飲まないなんてことあり?
私は当然、「お酒でいいの」とそのままカクテルをつくるよううながした。

和希さんとの出会いは私が勤める店で。
近日ホストクラブをオープンする予定だから、そのご挨拶とかいうことで来店した和希さんに、
No.1ホステスであった私はママに呼ばれて紹介された。
第一印象は、この人がホストクラブのオーナー?なんて。
ちっともそういう風にはみえなくて。
どちらかというとうちのお店によく来るエリートサラリーマン、といった風情。
こんな人がどんなお店をつくったのか興味がわいて・・・というのが、来店のきっかけだった。

「将来は自分でお店をもとう、なんて考えはないの?」
カクテルを私に差し出しながら和希さんがそうたずねてきた。
私はカクテルをうけとって一口飲んでから、少し首をかしげた。
「さぁ・・・そういう話があったらやってみてもいいかも、ってくらいかな。
私はママみたいにみんなに気を配って、さらに経営のことも考えて、なんてできないもの」
「結構控えめなんだな。No.1ホステスなんていうから、もっと向上心が強いかと思った」
「向上心がないから、No.1になれたのよ」
カクテルから口を離して、ほぅ、とため息をつく。

私の仕事はお客さんの心を癒すこと。
こういう仕事を選んだ以上、それが私のつとめだと思って、それなりに努力もしてやってきた。
お客さんが私と会話をすることによって、元気が出てきたり、笑顔になったりするのをみるのは楽しい。
ほんのひとときでも、その人の支えになれることが嬉しい。
ライバル心といったものもないから、周りの子たちに妬まれたりすることもあまりなくて、
楽しくお仕事させてもらってる。
ママや今の仲間達とお仕事するのが楽しいから、独立なんて考えない。

「・・・和希さんこそ、なんでホストクラブを?こういうのに興味があるようにみえないんだけど」
そう言うと、和希さんはすこしおどけるように肩をすくめた。
「興味があるようにみえない?こうみえても、結構女の子は好きなんだけどな」
・・・そんなこと言われても、いまいち実感がともなわないのはどうしてかしら。

「オーナー」
呼ばれて顔をあげると、ソファの端に一人のホストが立っていた。
この人もホストと言われてもピンとこない。
だって、まるで女性とみまごうばかりの美貌の持ち主なんだもの。
化粧してドレス着せたら、うちの店でも十分やっていけちゃいそう。
まじまじと見つめる私の視線に気づいたのか、彼はふとこちらを見た。
視線が交わった瞬間、にこ、と穏やかに微笑まれる。
そつない笑顔とそのタイミングに、どきりとさせられてしまうあたり、やはり彼もプロか。
「西園寺さん。ちょっと失礼」
和希さんはそう言うと席をたち、西園寺さんと少し離れた場所へと移動した。
一言、二言なにやらひそひそと会話をしたのち、西園寺さんは軽くうなずいた。
そして私の方をみると、
「失礼しました」
と軽く礼をしてくるりときびすをかえして行ってしまった。
「・・・今の人もホストなのよね」
「あぁ。彼はうちのNo.2ホストの西園寺さん。なに、はあんな感じがタイプ?」
「タイプとかそういうんじゃなくて、なんかあんまりホストっぽくないなぁって思って」
「ああ見えて、彼もかなりやり手ですよ。不用意に近づくとヤケドしますよ」
ヤケドしますよ、って・・・そういう言葉が和希さんの口から出てくること自体、
なんかもう想定外というか不思議というか。
「うーん、あんまりソレっぽくないのよね」
「えっ?なにが?」
「うん、だから、和希さんも、さっきの西園寺さんも、ぱっと見て夜の仕事してるようにはみえないのよ。
なんていうか・・・やけにノーブルというか、ホストというより・・・執事っぽい?」
「しっ・・・」
私の言葉がショックだったのか、和希さんは絶句して固まってしまった。
その反応に今度は私がびっくりしてしまう。
「えっ、いや、その、別にそれが悪いとは言ってないのよ?むしろ意外性があっておもしろいなぁって思うわ」
「う〜ん・・・」
和希さんは頬に手をやってうなってしまってる。
結構痛いとこついちゃったのかしら。
「あの、あまり気にしないでいいと思うわ?その・・・和希さ・・・っ?」
傷つけてしまったかと身を乗り出した瞬間、ソファについていた手を握られた。
私はぎょっとして思わず体を引こうとしたけれど、つかんでくる手は思いのほか強くて。
顔をあげると、ひどく近くに和希さんの瞳があった。
「・・・こうやって、油断させるのが手だとしたら・・・どう?」
長い前髪越しに和希さんの瞳が妖しく光る。
さっきまでとはまったく違う、それはまさに 『夜の男』 の表情。
ゾクリとしたのは、恐怖か、それとも、男の色香によるものか。

「ず・・・ズルイっ」
ようやっと放してもらった手をもう片方の手でさすりながら、彼をきっとにらむ。
和希さんはソファにゆったりくつろいで、満足げに笑っている。
「だって。があまりにも場慣れしてて、まるであっちのお店で会った時の様子そのままなんだもの。
ここはホストクラブで、は俺のお客様。
オーナーがテーブルにつくなんてそうはないことなんだぜ?もっと楽しんでもらわなくちゃ。
執事・・・じゃこんな風にイケナイおイタはできないからね」
「〜〜〜っ、もうっ!」
この落差はいったいなんなんだろう。
すっかり彼の手口にしてやられたような格好になってしまって、我ながらかっこわるい。
こんな風にいいようにされてしまうのは、No.1ホステスとしての沽券にかかわるんじゃないかしら。
「そうやって女の子をだましてきたのね。よーくわかったわ」
憎まれ口をたたいて体をそむけて。
ドキドキして赤くなってるだろう頬を彼から隠す。
「私はホステスやってきたけど、だからってお客様をだますようなことはしてないわよ?」
「そうかなぁ?十分だましてると思うけど。今だってほら」
和希さんはまた体を近づけてきて、肩ごしに私の顔をのぞきこむ。
「ホストの品定めをするようなことをしておきながら、本当はこんなに純粋だ」
「ちょっ・・・」
和希さんはククッと低く笑って私から離れた。
がNo.1ホステスになった理由がわかった気がするよ。
とても利発で時に冷静なのに、素はこんなに可愛い・・・そんな落差をみせつけられたら、男はコロリと参っちゃうだろうね」
そんな・・・人を二重人格みたいに言わないでよね!
二重人格っていうなら、和希さんの方よ・・・

和希さんはテーブルに置かれた自分のグラスを手にとって、ゆらゆら揺らしている。
照明の光が反射して、アルコールがキラキラ光る。
「ただ俺は人を楽しませてあげたいだけ。疲れや、心の傷があるならそれを癒してあげたいって思う。
・・・俺がずっとそうしてもらってきたからね」
和希さんの言葉に胸がかすかにうずく。
だってそれは、私が抱いている想いと同じだったから。

周りの人に優しくされて、支えてもらって、私は今ここにある。
与えてもらった優しさを、癒しを、少しでもまた別の人に伝えていきたい・・・

「・・・でも、女の子限定なんだ?」
ホストクラブを経営するってことは結局そういうことなんでしょう?と、軽く冗談めかして言うと、
「だからさっきから言ってるだろ?俺はみたいな可愛い女の子が好きなんだって」
和希さんは困ったような苦笑いを浮かべつつ、パチンとウィンクした。
それもなんだか意外で、受け止めきれずにまたドキドキしてしまう。
ホストモードの和希さんは、大胆で少し強引だ。
「・・・人はみかけや第一印象で判断しちゃいけないってことがよーくわかったわ」
ため息まじりにそう言うと、
「じゃ、今の俺はどんな印象?」
と和希さんはおもしろそうにたずねてきた。
私の顔をのぞきこむ楽しそうな瞳と視線が合って、私はまたため息をついた。
熱くなりかけた頬を、吐息で冷ますように。
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