Peanuts Kingdom 学園ヘヴン クラブ ドリーム ヘヴン

クラブ ドリーム ヘヴン Girl's Side

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04. ピンク・シャンパン

仕事からあがったらまず携帯をチェックする。
身に染み付いてしまった一連の動作。
友達からのメール、家族からのメール、宣伝メール・・・その中に、ドキリとする一通のメールが届いていた。

それは西園寺さんからのメール。

「西園寺」の文字を見ただけで、胸が高鳴る。
震えそうになる指で開封ボタンを押す。
件名は、無題。
内容は・・・・・・

『もし今夜、時間があるなら、私に会いにこないか』

・・・会いにこないか、って。
西園寺さんらしい言葉にふと笑みが浮かぶ。

が好きだといっていた、ピンクのシャンパンが届いた。
が来るまでとっておこう・・・と言いたいところだが、私は気が短い。
早く来ないと、一人で飲んでしまうかもしれないぞ。』

西園寺さんの声まで聴こえてきそうな文面に、思わずはぁ、とため息をつく。
前に話したことがある。ピンクのシャンパンが好きだと。
味が好みなのはもちろん、色がピンクなところが可愛くて。
すると、西園寺さんは不意に席をたつと、バーテンダーのいるカウンタまで行って、
なにやら少し話したのち、軽く頭を横に振りつつ、席に戻ってきた。
「すまない。この店にそれはおいてないそうだ。次までにはとりよせておこう」
「西園寺さん・・・」
こちらから頼んだわけではないのに、とりよせまでしようとしてくれるなんて。
私のために、というその行動がただ嬉しかった。
そして本当に申し訳なさそうに、少し、寂しそうに微笑む西園寺さんの瞳に、頬が熱くなった。

メールの最後には一言、『待っている』とつけくわえられていた。
・・・西園寺さんはホストで。
お客さんに来てもらうためにいろんな・・・営業をするってことはわかってる。
このおとりよせもその一環。
そうと頭では理解していても、それならそれで彼のために行ってしまおうかと思ってしまう。
もしかしたら西園寺さんは、なにか理由がなければ来ないだろうとふんでいるのかもしれないけれど。
これで西園寺さんに会える、そんな気持ちを、もう否定することができない。
口実をつくってもらってほっとしている私は、とうに西園寺さんに惹かれてしまっているのだろう。

「いらっしゃいませ!」
元気なベルボーイの啓太くんに出迎えられて、こちらも自然と笑顔になる。
啓太くんは私をみると、ぱぁっと顔を輝かした。
「西園寺さん、ですよね?ずっとお待ちしてたんですよ!」
「えっ、ずっと?」
「えぇ!西園寺さんが、"彼女はシャンパンが来ない限りここには来ない" って言ってて・・・
でも、注文したときには品薄で、少し時間がかかってしまったんです。
で、本当にその間、いらっしゃらなかったじゃないですか。でも・・・ずっとお待ちしてたんですよ。俺たちみんな」
「っ・・・」
思いがけない啓太くんの言葉に、私はなんて返事をしたらよいのか、とっさに思い浮かばなかった。
啓太くんはそんな私の気持ちをほぐそうとしてくれているのか、ニコッと人懐こい笑顔を浮かべた。
「もちろん、一番首を長くしてたのは西園寺さんですけどね。毎日毎日シャンパンはまだか、まだか、って・・・
いっそ現地までとりにいってやろうか!なんて言ってたくらいなんですよ」
「ええっ?!」
西園寺さんがそこまで考えてくれていたなんて・・・啓太くんの話に驚きを隠せないでいると。

「啓太、おしゃべりがすぎるぞ」

凛とした、ききおぼえのある声。
声の方へ振り返ってみればそこには。

「・・・来たんだな。待っていたぞ」

私をみつめる優しいまなざし。
彼はちら、と啓太をみると、フッと笑った。
「彼女は私にエスコートさせてもらうぞ。ボーイに例のシャンパンの用意をするよう言ってきてくれ」
「はいっ」
啓太くんはぺこっと頭を下げると、足早に先にフロアへ消えていった。
「西園寺さん・・・」
「久しぶり、だな。もう、私のことなど忘れてしまったかと思っていたが、シャンパンのことだけは覚えていたようだな」
「そんな・・・私、西園寺さんからのメール、すごく嬉しかった」
「シャンパンが届いたことが嬉しかったんだろう?」
「ちがっ・・・」
やっぱりそんな風に思われてたんだ。
でもこんな状況じゃそう思われてもしかたがない。
そりゃシャンパンは嬉しいけれど、でもそれ以上に私は・・・

ただ、貴方に会いたくて。

けれど。
見上げた西園寺さんの表情は、皮肉めいたセリフとは裏腹の、とても優しいもので。
「ちがう?」
なにがちがうのだ?と暗に問われて、ドキン、と胸が高鳴る。

手をとられ、西園寺さんの腕に巻かれる。
その手の上に、西園寺さんの手がそっと重ねられた。
「シャンパンで・・・を釣ろうとしたのは私の方だ。あまりに古典的な手段で気がひけたが、に会うためなら、な」
「っ・・・」
心を蕩かす甘い言葉・・・
シャンパンを飲む前に、もう酔ってしまいそう。
「・・・おもいがけなく時間がかかってしまった。すまなかった」
「そんな・・・」
すまない、だなんて。謝られるようなことはなにもないはずだ。だけど。
「啓太が言っていたとおり、はシャンパンが届くまでここには来なかった。・・・来れなかった、と言った方が正しいか?
本当の淑女は、もてなされる理由がなければ意味もなくこのような場所へは来ない、そうだろう?
だけど私は・・・が私に、本当は会いたいと思っていると、そう信じたいのだ」
「西園寺、さん・・・」
「もっとはやくを招待したかった・・・会いたかった」
「・・・・・・は、い・・・」

私も西園寺さんに会いたかった。

その言葉を口に出すことは、できなかった。
まるでダンスを踊るかのように、ふわりとエスコートされフロアへと導かれてしまったから。
「いらっしゃいませ!」
店のあちこちから声がかかる。
案内されたテーブルには、私が好きなピンクのシャンパンが本当に用意されていて。
「さあ、おまちかねのパーティーだ。今宵は私と共に楽しもう」
西園寺さんの言葉に、喜びで体が震えてしまいそうになるのをなんとかこらえて、
笑顔でうなづくのが精一杯だった。
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