Peanuts Kingdom 学園ヘヴン クラブ ドリーム ヘヴン

クラブ ドリーム ヘヴン Girl's Side

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03. ナイト

「こんばんは。七条臣です」
柔和な微笑を浮かべて現れたその人は、日本人離れした顔立ちに銀の髪を持つ、
まるでおとぎ話に出てくる王子様のような青年だった。

友人に連れられて初めて訪れたホストクラブ。
彼女のお目当ては、女性かとみまごうばかりの美貌の人、西園寺さん。
あまりに綺麗すぎて、私は目をあわすこともできなくて。
「ずいぶん内気なんだな。そういう奥ゆかしさも、女性として魅力的ではあるが」
長いまつげでふちどられた瞳を細め、クク、とのどの奥で笑う姿はまるで高貴な猫のよう。
私はなんて返事をしたらいいのかもわからず、ただうつむいているだけ。
「西園寺さん、彼女、こういうとこ来るのは初めてだから。あまりいじめないで」
「心外なことを言う。私がいついじめた?」
「可愛い女の子とみるとすぐからかうんだから」
「なんだ。嫉妬してるのか?」
「っ、もう!」
甘い会話にこちらがあてられてしまう。
ますますいたたまれない気持ちでいっぱい。
あぁ、やっぱり私にはホストクラブなんて無理だったのかも。
「・・・いや、悪かった。初めてなのだから、とまどうのも無理はない。なら・・・うってつけの男がいるが」
そう言って西園寺さんは奥に控えていたボーイを呼んで、なにやら耳打ちをした。
「うってつけの男?」
「あぁ。ある意味私よりタチが悪い男ではあるが・・・最初のうちは紳士的にふるまうだろう」
一体どんな人が来るのかと、自然と身がかたくなる。
でもこの西園寺さんが、初めての私にうってつけだというのだから、きっと、大丈夫なのだろう。
せっかくここまで来たのだからと、リラックスしようと丁寧に呼吸を繰り返した。

「こんばんは。七条臣です」
「っ?!」
不意に、向いていた方向と反対側から声をかけられ、思わずソファの上で飛び上がってしまった。
「あぁ、すみません。驚かせてしまいましたか?」
「臣・・・後ろから急に声をかけるだなど、不調法だぞ」
「すみません。でも、ずいぶんと肩に力が入っていたようにみえたので。ね?」
七条さんは私と目が合うと、パチンとウィンクした。
「あ・・・」
緊張している私をほぐそうとしてこんなことを?
隣、失礼しますね、と言いながら、七条さんはふわりと私の隣に座った。
そして私の方へきちんと向いて、にこ、と微笑んだ。
「あらためまして。はじめまして、七条臣です。君は、今夜初めてこの店にいらしたんですよね?」
「あっ、はい、そうです。はじめまして」
思わずペコリと頭を下げると、七条さんも、どうも、と言って頭を下げた。
「ふうん・・・なんだか初々しいな」
ソファの背もたれに片肘ついてこちらを眺めている西園寺さんがそう言うと、七条さんはクス、と笑った。
「それはもちろん、初対面ですから。・・・君と僕とで新しい関係を築いていく、はじめの一歩です。・・・手を」
「?」
七条さんがさしだす手に、条件反射的に手を置いた。
すると、クイッ、と持ち上げられ、手の甲に七条さんの唇が触れた。
「っ?!」
ゆっくり顔をあげた七条さんの瞳が、まっすぐ私をみつめる。
「今夜から、僕が君のナイトです。どうぞ、仲良くしてくださいね」
「は・・・はい・・・・・・」
手を離してもらっても、まだ胸がドキドキいってる。
顔が火照って、熱い・・・
「西園寺さん・・・初めての子にうってつけの男?」
友人が皮肉っぽく西園寺さんに言うと、西園寺さんはアメリカ人のように左右の手のひらを上にむけて、肩をすくめた。

「少し、場所をうつしませんか?」
七条さんからそう言ってきたのは、四人で飲みはじめてからしばらく経ってからだった。
どうしたらいいのかわからず、とっさに西園寺さんたちの方をみると、
「行ってきなさいよ。私たちはここにいるから」
と、友人はそう言ってヒラヒラと手まで振っている。
うーん、そういうのもありなのかな?
でも七条さんと二人きりだなんて緊張しちゃうなぁ・・・
「さぁ、お手をどうぞ」
まるでお姫様のようにエスコートされてソファから立ち上がれば、
さりげなく腰にまわされた手が、本当に騎士に守られているような心地にしてくれる。
「あちらにカウンターバーがあるんです。ごちそうしますよ」
足の長い椅子に腰をかけると、七条さんは早速中のバーテンダーになにやら注文している。
・・・はぁ・・・これってやっぱり、そういうこと、なのかな。
七条さんは、私にまた来てもらおうとして、こんなに優しくしてくれてるんだろうな・・・
そういうお仕事なんだからしかたがないけど、また来るかどうかちょっとわからない今は、
なんだか申し訳ないような気すらしてしまう。
「どうしました?」
「あっ、いえ、なんでもないです」
七条さんに悟られないように、いそいで笑みをつくる。
すると、七条さんはじっと私をみつめた。
・・・そんな風にみつめられたら・・・私、またドキドキしてしまう・・・。
どんな顔をしたらいいのかわからず、笑みもあいまいなものになってしまって。
「あの・・・七条さん?」
やっとのことでたずねると、七条さんはなぜか、少しさびしげな表情をした。
「・・・少し・・・疲れてるようですね?」
緊張している私を、疲れていると勘違いさせてしまった?
「えっ・・・あ、ごめんなさい、そんなことは・・・」
「いえ。僕のほうこそ、君を、僕のわがままにつきあわせてしまって、すみません」
「・・・え?」
七条さんは私の隣の椅子に座ると、フーッと大きく息を吐いた。
「こんなことをしたら、せっかく笑顔をみせてくれた君をまた緊張させてしまうということはわかっているんです。
でも・・・僕はどうしてもこうしてと二人きりで話がしたかった。の事をもっとよく知りたい」
「っ・・・」
七条さんの瞳がまっすぐ私をみつめる。
照明の光の加減でか、赤紫色に見える瞳は神秘的で・・・綺麗すぎて。
こんなに素敵な人が私のことをもっとよく知りたいって・・・
営業だと頭ではわかっていても、ときめいてしまうのはどうにも止められない。

「お待たせしました」
カウンターの上にのせられたピンク色のロングカクテル。
「ピーチレディーというカクテルです。ワインが好きだと言っていたので、ワインベースのカクテルを。
・・・をみていたら、このカクテルが浮かんできたんです。可愛い色でしょう?」
「っ・・・」
ま、またさらりとそんなことを・・・
なにか気のきいたことを言い返したいけど言葉がみつからない。
あわあわとしている私をみて、七条さんはあぁ、と嘆息した。
「すみません。また、君をとまどわせてしまいましたね。・・・でも君が考えているとおり、これが僕の仕事ですから」
仕事って・・・さらりと大胆なことを言ってのける七条さんに、思わず目を見開いてしまった。
私が驚いているのがわかったのか、七条さんはクス、と笑った。
「でも、いくらお仕事とはいえ、絶対こうしなきゃいけない、なんてことはないんですよ。
ここではお客さんも楽しむように、僕たちも楽しんでいるんです。僕は純粋に、との出会いを楽しんでいるんですよ」
「は・・・はぁ・・・」
この人は、ホストとしての仕事を心底楽しんで、そして、私と一緒にいることも楽しい、そう思ってくれているということだろうか。
私はずっと、私なんかにつきあわせることになってしまって申し訳ないな、なんて、そんなことばかり考えていたのに。
ドキドキすればするほど、・・・七条さんに惹かれれば惹かれるほど、
この人は本当は私なんかは眼中にもないんだなんて、勝手にそんな風に思いこんでいた。
あまりにも優しくて、紳士的に接してくれるこの素敵な人に、
いつのまにか夢中になってしまいそうな自分に冷たい現実を突きつけて、ときめく心を必死で抑えていた。
でも本当に・・・私と一緒にいても、楽しいと、そう思ってくれてるのだろうか?
「・・・七条さんは、どうして私に・・・?」
そんな風に興味をもってくれるの?と、きいてみたかったけれど、すべてを言わなくても七条さんには伝わったようだ。
「どうして、でしょうね。では反対に質問しますが、どうしては僕にそのような質問をするんですか?」
「えっ」
「・・・少し、意地悪でしたね。でもたぶん、の僕への質問の答えは、僕のへの質問の答えと一緒だと思いますよ」
「え・・・・・・」
「接する時間が長くなれば、いろんな部分がみえてきて、相性が合わないなと感じることも出てくるでしょう。
でもすべてのはじまりは、ここから、ですよ」
七条さんはそう言って自分の目を指差した。
「第一印象、です。第一印象で、僕はに興味をもった。なぜ興味をもったのかと問われれば・・・
好みだったから、というのが一番しっくりくる答えかもしれませんね」
「そ・・・」
それって・・・私が七条さんの好みに合っていた、ということ?
言葉をかえせば、私の好みが、七条さんだということ?
そこまで考えが及ぶと、一気に血が頭に集まってしまって、耳までかぁっと熱くなった。
「すみません。また、を困らせてしまいましたね。でも、照れるも可愛らしいですよ」
「しっ、七条さんっ」
赤くなってしまった頬を両手で隠して、もうそれ以上言わないで!と必死で懇願する。
恥ずかしくて恥ずかしくて・・・本当にもう、どうしたらいいのかわからない。
「そんなに恥ずかしがられると、もっとみていたくて、つい、いじめたくなっちゃうじゃないですか」
「っ?!」
耳を疑うようなセリフに思わず顔をあげると、七条さんは変わらぬ穏やかな微笑を浮かべて私をみていた。
「もっと、僕を信頼していただいても大丈夫ですよ。
僕の勘は結構当たるんです。僕はきっと、のいいナイトになれると思いますよ」

お店からの帰り道、すっかり七条さんファンになってしまった私をみて、友人ははぁーっと深いため息をついた。
「西園寺さんたら、とんでもないのを連れてきてくれたわね」
本当にね、と苦笑してうなずいてしまう私は、もう白旗をあげたも同然なのだろう。
夢のような時間を与えてくれるクラブ・ドリー夢ヘヴン。
夢はいつか醒めてしまうものだけれど、それでももう一度みたいと願えば叶う。
また来ようよね、という私に、友人はもう一度ため息をつきつつも、そうねと言って笑った。
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