Peanuts Kingdom 学園ヘヴン クラブ ドリーム ヘヴン

クラブ ドリーム ヘヴン Girl's Side

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01.指輪

なにげなく立ち寄ったアンティークショップ。
アクセサリー類が並んだ一角の片隅に、それは置かれていた。
ふと目を引いたそれは、けして私好みじゃないのだけれど。
でも、なぜかそれをみた瞬間、あの人のことを思い出した。

「いらっしゃいませ!」
店の扉を開けると、明るい笑顔が私を出迎えてくれた。
「啓太くんて、いつも元気だよね」
そういうと、啓太ははにかんだように微笑んで、
「えっ、そ、そうかなぁ・・・でも、俺、それくらいしか能ないし」
なんて謙遜してみせる。
「ううん、そういうの、いいと思うよ。ああ、ここに来たなぁって気になるし」
「そうですか?なんかそう言ってもらえるのって・・・すごく、嬉しいです」
すこし頬が赤らんでみえるのは、彼が心底喜んでいるからだろうか。
彼の一番いいところはこの素直さじゃないだろうか。
こちらも思わず笑みがこぼれる。
「えっと、今夜のご指名はどうなさいますか?」
「七条さんはいるかしら」
「七条さんですね。ええ、お待ちしてますよ!ご案内いたします。足元、気をつけてくださいね」
啓太に手をとられ、ふかふかの赤ジュータンの上をヒールで歩く。
いらっしゃいませ、と店のあちこちから声がかかる。
ふと目の端にとまった男は、接客中にもかかわらず、私に気づくと軽くウィンクをよこしてきた。
王様ったら・・・。

「すぐ、参りますので、しばらくこちらでお待ちください」
啓太はソファに座った私のかたわらにひざまづくと、おしぼりを差し出してくれた。
「七条さん来るまで、啓太くんここに座ってたら?」
「ええっ!そんな、ダメですよ。あなたの隣に俺が座ってたりなんかしたら、七条さんに怒られちゃいます」
啓太はそう言って立ち上がってしまう。
う〜ん、啓太くんもはやくホストにならないかなぁ。

「おまたせしました」
案外早くに彼は私の元にやってきた。
いつもと変わらぬ穏やかな笑みをたたえ、七条さんは私の前にひざまづく。
おもむろに手をとり、私の瞳をじっとみつめ・・・
を一人にしてしまって、もうしわけありませんでした。おわびに」
と、チュッ、と手の甲にキスをする。
いきなり女王様のような扱いをされて、さすがにとまどってしまう。
「そ、そんな待たされてないから、そんなことしなくても・・・っ」
「はい。でも、なんのおわびもしないのは、僕の気がすみませんから」
「っ・・・もぅ・・・」
「フフ」
七条さんは立ち上がると、私の隣にふわりと座った。
とても背の高い人なのに、あまり存在感を感じないのはなぜだろう。
外国の血が混ざった高貴な顔立ちと、見事な銀髪のせいだろうか。
「なにか、飲みますか」
「あ、ええと・・・なにがいいかしら」
の好きなものなら、なんでも」
「うーん・・・」
「本当に、なんでもいいんですよ。もしこの店になければ、僕が外まで買いにいきますから」
「そ、そんなことまでさせられないわよ!えっと、甘いカクテルなんか欲しいな」
「はい、わかりました」
七条さんはニコと微笑むと、長い指でグラスを持った。
七条さんはいつもこうして、必要以上に甘やかしてくれる。
でもだから、私はいつもどこか遠慮をしてしまう。
ここはそういうお店なんだから、遠慮する必要なんかないってことはわかってるけど。
でも、七条さんの甘やかしに本気で溺れてしまったら、なんだかとても怖い気がする。

「はい、ザクロカクテルです」
「ザクロ?」
「美容にもいいんですよ。さぁ、どうぞ」
七条さんが差し出すカクテルグラスは赤い液体で満たされていた。
「なんだかこれって・・・」
「血、みたいですか?」
「うっ・・・思っても、そう、口に出さないで欲しいかも・・・」
「フフ、すみません。でも味は篠宮さんのお墨付きですから、どうぞ」
「ありがとう」
七条さんの紫の瞳がみつめる中、そうっとグラスに口をつける。
舌の上にひろがる味は、ほのかな酸味と爽やかな甘味。
「おいしい」
「でしょう?が来たら、ぜひ飲ませてあげようと、首を長くしてお待ちしてたんですよ?」
七条さんの口調がすこしすねたような物言いで、おもわず笑ってしまう。
「笑うんですか?」
「ううん、なんだか可愛いなって思って」
「可愛い?僕がですか?それはなんだか・・・照れますね」
そう言いながらも、七条さんに照れてる様子がみえない。
これってもしかして、すべて計算づくだったりするのかしら。
「でも、が来るのを待ちわびていたのは本当ですよ」
「えっ・・・」
なんか、私の考えてることをみすかされた?
はっとして七条さんをみると、彼はまた、「フフ」と意味深な笑みを浮かべた。

不思議な人。
つかみどころがなくて、なにを考えているのかわからなくて。
でも、こちらのことはみすかされてしまう。
彼の前では、自分をとりつくろうことなど無意味。
かといってすべてを暴くような無粋なことはしない紳士な人だから。
だから、そばにいるとほっとするのかもしれない。

「はい、これ」
バッグの中からとりだした小さな紙包みを手の平にのせ、彼にむかって差し出す。
七条さんはきょとんとした顔をして、軽く首をかしげた。
「これは・・・もしかして、僕に?」
「うん。ここに来る前によったお店でみつけたんだけど、なんかそれみた瞬間、七条さんのこと思い出して」
「僕のことを?」
「うん」
「・・・いただいても、よろしいですか?」
「もちろん。開けてみて」
「はい」
七条さんは私からうけとった包みを丁寧に開けていく。
そして、ちょこんと現れたのは。
「指輪・・・ですか」
繊細な銀細工のほどこされた、アンティークリング。
照明に照らされ白く輝いている。
「これは・・・かなり古いものですね。とてもすばらしい品です。でも・・・」
七条さんは指輪をつまみあげると、自分の指先にあてた。
「僕にはすこし、小さすぎるようですね」
「うん。たぶんぞれ、女性ものだと思う。でも、小指でも無理?」
「えぇ・・・小指でも無理のようです。残念ですね。ああ、でも」
七条さんはなにを思いついたのか、指輪をテーブルの上におくと、その手を首のうしろにまわした。
そして、胸元からとりだされたのは、やはりシルバーのペンダント。
その鎖にはムーンストーンが通されていたけど、七条さんはそれをとり、代わりに、指輪をそこに通した。
「ほら、こうすれば、僕でも身につけられます」
「えっ、でもそのムーンストーンはお守りになるからってつけてたんじゃ」
「えぇ。でも、がくれた指輪を身につけたいんです。僕にとってはこっちの方が、なによりのお守りですから」
「七条さん・・・」
七条さんは指輪の通ったペンダントを再び首につけると、それをシャツの中にはしまわずに見えるようにつけた。
「ねぇ、どうですか?似合いますか?」
七条さんの首で光る指輪は、もともとそこにそうしてあったかのように、もうなじんでみえる。
まるでこの指輪は、七条さんに身につけてもらえるのを待っていたかのように。
「・・・なんだか、複雑な顔をしてますね」
「えっ?そんな・・・そんなことないですよ、似合ってますよ」
「ありがとうございます。でも・・・もしかして、この指輪が女性ものであるってことをあらためて認識したら、ちょっと嫉妬してしまいましたか?」
「ええっ?」
「長い年月のあいだ、あまたの女性の指をかざってきたこの指輪が、僕の首にかかっている・・・これがもし、好きな相手のことだったら、僕だったら少し、嫉妬してしまうでしょう」
「し、七条さんっ」
七条さんはぐっと身を寄せ、深い紫の瞳でじっと私をみつめる。
そんな・・・見つめられたら、私・・・
「でも、僕がこれを身につけたいと思ったのは、からいただいた品だからですよ。がこれをみて僕のことを思い出してくれた・・・そのことを、僕もこの指輪をみるたび、思い出すことができますから」
「っ・・・」
「フフ」
七条さんが離れたのをみはからって、私はテーブルの上におかれたザクロカクテルを手にとって、一口、二口、三口と飲んだ。
胸が、心臓がドキドキいってる。
七条さんに口説かれるのは、本当に心臓に悪いっ
そんな焦ってる様子もきっと七条さんにはお見通しなのだろう。
七条さんはソファにゆったりと深く座ると、楽しそうにこちらを見ている。
「・・・なに笑ってるんですかっ」
「べつに、なにも」
・・・今夜の軍配は七条さんに決まりのようだ。
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