Peanuts Kingdom 学園ヘヴン クラブ ドリーム ヘヴン

クラブ ドリーム ヘヴン Girl's Side

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01.口ベタ?なシェフ

夜の闇に包まれた街に、
訪れる人を甘く、時に、妖しく包んでくれる場所がある。
クラブ・ドリームヘヴン。
美味しい料理と、お酒と、
かりそめの恋のかけひきを楽しむ大人の会話がさざめく。
そんな中で、彼のような存在は実は浮いているようにみえるのだけど・・・

「いらっしゃいませ!」
「こんばんは、啓太くん」
ドアボーイの啓太は夜の街にはまぶしすぎるほど明るい輝きを持った少年だ。
彼の存在が、ホストクラブという、一見、入りにくい場所を、
誰もが気軽に訪れることのできる、開放的な雰囲気にしているのは間違いない。
それでも、きちんと蝶ネクタイをしめ、タキシードを着ている姿は立派なドアボーイ。
「今夜のご指名はどなたになさいますか?」
「ええと・・・私は・・・その、食事をしに来たの」
私の意図をくみとった啓太はふわりと微笑む。
「はい、わかりました。では、カウンター席でよろしいですか?」
「えぇ、お願い」
「かしこまりました。では、どうぞ、お手を・・・」
啓太に手をとられ、中へエスコートされる。
店内のあちこちから、いらっしゃいませ!と声がかかる。
こういうのは、ちょっと苦手。
誰とも目をあわすことができなくて、本当、私はこういう場に慣れてないなとつくづく思う。
なのに一人で来てしまうなんて、我ながらものすごい度胸だ。
きゅ、と手を啓太に握られ、はっとして顔をあげると、
「大丈夫ですよ。俺がちゃんとご案内しますから。来ていただけて、本当に嬉しいんですから」
啓太はそう言ってにこっと微笑んだ。

通されたカウンター席は、ホストの指名をせずに座ることができる席だ。
カウンター席の少し離れた場所で、銀色の髪のホストが女性と話をしている。
長身の、端正な顔立ちの美男子であることは、暗い店内でもすぐわかった。
一緒にいる女性も負けずに華やかないでたちで、二人とも会話を楽しんでいるようだ。
「はぁ・・・」
思わずため息が出てしまう。
本当に、こういうところは苦手なのだ。
職場の女性の先輩に連れてきてもらうまで、こういった場所に足を踏み入れたことなどないのだから。
でも彼女はホストが目当てなのではなく、ここの料理がお気に入りなのだという。
そして実際私も、この店の料理のファンになってしまったのだ。
料理、と・・・そして、彼の。

「いらっしゃいませ」
「あ・・・」
いつのまにそこに立っていたのだろう。
カウンターの向こうで微笑んでいるのは、この店のシェフの篠宮さんだった。
本当はホストでもあるらしいが、あまりに料理の腕が良いのと、
実のところ、ホストに必須の話術がイマイチらしいこともあって、
もっぱらシェフとして働くことが多いらしい。
「今夜もまた食事だけか?」
「えっ、えぇ・・・」
そんな風に言われてしまうと、なんだか申し訳ないような気分になってくる。
お店としては、そりゃホストを指名して楽しんでもらった方がいいに決まってる。
でも私は・・・
「あ、すまない、そんなつもりでは・・・ここはホストがいる店だから、
ホストと会話を楽しまれる方の方が多いから、つい」
「あー、そう、ですよね。でも私、そういうの、ちょっと苦手なんで・・・」
「そうなのか。ここにいる連中は、気はいいやつばかりなんだが・・・機会があったら、話してやってくれ」
篠宮さんはこの店のリーダー的存在らしい。
本当は王様っていうNo.1ホストがいるんだけど、彼も篠宮さんには頭があがらないそうだ。
こんな風に、ホスト仲間のことを気遣う人だから、みんな彼を頼りにするんだろう。
「でもなんか・・・あそこにいる人たちなんか、みんなすごく華やかで。
あんな中に入ったら私なんか浮いちゃいそう」
「そんなことはない。今夜もとても綺麗だ」
「えっ」
意外な言葉にぎょっとして篠宮さんをみると、篠宮さんも「あっ」と口をおさえてしまった。
篠宮さんが、まさかそんなこと言うなんて。
「・・・今の、ホストっぽくないですか?そういう会話は苦手だって言ってたのに」
クスクス笑いながらそう言うと、
「い、いや、その・・・」
と、篠宮さんは照れてしまったのか、顔を横に向けてしまった。
篠宮さん、少し顔が赤いみたい。
「あー・・・俺だって一応、ホストの端くれだからな。
俺にはこっちの方が性に合っているからめったに席にはつかないが・・・」
「えっ、じゃあ、篠宮さんを指名することとかできるの?」
「いや、俺が席につくのはヘルパーの時だけだ。普段はこっちにいるから、
俺と話したいと思ってくれるなら、こうしてカウンター席に来ればいい」
「なぁんだ。ホストな篠宮さんも見てみたかったのにな」
「こら。はホスト接客されるのが苦手だって言わなかったか?」
「ん〜、篠宮さんにだったら、そういう接客されてもいいかも」
「んん?・・・ハハ、まいったな。これじゃまるで俺が口説かれてるみたいだ」
「うっ・・・」
た、たしかにそうかも・・・
かぁっと頬が熱くなる。
私ったら、篠宮さんの前だと意外と大胆になってしまうらしい。
だって篠宮さんと話すのは・・・なんだかとても気持ちが楽だから。
気負わなくて済むというか、自然な私でいられる。
篠宮さんが自然体な人だからかもしれない。
そして裏表のない、まっすぐな人だからかもしれない。
「からかってすまなかったな。だが、どういう立場であれ、俺がをもてなす役であることには変わりはない。
今夜も、のために腕をふるおう。楽しんでいってもらえるといいんだが」
「じゃあ、篠宮さんのおまかせにしてもいいかしら?」
「かまわない。苦手なものとかはないか?」
「うーん、酸味の強いものは苦手かな」
「わかった。・・・と、その前になにか飲み物だな。なにがいい?」
「ワインがいいかな」
「では・・・食前酒にあったものを」
篠宮さんは冷蔵庫から良く冷えたワインボトルを出して手に取った。
「ロゼだが、いいか?」
「えぇ」
コルクを抜くと、ぽん、と小気味よい音がした。
よく磨き上げられたグラスに、ピンク色のワインが注がれる。
「綺麗・・・」
「だろう?俺が好きなワインだ」
「篠宮さんが?篠宮さんてお酒強いんだ?」
「いや、強くはない。たしなむ程度だ」
篠宮さんは白いナプキンでボトルの口元を軽く拭く。
と、そこへ。
「おおい、篠宮、アレの作り方、教えてくれよ」
「丹羽?」
突然現れたのはこの店のNo.1ホスト、王様こと丹羽さんだった。
いきなりこんな間近でこんな大きな人を見ることになって心臓がはねあがる。
あんまりびっくりしちゃって目をそらすこともできない私に王様は気づくと、ニッと笑った。
「おっと・・・今夜は篠宮にもこんな可愛いレディーが来てたとはな」
か、可愛いって・・・王様と会うのははじめてなのに、いきなりこんなこと言われちゃうなんて。
さすがNo.1ホストって感じ?
でも私はちょっと・・・許容量オーバーしそう・・・
「こら、丹羽。彼女に手をだすな」
す、と目の前に篠宮さんの腕が現れ、私をかばうように王様と私の間を阻んだ。
はっとして篠宮さんを見ると、篠宮さんの表情がいつになく真剣で。
そんな篠宮さんの顔、はじめてみた・・・心臓がまたドキンと飛び跳ねる。
「なんだよ、つれねーなぁ。安心しろ。ひとのレディーを横取りするほど無粋な真似はしないさ。
それに、今夜は俺にも、もてなしたいお嬢さんが来てるからな」
「だったら、おとなしくこっちに来い。教えてほしいことがあるんだろう」
「へいへい・・・ったく、篠宮のやつ、おっかねーの。こんなのがそばにいたんじゃ、俺の出る幕がねーや」
王様はそう言いながらも、私にむかってパチンとウィンクなんてしてみせる。
「丹羽」
不機嫌そうな篠宮さんの声に、王様は肩をすくめ、おとなしくカウンターの裏へと歩いていった。
王様は篠宮さんにカクテルの作り方をきいているようだ。
体躯のがっしりした王様と並ぶと、篠宮さんは小柄にみえるけど、でも、
すらっとしていて、けれど肩や胸のあたりはがっしりしていて。
さっき私をかばってくれた篠宮さんの腕や手も・・・

「さっきはすまなかったな」
王様が戻っていったあと、篠宮さんは申し訳なさそうにそう言った。
「えっ・・・」
「いや・・・その・・・いやな思いをさせたんじゃないかと思って」
「王様・・・のことですか?」
「ああ。はホストのことはあまり好きではないのだろう?」
「えっ、い、いや、別に嫌いってわけじゃあ・・・」
「・・・そうなのか?では・・・俺はよけいなことをしてしまったのか・・・」
篠宮さんは悲しげに眉根をよせ、視線を床に落としてしまった。
「ち、ちが、ちがいますってば!そんな篠宮さんがよけいなことしたとか、そんなことぜんぜんないですからっ」
「そう、か・・・?」
「だって私、嬉しかったですから!篠宮さんにかばってもらえて・・・その・・・」
・・・なんか恥ずかしくなってきた。
こんなこと、本人の目の前で・・・
「・・・よかった」
うつむいてしまった私の頭上で、安堵したような篠宮さんの声がした。
思わず顔をあげると、篠宮さんは優しい微笑を浮かべて私をじっと見つめていた。
「俺はあまりホストらしくないから、女性と話す機会もあまりないし、正直、話すのも苦手だ。
けれど、と話をするのは楽しいと・・・それはきっと、が・・・その、
他の客とは違うからだと思っていた、から・・・」
「篠宮さん・・・」
「ありがとう。来てくれて。・・・さぁ、料理にとりかかるとしよう。の食べたいもの、なんでも作るぞ」
篠宮さんは照れた笑みを隠すかのように横を向くと、腕まくりをしはじめた。
あれはどうだとかこれは美味しいぞとか、てきぱき動きながら話す篠宮さんはまさに水を得た魚で。
さっきまでの照れた様子はあっというまにふきとんでいってしまったけど。
でもあんな顔をみれたのは、やっぱり嬉しい。
あんな顔をみせてくれたのは、私だけ?ってうぬぼれたい。
自分はホストには向いてないなんていいながら、しっかり私の心をつかんでるじゃない。
なんか悔しいなと思いながらも、でもやっぱり幸せな気分に包まれてるのは心地いい。
カウンターで頬杖つきながらワインでも飲んで、今夜は篠宮さんの手料理で甘やかしてもらおう。
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